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大学入試における推薦やAOの位置付け

ネットの掲示板等を見る限り、世間の方々が推薦入試やAO入試ーー今は学校推薦型選抜、総合型選抜と言うようになったようだがーーについて、だいぶ誤解があるような気がしている。

数十年前の一芸推薦などと呼ばれた、とにかく勉強しなくても何か一芸に秀でていたら合格する楽な受験、といったイメージのまま、今の学校推薦や総合型選抜を語っていることがあまりにも多い。

また、定員が常に割れていて死活問題になっている私立大学のそれと、難関私立大学や国公立大学のそれを一括りに語ろうという、無茶な論調のものも多く見られる。

まず、青田買いのように定員割れを少しでも埋めるためにやっている、一部の私立大学の推薦入試(特に指定校推薦)や総合型選抜は論外。

中堅私立大学で、これまた定員確保のために行っている併願推薦と称するペーパーテストは、実質一般受験と言ってよいと思う。英国、英数の組み合わせのことが多く、難易度も一般入試に迫るものがある。…これらを誰でも入れるような推薦入試と一緒にして酷評するのはちょっとどうかなと。そこそこ真面目に学校生活を送った生徒の、ちょっとお得な滑り止め受験と考えた方がいいと思う。

ほとんどの国公立大学や難関私立大学のそれになると、下手をすれば一般受験よりはるかに手間がかかり、難易度も高くなったりするので、これを簡単に受かる受験だと考えている向きは、一度募集要項や過去問に目を通してみるべきである。特に壮年層は仰天するような内容と要求レベルだと思う。…特に、東大京大クラスの、国際数学オリンピックで金賞、のような条件のものになると、ほとんどの人間が一生かかってもエントリーすることすら無理だろう。…普通に共通テストと二次試験を受ける学習を何浪もしてやった方がよっぽど合格に近づける。

受験や学校のことを語るとき誰しもやってしまう過ちが、自分の学生時代の経験と情報だけで判断することである。学校とそれを取り巻く教育行政や受験環境は、3年経ったら別物、ぐらいの勢いで激変していっている。一方、現役生であっても、学生の立場からは氷山の一角しか見えてないことが多いので、これまた偏ってしまっていることが往々にしてある。高校を卒業後数年以内の先輩の意見も同様である。せめて次の進学先を卒業して、就職するか大学院に行くかしてからぐらいでないと、何が正解か不正解かなど、まず分からないのではないだろうか。

さて、もう一つよく抜ける視点が、何故そういった入試を大学側が採用するのか、ということである。身も蓋もないが、

・定員割れの私立大学の推薦や総合型選択…とにかく定員確保。
・中堅私立大学のペーパーテスト型併願推薦…一定以上のレベルの真面目で学習もできる生徒の確保。
・中堅以上私立大学の推薦入試(面接や小論文やグループディスカッション等を課すもの)…真面目に高校生活を送ってきた生徒で、それぞれの大学の基準で目端が効いて学力も保持している生徒の確保。
・中堅以上私立大学の総合型選抜…望む質とポテンシャルを持つ生徒の早期確保。
・難関私立大学や国公立大学…優秀な生徒の確保。特に国公立大学は、その学部学科に特化した才能ややる気のある、一定の基準値以上の学力の生徒の発掘。

といったところだろう。(私立大学の指定校推薦は、ちょっと趣が違うので、別の機会に論じたい。)

多くの国公立大学の教授陣が仰るには、一般入試と、推薦や総合型選抜で入ってきた学生は、大学の中では遜色のない成績になっているそうである。むしろ卒業時には一般入試で入ってきた生徒を上回っていることも多いのだとか。…それはそうであろう。興味のある分野を極めるかどうかが勝負なのだから。ともすると一般入試組は、ああ、共通テストがもうちょっと点が取れていたら、自分は◯◯大学の方に入れたのに、という気分を数ヶ月〜数年引きずって、その間を棒に振る。どうしてもその大学のその学部学科で◯◯を研究したい!と目標を具体的に決めて入ってきた推薦や総合型選抜の生徒はスタートダッシュから違うのだ。早く進路が決まった分、無駄な受験に時間を取られずに更にその分野を究めて入学してきたりもする。そして往々にして、国公立大学の推薦や総合型選抜の対策は、大卒の就職試験にそのまま使えることばかりなのである。…そういう訳で、推薦や総合型選抜をやめるつもりはない、と、それらの入試を成功させている国公立大学の教授達は口を揃えて言っていた。そうでない所があるとすれば…、非常に高いレベルにも関わらず、その学部に直結した学科の高校生を優遇して採ろうというようなバイアスのかかっていた大学である。そういうところは、推薦やAOは失敗だったなどと言って、特定の学科の高校生用の入試から撤退したりしていた。

なりふり構わない学生のかき集めは酷評されてやむなしと思うが(それなりに税金が投入されるので)、他は決して非難されるようなものではない。利用できる立場の生徒は、世間様の無理解など気にせずに大いに利用する方がいいと思う。時間もお金も無駄にならずに済むのだから。

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