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砂の惑星で鳴るは真に異世界の音か?

ヴィルヌーヴ版『DUNE』を池袋のでかいIMAXで観たのだけど、SF映画を更新するような出来で、もし今後続編が公開されるのなら容易に本作を超えてきそうなので傑作と呼ぶには尚早かと思い、まだ傑作、とは言わないでおきたい。脚本に関しては、そもそも原作があるし、なまじリンチ版を観てしまっているものだから、それが悪い意味で邪魔をして評価しづらい、というのも正直ある。リンチ版観てない人が羨ましいほどだ。
しかし御託を並べてはいますが、とにかくすごい映画だと思う。IMAXの威力もフルに発揮され、映像も音響もすごかった。監督の美学が映像と音響の隅々に行き渡り、まるで質量を伴う気配のようにしてたちのぼってくるのだった。

さて、映像に関しては門外漢なので評するための語彙も少ないので書けないが、音楽に関してはいくらか考えたのでした。

スコアを担当しているのはあのハンス・ジマーである。ハンス・ジマーはかなり王道なスコアも書いてきた印象だが、『ダークナイト』ではミニマルミュージック的アルペジオの縦の執拗な反復、『インターステラー』ではアルペジオではなく音を奥行きで前後させたり音圧の加減を多様する面の動き、という印象を受けた。特に後者の方法は『ブレードランナー2049』(これもよくぞあの無謀な企画をあそこまでの映画作品したもんだと思う)でも多用されていた。ように思う。1回しか見てないもんであれだけど、そうだったはず、確か。空間やマシン、人物の状態などとサウンドが一緒になり、観るものに強烈なイメージを与えている。これらに関しては以前のジマー作品でもみられたのかもしれないが、特に『ダークナイト』以降の強烈な音とイメージが個人的には印象に残っている。この『DUNE』では、それらの手法の合わせ技がさらに洗練されていたように思うのだ。SFと現代音楽の組み合わせの文脈でいくらでも語れるのだろうけど、ポップでわかりやすいうえに古今東西さまざまな音楽を上手いこと落とし込んでる、流石すぎるジマー先生。ものすごい手腕だと、アカデミックな素養のない僕でも思う。そしてジマーにそこまでさせたのは、今作では、“一見馴染みがあるようで、しかし地球の音楽とは違う理の音楽のように聞こえる音楽”を目指すことが、ある程度必要だったから、というのが重要な一因である、とエンドロール観ながらボケっと考えたのだった。

聞いた感じ、音階や楽器も、既存の地域や民族の音楽をモチーフにしつつ、ギリギリの寸前のとこで避けているようだった。うまくズラしている。異世界物を描く際に、もろに聞いたことのあるようなスコアを持ってこられると、登場人物、国など団体やアイテムなどが地球の歴史上の実在するモノやイベントのメタファーに成り下がってしまうし、そもそも『SW』もそれこそ『DUNE』にも物語的にはそういうメタファー的側面はありありだし当然自覚的にだが、あまりに安直な演出でそれをやられると、じゃもう舞台地球でよくね?とか、歴史から学ぶだの現在を描く、など説教臭くなったりスケールが小さくなったりするものである。『SW』はもう、そういうもんだからもう良いとして、『DUNE』にはそれらを超えて本当に地球じゃない世界を描くという、避けられない宿命があったように思う。だってあのDUNEですよ。みんなが失敗してきたDUNEを今更成功させるなら本気で異世界を描いてこれまでの宇宙ものSFを余裕でぶっちぎらないと意義がないし、ヴィルヌーヴがやるというのはそれを求められてのことだろう。もちろん人間が作った物語である以上、実在のイベントのメタファー化は避けられないし、避けようとしすぎても不自然になる。無理にやっても人間には理解できない演出になるだろうし、音楽もやはりある程度人間に理解できる音楽にしておかないといけない。今回のジマーのスコアはそのあたりのバランスを求められたのだ、と想像している。で、実際、すごく聞きやすくかっこよく、でもかなり「異世界」っぽい音になっている。執拗に分解すれば当然既存のモードや拍子に微分できるが、映像と相まって割と本当に違う世界になっているのである。すんなり伝わるけども、十分異世界らしい音、だ。あれだけの音が、すんなり伝わるというのもすごい。それは本当に異世界の音だからではなく、異世界の音、のような音楽だからだ。


蛇足だが、それだけに、一つだけ個人的にまるで納得行かないシーンがあった。そこはジマーではなく監督の演出判断だろうと思うので、そこはまあジマーのせいじゃない、と納得しているがヴィルヌーヴには「おい、あれどういうつもりだ」と聞いてみたい。まあもちろん、聞く機会などまるで無いのだけれども。でも本当に聞いてみたい、「もっとこう、さあ。なんでよ」みたいな。…まあいいか。

でもとにかく、エンドロールの一番最後まで全く席を立つ気にさせないスコアだった。本編には登場しないエンディング曲もそれはそれはシンプルにかっこいい。最近やってる古今東西ごちゃまぜにした巨大楽団でのライブツアーも反映されているのだろうか、かなりフィジカルな音楽に聞こえる部分のバランスが絶妙で、そこもあの楽団っぽい。

そして蛇足だが、サウンドを加工しまくり例えばエレキギターに聞こえないエレキのサウンドには、なんだかモリコーネから続く歴史にも考えをはせさせる。エレキギターなど存在しなかったアメリカ開拓時代を舞台にしたマカロニ・ウェスタンで、あえてエレキのサウンドを鳴らしたのはモリコーネだが、今となっては当然のマッチングのように思われている。砂漠に揺れる陽炎そのもののようなトレモロ・ギターサウンドも、当時のことを考えると相当大胆で革新的だったのではなかろうか。だって開拓時代にエレキギター、無いし、おかしいじゃん。異世界だ。だからジマーのスコアもそれくらいすごい、と言いたいわけでも別にないが、とにかく今回もハンス・ジマーの映画スコアは映画音楽それほど詳しくない耳にも相当面白かったのである。砂の惑星では、人間の耳にもものすごくかっこいい、あくまで異世界らしい音が鳴っていた。


ところでもっと蛇足だが、C.ノーランってヴィルヌーヴのことどう思ってんだろ。『TENET』面白かったけどもういっぺん観る気にならんのは、なぜだろう。うーん。などと『DUNE』のめっちゃかっこいいエンドロール観ながら考えていた。

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