240310比喩
妻がテニスをしたいというので、初めて無人テニス場とやらに行ってみる。近所のビルの地下1階にそれはあった。採光は全くなく、天井高も普通のオフィスと変わらない倉庫のような空間に、アクリル板とネットで区切られた半分の大きさのコートが3つ。係の人は誰もおらず、勝手にコートに入ってタブレットを操作すると、ボールがぽこぽこ飛んでくる。
30分間もくもくとボールを打ち返す妻を眺めながら、ここは私の知らない韓国だと思った。前から知っていたビルの一階に、こんな空間があったなんて。20年近い滞在で韓国、少なくとも弘大・新村のことは何でも知っている気になっているが、知らないこともまだたくさんあるという当たり前のことを思い出させてくれた。
昔みたいに知らないドアをどんどん開けていきたい。比喩ではなく。開けて気まずかったら外国人のふりをすればいい。
その帰りにいつもと違う道を歩いていたら、新村にある、たまに利用している庶民的なスーパー、明らかに腐っているイチゴを半額以下で売るぐだぐだなスーパーなのだが、その隣の隣におしゃれスポット聖水洞にありそうな煉瓦ビルがあるのを今さら発見してびびった。
コワーキングスペースやブランチカフェといった意識高そうな空間が入店していて、どこかの階にはレコードバーでもあるのだろう、クラブミュージックが漏れ聞こえてくる。そこだけ知っている新村(親父たちがコンビニのテーブルで酒盛りをしている新村)ではなく、まさにパラレルワールドに迷い込んだ気分だった。
いつものスーパーのちょっと先にあるパラレルワールド。そこには腐ったイチゴもテーブルに放置された焼酎も存在しない。近い将来、この町もまるごとそうなってしまうのか?
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