240210帰結

 ソウルの旧正月は年々、旧正月っぽさがなくなっているのをひしひしと感じる。20年近く前はほとんどの店が閉まりゴーストタウンのようだった旧正月の弘大も、今年はそれなりに人通りがあり、営業している店も増え、いくつかのアニメグッズ屋や誕生日イベントカフェが普通にやっていたりする。景気が悪くて旧正月に配達のバイトをする自営業者も多いと聞くが、そういう影響もあるのかもしれない。

 ニッチ産業の当店は毎年普通に営業。
 日本人の私たちに覚えたての日本語を使ってみたいというお客さんが、普段からたびたび現れる。今回は、若いカップルに日本語でこう聞かれ、一瞬何を言っているか分からず戸惑ってしまった。
「韓国まで来て、働いていますか?」
 まで、とは? 日本でいいのにわざわざ韓国なんかにやってきて、という意味だろうか? いちど頭の中で韓国語に翻訳し再び日本語に戻すことでやっと理解できたのだが、この「まで」は動作の帰結を意味し、つまり「韓国に来て」という意味でしかない。しかし「まで」とは、よくよく考えると難しい単語だ。「韓国まで行く」ならそれほど気にならないが、「韓国まで来る」となると、来るという動作に深い意味があるように感じてしまう。
 ここまで考えて、私はゆっくり日本語で答えた。
「はい、そうです」

 10年以上前から、旧正月と旧盆当日に必ずやってくる、同年代の夫婦のお客さんが今日も来てくれる。良い日である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?