五月蝿いほど太陽が照りつける夏。彼女との同棲が始まった。彼女との暮らしが始まったのは自然の流れではなく。急なことであった。まず、出会ったのも彼女が働いていた飲食店で、私が足しげく棲みついていたのがきっかけであった。関係値が急速に高くなったのは、彼女がその日ベロベロに酔っており、私はノコノコと肩に寄り添いながら家まで送っていったのがきっかけである。私は、その日から今まで彼女の家に棲みついている。付き合うとか大好きだとかは、お互いこの年齢になると恥ずかしくて言えない。言わないことが美学なのかもしれない。この夏は私にとっても生きた上で最高の思い出となった。海というところにも行った。そしてなにより、彼女の裸を見る機会が増えた。私は彼女の首元やふくらはぎに愛情の跡をつけることが何よりも好きだった。それが
生きがいであり、何よりも私が私として生きるすべであった。時間は忘れるように過ぎてゆき、季節というものが感じられなかったのか、急激に身体が寒くなった。私は、彼女の肩に寄り添いながらしばらく眠ってしまった。
ふと目覚めると、私は彼女の家の床に寝ていた。春だ。心地よい春だ。希望の春だ。この高揚感に浸っている暇もなく、すぐ違和感を感じた。部屋にもう1人、人間がいる。とてつもなく大きい。誰だ。何者だ。彼女とは違う匂いがする。くさい。近寄るな。やめろ。「おい、蚊が飛んでるよ」その声と同時に私の身体はぐしゃぐしゃになった。愛した人の血が溢れ出て、私を包み込んだ。

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