束ねる季節

暴露



酔っ払った
アシュレイが
ついつい
口を滑らせた。

「絶対、誰にも言ってはいけない
国家機密を
教えてあげる。

日本語で 書かれた本を ひらいたら
いたるところに
ついている
本の、メールの、さいごの「。」
どれでもいいから、
じーっと、
じーっと、
見てごらん。

全てのまるは
ゆっくりと
自転している、
君が昔書いた作文の
全てのまるが
たとえ実家の引き出しにあっても
回り続けているだろう
あれはすべて 小さな星さ

今生きている
ぼくらの星も
だれかの終わりに添えられた
ただの記号に
他ならない」



彼女


橙色の
ビルとビルを見上げて
いつか私も死ぬのかと
モグラは思った

モグラというのは
彼女のあだ名で
実際はウーマン

せっかく地上になれてきたのに
死んでしまうとは何事か
明日私に羽が生えても
靴を履いて
歩きたい

手のひらを太陽に
などと歌って
春を待つのだ





竜がかわいそう


-――  世界中のスーパー
そこかしこに置いてある
ニワトリのたまごの中に
一つだけ
竜の卵を入れておいた
やめてほしければ
明日の正午までに
伝説の夏を一つ
用意しろ -――

というようなことが
てんでんばらばらな紙が貼られた
あの、テレビで見るような
怪文書そのもののように
封筒に入れられて
僕のポストにはいっていた

用意しないと大変だ
竜が誰かに育てられたら
ソドムとゴモラのようになる
僕の恋人も 警察も
それはそれは 慌てていた

どうして僕にそれが届いたのか
それだけが 僕は気になった

恋人は向日葵をもってきた
「これでどうにか、ごまかせないかな?
一枚だけホンモノで あとは新聞紙にするの」
花を何枚 束ねたら
あの、テレビで見るような ものになるのか




片思い


ふと扇風機のプロペラの
四枚ある、角度の違う羽に
はるこ
なつお
あきよ
ふゆき

名をつけて
スイッチを押す

目にもとまらぬ速さで、
はるこはなつおを
なつおはあきよを
追いかける
あきよはふゆきを
ふゆきははるこを
追いかける

切なくなって
わたしはプロペラ
風に向かって
あーといった





フリーハンド


ぱりぱりぱっぱと
フリーハンドで
円を描いて
母なる父なる大地なる
海なり山なり上手だね

へのへのかっぱと
フリーハンドで
クソをまるめて
それだのあれだのアソコだの
発売禁止になったらしい

自由に描けというけれど
描いてはいけないことばかり
危ないレコード聞きたいよ
いけない夜でも会いたいわ

ぶんぶんぶくぶく
フリーハンドで
線をのばして
嘘でも夢でも希望でも
恋して愛して抱きあって

自由に生きろというけれど
やってはいけないことばかり
買えない洋服着飾って
いわない約束破っちゃう

自由な両手でなんだって
つかめないもの ないんだぜ
君の左手しゃべらない 君の右手も黙ってる
フリーハンドを使ってる それが誰だか知ってるか




別れ話


しりとりで負ける原因になった
たくさんのことばたち
ちりとりにかきあつめていると
途端にほうき星のような
涙が落ちて 掌に当たった
頼むからもう 嘘はつかないで
できることなら 来世も変わらず
ずっと一緒だと ところかまわず囁き
気がついたときには
発火していた

タイムマシンがあるならば
馬鹿なことをいうなと
とめにはいることができたのに
二度と戻すことはできない

いわないで
「でも」も「だって」もない
いい加減にしろ ろくでなし
死ねばいいのに 憎らしい人

ところどころ
ロマンチック
くすぶり続ける
ルールみたいだ

だからぜんぶ
文面に書いたら
ラブレターになった
ただただ 抱きしめた
たくさんの秋が
がっかりしている



エクスプレス毒きのこ


みんな寝ている
時間になったら
エクスプレスに
乗るきのこ
ぼくを食べたら
お互い死ぬよ

森から森へ
住処を変える
のこのこなんて してらんない
夜が漏れだす車窓から
丸や四角を目で追って
深海のころが蘇る

ホームで見送る白樺は
大きくやさしい
視線を送る

きみが座っているあいだ
六十億の星が降る
さよならまたね
エクスプレス毒きのこ
私のそばに
生えていたころ
忘れないから



2019年作 「束ねる季節」より

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