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彼方

血を分けたはずの肉親が彼方からきた遊星Xの住人にいつのまにか、なっていて、私とは違う言葉で叫んでいて、私はいうことをききたくないので、そもそも何をいっているのかわからないので、だけど目や鼻や口は同じ数だけついているので、その姿と形で、ああ、きっと、命令なんだとそれだけはわかってしまうので、どうしてこの血であるかぎり、あなた方にそんな資格があると思うの、と訊きたくなってしまった。 〇月×日

この星にしがみついているだけなのに、なんて冷たい海にいるのと、まるでここには太陽がいないみたいにいってきて、自分がどんどん人間でなくなって、魂だとか心だとか気持ちだとか感情だとか、私の中のどこにあるんだかわからない、だけど確かにあるそのすべてを生んだ人や、自分より先に生まれた兄弟が、どんどんどんどん、自分を剥がして、めくって、苦しくさせて、だからどんどん鏡が嫌いになって、使える言葉もどんどん減って、だからどんどん孤独になって、自分自身もどんどん減って、それすら全部、正しいことのようにふるまう、私の家族。 ▽月□日

対岸に見える女の子たちは私がいつか愛した人たちで、だんだんと顔がおぼろげにいたから、遠くに見えるぐらいのほうがまだ、美化された彼女たちよりは、いくらかはっきりしていて、そういえば私はあなたがたの裸を知っていたはずなのに、もうどんな肌だったかもわからないし、どんな下着をつけていたのかもわからなくて、どんな声だったかもどんな吐息だったかも本当にあなたたちだったのかもわからなくなって、というかきっと全部嘘だったのかなって不安になって、この河の大きな隔たりのほうがとてもリアルで、私は誰の裸もいまだに知らない、どんな橋も渡れない、どんな彼女も遠くにいて、私を見ているだけのようでこの世界では恋人も家族も何も同じ岸にはいないみたいでその舟もない ☆月◎日


もうすぐ世界が終わるらしいときいて、だけど新しい世界がすぐにくるともきいて、今ある世界から新世界にもっていけるものが一つだけあるってきいて、じゃあ何を持っていくって、ここから彼方へ、持っていけるものが何もないって、泣きはらしていたら貴方がいた。今の世界の意味がその瞬間腑に落ちた。この世界はあなたが新世界に行くためだけにあって、私は旧い世界の神様だからいつ終わらせてもよかったんだ。なんだ。どうでもよかったんだ。うれしいね。あなたのためだけに。その資格があるのがたとえ私だけではないとしても、終わらせられるのは、私だけ。それ以外のすべてを許せる。新世界に貴方がいれば構わない。どうか覚めないでほしい、この夢だけは。◆月▷日


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