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「花束みたいな恋をした」観ました。

「花束みたいな恋をした」を観た。 ちなみに私は恋愛映画は基本観ない。興味がない。 壮大な別れのために取り急ぎ余命半年にしてみました、とか。ドラマチックな展開のために三角関係にしてみました、とか。 恋愛とかいう全人類共通の一大コンテンツで一発当てたいという安易な発想が透けて見えて辟易するのである。 にもかかわらず、どうしてこの映画を観たのか。 Xを眺めていると、ここ数年、数か月に1回単位で「花束みたいな恋をした」の感想や批評がTLに流れてくるのである。 公開から3年以上経つ

    • 普通の人

      高校の時、部活仲間でファミレスに集まった。先輩の卒部祝いだった。 着ていく服が思いつかず、気の置けない先輩だしお祝いの気持ちさえあればそれでいいだろうと、いつもの練習着を着ていった。私以外は全員、いつもより綺麗でおしゃれな服を着ていた。 その時の先輩の、呆れたような困惑したような、そして悲しそうな顔が忘れられない。 何回も考えてやっと、あの時の先輩は私の恰好を見て、「お祝いの気持ちがない」と感じたのだろう、という結論に至った。 また間違えた、と思った。 こういうことを何度繰

      • クロ

        祖母の家はお化け屋敷みたいで怖かった。 庭は手入れされておらず草木が生い茂っていて、2階への階段はギシギシと嫌な音が鳴る。 日当たりのいい家でなかったのに電気をつけないから、廊下はいつも薄暗かった。 真夏でもどこかひんやりした空気が流れている家だった。 そこに、化け猫みたいな黒猫が住み着いていた。 名はクロといった。 クロは私が生まれる前から祖母の家の住猫であった。 温室で三匹の子猫を出産している野良の黒猫を見たのが最初らしい。 梅雨の雨を凌ぐためだった。でも、結局子猫はみ

        • 初めて薄い本を買いに行った話(後編)

          前編 梅田に着いたのは夕方頃だった。 私はスマホ片手にマップを見ながらメロンブックスを目指した。 が、案の定迷った。 少しずつネオン看板が目立ちだし、歩き回るうちにネオンに囲まれていた。 胸を強調する女性の看板。 ビルの全面に大きく書かれたネットカフェの文字。 肩身の狭そうな蕎麦屋の提灯。 目がチカチカする。 立ち止まって見渡せば視界に3つは「無料案内所」が目に入った。 そのへんにごろごろと無料案内所がある。 なんだ、案外都会って田舎者に親切じゃないか。 そう思って近づ

        「花束みたいな恋をした」観ました。

          初めて薄い本を買いに行った話(前編)

          6年前、初めて同人誌を買った。 熱狂的だったカゲプロブームも落ち着き、周りも違うジャンルに移行していった頃。 私は依然としてカゲプロ二次創作を見たり描いたりしていた。 朝、いつも通りギリギリ電車に飛び乗り、息を落ち着けてからTwitterを見る。 あ、相互さんが新しい絵をアップしてる。ふぁぼ。 この人また夜更かししてる。ふぁぼ。 このイラスト好き。ふぁぼ。 慣れた手つきでTLを遡る。 手が一つのツイートで止まった。 それは好きな絵師の告知だった。 「カゲプロ同人誌出します」

          初めて薄い本を買いに行った話(前編)

          海洋墓地

          海が怖い。 海洋恐怖症というらしい。 私は海で泳げない。 かろうじて浮き輪をつけてぷかぷか浮かぶことはできるが、絶対沖には出ない。 急に大きな魚に食べられたら?クラゲに刺されたら? そうでなくても深い暗い海を想像しただけで足がすくむ。 別に海でそこまで怖い思いをした記憶もなく、物心ついた時には海が怖かった。 でも私は海が好きだ。怖いけど好きなのだ。 部屋の窓からは海が見える。 夜になれば海の向こうに四国の人々の明かりが見える。 窓を閉め、布団に潜り、眠りに落ちる。 いつも見

          海洋墓地

          氷点下のある朝

          2020年最後の出勤日、動物の死骸が道に転がっていた。カラスがそれをついばんでいる。死骸を避けるように車をのろのろと走らせるとカラスが急いで飛び去った。 田舎において、道路に動物の死骸が転がっていることは珍しくない。 それはピンクレッドだったりピンクだったり、あるいは毛皮がまだ残っていることもある。 最初はショッキングなものを見たと思ったが、最近は死体のイラストが描けると思うようになった。 ところで2020年買ってよかったものの話をしよう。 フェイクファーのおしゃれなラグ

          氷点下のある朝

          頭痛という死神

          中学生の時、偏頭痛持ちの主人公が戦う漫画を読んだ。 かっこいい主人公が「頭いてぇ」と言いながらも片手間に敵を倒していくのだ。 私はその漫画を読んで今までにない怒りを覚えたのを覚えている。 私の人生の記憶に頭痛は切り離せないものとして、死神のようにそこに在る。 一番古い記憶は幼稚園か小学校低学年。 ピアノのレッスンの帰り、母親に手を引かれながら駅のホームで白い息を吐いていた。 母に心配をかけまいと頭痛のことは黙っていた。丸い月を見て気持ちを紛らわせた。 そして、電車が駅に来た

          頭痛という死神