見出し画像

平成の舞台芸術回想録(7) 玉田企画「あの日々の話」

2010年以降に活躍が目立つポストゼロ年代演劇の代表的作家としてままごとの柴幸男と木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一による作品を取り上げたが、彼らの世代に続く新世代の代表としてはともに青年団演出部に所属する玉田真也(玉田企画)と綾門優季(キュイ)が双璧といえるだろう。
 そのひとりである玉田真也の代表作が玉田企画「あの日々の話」である。この舞台はカラオケボックスでの一晩を描き、大学生サークルにありがちな軽いノリが引き起こす気まずい出来事をきわめてリアルな筆致で描きだす。
 次年度の会長・副会長ら役員を選出する投票が行われたそのサークル(軟派テニスサークル)にとっては重要な会合が終わった日の深夜。朝までコースとして2部屋が確保されたカラオケボックスの1室が舞台だ。
 メンバーの男たちがその場の悪乗りで女性メンバーのバッグを開けて避妊用具を発見。「この子とならセックスができるんじゃないか」と誰かが言いだし盛り上がったところから、女性会員を対象にした男たちの妄想が暴走していく。
 ここではその一部始終がまるでのぞき穴から目撃したかような細密な描写で描き出され、観客はその場に居合わせたかのような気まずい空気を体感していくことになる。
 だが、玉田真也の作劇・演出の妙味は「笑いが目的」と本人が話す通りにこうした気まずさを笑いへと転化させていくところだ。笑いを中心主題として掲げた劇作家には三谷幸喜ケラリーノ・サンドロヴィッチらが挙げられるが、玉田の純度の高い笑いはそれに匹敵しうるとさえ考えている。
 カラオケボックスを舞台にした群像会話劇といえばポツドール「男の夢」(2002年、駅前劇場)が想起される。年代からして地方出身の玉田が直接この舞台を見たとは考えにくいため、本人に確認したところ「男の夢」は高校生の時にテレビの「劇団『演技者』。」で三浦大輔の脚本を映画「モテキ」で知られる大根仁がドラマ化したのを見て感銘を受けたという。
 舞台の初日アフタートークでも玉田は「カラオケボックスを舞台にした芝居がやりたかった」と語っており、ポツドール(=三浦大輔)の「男の夢」への玉田なりの挑戦という意味合いがあったかもしれない。
 もっとも「男の夢」と今回の「あの日々の話」には決定的な違いがある。それはどちらも空気感としてのいやな雰囲気、あるいはいたたまれなさを観客も共有することになるのではあるが、三浦作品では男の側からの女性への妄想だけが一方的に描かれただけだったのに対し、玉田は途中で「寝部屋」と呼ばれているもうひとつの部屋にいる女性たちのことも同時並行で描き出し、観客に対してのみ登場人物が俯瞰できるような視点を提供することで、男たちの間抜けさ加減を強調し、それを笑いへと転化させていく。そこに玉田の持ち味があるのだ。
 「あの日々の話」は自らの手で映画化もされて、その際には「男の夢」の作者の三浦大輔から剽窃ではないかとの抗議があったようだ。映画には結局、三浦大輔の作品に影響されて創作されたというような意のクレジットが入ることになったが、正直言って私個人の見解ではここまでに述べたようにカラオケボックスの中で起こった出来事を群像劇で描いただけの共通点しか持たないこの作品を剽窃とするのは無理があると思わざるを得ない。
 青年団の演出部に所属して、演劇に軸足を置きながらも最近は映画製作に手を染めたほか前田敦子の主演で話題となったNHKドラマ「伝説のお母さん」*1の脚本(やはり青年団演出部に所属する大池容子との共同脚本)を手掛ける*2など映像畑の仕事にも手を広げている。俊英が多い青年団演出部の劇作家・演出家の中でも注目のひとりと言っていいだろう。

https://hatenablog-parts.com/embed?url=http%3A%2F%2Fspice.eplus.jp%2Farticles%2F65513

spice.eplus.jp


spice.eplus.jp


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?