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オンライン父さんの混沌

「アハハ・・・」
男はヘッドフォンをつけて、PCの画面に向かって大笑いをしていた。
「バカだね、この男・・・」
背中越しに、声がする。
「あの・・・、エナマエ様?」
膝枕ニーナが声を掛けるが、ヘッドホンをして動画を見ているので気づいていないらしい。
「エナマエ様・・・何見てるの?」
男はやはり気づかない、相変わらずの大笑い。

膝枕ニーナは手近な所にあった、テレビのリモコンを小股に挟み、男の背中に向かって投げつける。
『ゴチン!』
鈍い音をたてて、リモコンが尾てい骨にぶつかる・・・・
「うぐっ・・・!」地味に痛い。
骨の中から振動が、後頭部へジ~ンと伝いあがってくる。
突然の不意打ちに男は、リモコンの発進元をにらみつけた。

「何をするんじゃ、いきなり!痛かろうが!」
「エナマエ様だけで楽しんで、ニーナ寂しいんですけど!」
こちらはこちらで、ぴょんぴょん跳ねながら、怒っているらしい。
「ニーナさんが座布団の上でウトウトしながらTV見てるから、気を使ってヘッドホンで動画を観てたんだよ。」
「自分だけ楽しそうにして、私も混ぜてくれても良いじゃないですか。」
ニーナは、ニーナで負けてはいない。
「はいはい、すみませんでした。わかったよ、分かりました。」
「わかればよろしい。ところで何を見てたんですか?」
男はにっこり笑って、膝枕を見つめる。今すぐ語りたい聞いて欲しいを前面に押し出し、膝枕に急接近。「知りたい?」
「もう少し離れてください、気持ち悪いです。」

「これはね、少し前に流行った、『単身赴任夫と妻と膝枕と女』ってドラマでな。最近、Hizazon動画にアップされててさ、面白いって聞いたんでな、観てるんだけど、これが本当に面白くってな、ドツボ !同じ単身赴任者だけど、この旦那、俺とは正反対で情けなくってね・・・オヨヨ〜なんて😰」
男は自慢げに動画の内容を話し出す勢い。

「ちょっと待って!その動画ならですね。知ってます、先日エナマエ様がお仕事に行っている間に観ちゃいました、誰かさんそっくり。面白かったですよ。てへ。」
膝枕が膝をすくめて、定位置の座布団へと帰っていった。
「この・・・!腰痛め損じゃん。」

『ピ~ン・ポ~ン』
休日の朝。単身赴任中、打ち込める趣味もなく、その日の予定も特になかった男は、チャイムの音で我に返った。(それはもういい?)

あれ?ヒザゾンで何か買ったかな?「はーい。どちら様ですかっと」
『ガチャ』扉を開けるとそこに、背のあまり高くない一人の女性がニコニコして立っていた。
男は、開けたばかりの扉を一気に閉じた。
のぞき窓から扉の外をうかがうと、いきなり外向きに扉が開かれる。
やっぱり、その女性は立っていた・・・。
「何よ、いきなり閉めて。」
「そうだっけ?」
男は表情をこわばらせたまま、声を掛けた。
「やあ!どうしたの?き、来たんだ?な、何かあった?」
「あれ?急に来ちゃダメ?」
女性はずいっと玄関の中に入ってきた。

「いや、問題ないよ、連絡なかったからびっくりしただけ。うん、うん。」
「お兄ちゃんも就職したし、次男も高校に入って手がかからなくなったから様子見に来たの。上がっていい?」
「えっ、もちろん・・・って。ちょっと待って。」まずい、居間にはニーナが座布団の上に鎮座してる。
「何?どうしたの駄目なの?」
女性の見上げるような視線が突き刺さる。
「いや、駄目じゃないよ。駄目じゃないけど散らかっててさ。」
「散らかってるなんていつものことじゃない。」
「いやー、あれ!仕事...そう、仕事の書類がさ~」
「良いわよ、一緒に片付けてあげるわよ」
男が静止するのも聞かず、女はズケズケと部屋の奥へと踏み入っていった。

部屋の中をぐるりと見まわす。「意外とキレイな部屋ね」
「まーね」
すると、部屋の角の座布団型充電器に鎮座する、膝枕の姿が目に入ったらしく。思わず口から洩れたらしい。「あっ!あれ。」
男の表情が一瞬にして固まった、背中には一筋の汗が流れたものと思われる、男は焦りの為か、しどろもどろに反応した。
「あっ、あれね。あれはねサンバ!なんだ。サンバ」
「サンバ?サンバってなによ?」
「動く掃除機」
「腰をフリフリって?こんな狭い部屋に?それを言うなら、ルンバでしょう。ルンバなんて必要ないよね、それにそんなに部屋片付いてないし。」
「そうだっけ・・・あれ?だったら、Siriそう。はーいシリって」
「言い間違えたって?まぁいやらしい。何よSiriって初めて聞いた。確かに可愛いお尻だけど、どうやったら間違えるの?」
「何となく・・・でも似てるよね?」
「似てない!そうなんだSiriね。ハーイシリ、いい感じの音楽流して?」
それまで黙っていたニーナが反応した。
「失礼です、二人して人の事をお尻、お尻って。音楽ならスマホさんに言ってください。それに私は、尻なんて名前じゃありません!ニーナです。」
「ニーナ黙って」
「あれ〜、ほ~らお尻じゃ無いって言ってますけど~?」
男は女と、ニーナの間に割って入る。がしかしニーナも負けてはいない。
「私はナイチンゲール型膝枕のニーナですが、貴女はどなたですか?」
「ハ~イ、はじめまして、私はねこの人の奥さんです。ニーナさんよろしくね。」
男は、アワアワと落ち着かない。
「そう、そう思い出した膝枕なんだよ。体脂肪とか測ってくれるやつ。決しってやましいもんじゃないよ、膝枕は膝枕であって、その〜膝枕」
「膝枕なんでしょ、知ってるわよ。私があなたに膝枕の動画紹介したんじゃない。」
「ハハハ、そうでした。」

「変な女連れ込まれるより良いけど、高かったんじゃないの?」
すかざすの妻のカウンター
「いやー、ソンナコトナイヨ、、、新商品でお試し特価で、そのーなんだつまり・・・」
「良いわよ、調べればわかるし。昔からあんたのガジェット好きは召致してます。」
「だよねーハハハ」
「そうですエナマエ様は無駄遣いです。先日もラジコ...」
思わず男はニーナに座布団を被せた。
「ニーナさ〜んラジオを聴きたいのかな?」
「エナマエ様何をするんですか~」
「あらあら、仲のよろしい事。なになに?ニーナちゃん、二人だけでお話しましょうか?女同士で」
男はどうしても話をそらしたい。
「おい、長旅で疲れただろう。久し振りだからさ、二人で外にメシ食いに行こうか?」
「えーっ、今来たばっかりだし。せっかく、本物の膝枕に会えたんだし、ここでゆっくりしたいな。おしゃべりができる膝枕なんて初めて見たし。そうだ、あなたが何か作ってよ。」
「えーっ」
「えーっ、エナマエ様、お料理出来るんですか?いつもスーパーの半額弁当か、外食ばかりだから、料理できないと思ったました。」
「この人ね、自宅にいたときは良く夕飯作ってくれてたんだよ。肉じゃがとか、カレーとか、シチューとか私より上手かもよ。」
「ハハハ、ジャガイモと玉ねぎと人参とお肉があれば出来る料理ばかりですね。」
「うるさいわい」男は膝枕をにらみつける。

「ところでさ、全然痩せてないけど大丈夫?」
「何が?」
「健康診断!前回出掛けるとき、絶対痩せるから楽しみにしてろって、秘策があるからって、言ってたじゃない。」
「そうだっけ?」
「そうなんですよ、聞いてくださいよママさん。エナマエ様ったら最近はちっとも運動しないですよ。せっかく買ったサウナスーツもちっとも着てくれないし」
「おい、ニーナ何を言いつけてるんだよ。」
「大丈夫よニーナちゃん、何でも私に教えてね。この機会だから自炊に切り替えさせようか?ちょっと、冷蔵庫の中、酎ハイと発泡酒しか入ってないじゃない。監視してないと何もやんないんだから」
妻はせわしなく、室内を物色している。
「ちょ、ちょっと俺だって仕事で疲れて帰って自炊なんてしたかないよ。」
「あれれ?何いってんの、まだまだ働いて貰わなくっちゃ。次男が大学行くなんて言い出したらどうするの?老後の資金も無いし、住宅ローンも75歳まであるのよ、あなたの健康のため、ひいては家族のためです。」
「そうですよ、エナマエ様。ニーナがいつも口酸っぱく言ってるじゃないですか。エナマエ様の健康のためです。」
「そんなこと言って、ニーナ最近膝枕させてくれないじゃん」
「なに、膝枕ってやらしい。やっぱりいやらしいことするために買ったの?」
「そんなんじゃないよ、膝に頭を乗っけると、体脂肪とか測ってくれんの。」
「へーそうなんだ、私も測ってもらおうかしら。動画の人の膝枕はそんな機能があるって言ってなかったわよ、新型って賢いのね、おしゃべりもできるし、寂しく無いでしょう、良いわね私も買っちゃおうかな」
「ニーナちゃんは賢い進化版なのです。ちょこんと乗せればピタリと当たる。」
「易者かお前は!」
「へー偉いね、そんな機能があるのね。あんたもしっかり測ってもらいなさいよ。それでちゃんと報告してね。ニーナちゃん、ライン登録しようか。」
「ハイ。ママさんニーナに任せて下さい、毎日ラインで報告しますね。」
「ありがとう、この人ったら目を離すと直ぐに間食するんだから、お菓子食べてたらすぐに教えてね。それくらいしないと痩せないでしょう。」
「うう.....」

それから、たっぷり2時間、妻と膝に挟まれて

「じゃあね、ニーナちゃんしっかり監視宜しくね。それじゃあ私は、大型ショッピングモールに寄って帰るね。」
「何しに来たんだよ。」
「あんたの近所のショッピングモールに気になるショップが入ったって聴いたから、そのついで。」
「なんだよそれ」
「ママさんまた来てください~」
「またね~ニーナちゃん、今度帰るときは一緒に帰っていらっしゃいね。」

嵐のごとき妻の襲来に、どっと疲れた男である。


『ピーン、ポーン』
「えっ、帰ってきた?」


え~本日も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。
毎度、バカバカしいお話で、あきれ返ってあるとは思いますが、
今回は、奥さんを登場させてみました、って事でございまして。

このお話はもちろん、フィクションです。
賢明な皆様はもちろん、ご理解いただけてると思いますが。
時々ね、オンライン父さんって、わくにさんですよね?
なんて聞かれますが、あくまでフィクションです。

もちろん、奥さんも・・・。
今回も、今井雅子先生の究極の愛のカタチ「膝枕」
の世界観の中で、架空の愛玩AI膝枕と、通称;オンラインパパの何でもない日常を切り取らせていただきました。

作中に登場しました「単身赴任夫と妻と膝枕と女」こちらは実在するお話です。映像作品ではございませんが、一緒にお楽しみください。

「なーんだ。ほぼ、パクリじゃね?って」思ったあなた。
あはは、それは内緒でお願いします・。

只の素人サラリーマンが書くお話なんてこんなものです。
(全国のサラリーマン兼業作家の皆様、申し訳ございません。)
訂正いたします、わたしだけ(全裸正座で反省中)
なんてね、また機会がありましたらお会いしましょう。

ありがとうございました。
           
                        2022年12月9日 
    マックでビックマックセット(600円)を食べながら。倭國

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