残酷な神の翼下で➂
~~その日の夜中過ぎ:院長の告白~~
神よ、私はマティウスの死に責任があります。
あの若者を殺したのは、この院に出入りしている雑貨屋の娘ですが。
そのきっかけを作ったのは、おそらく私でしょう。
彼はもともと、近所の農家の三男でした。
幼いころから割と頭が良かったので、信者であった両親に話をしてこの院で引き取り、見習いとして育てていくことにしたのです。
マティウスは良く学び、真面目に働き、雑用でも何でも嫌がらずによくやる子供でした。
そして誰よりも、素直で優しかった。
院に出入りしている雑貨屋の娘と、いつの間にか仲良くなっていた時には少し注意をしましたが。
大人しく「自分の立場はわかっています」と、素直にうなずいて、深入りはしていかなかったですし。
物覚えの悪さや不真面目さで、私やほかの大人たちに叱れらるようなこともほとんどありませんでした。
マティウスと私の関係がおかしくなりはじめたのは、近くの村の住人だった夫婦の死後に残されていた幼い子供を、院で引き取ってからのことです。
この夫婦はろくに祈りにもこない不届き者で、まだ幼い子供に暴力を振るったり食事を与えなかったりしていたようですが。
そんな中、はやり病に倒れて命を落としたのです。
身寄りのいない子供を、私はに連れてきてレニと名付け、面倒を見ることにしました。
あまりにも親に痛めつけられ、ひどく痩せてやつれ、さすがに放置しておくことができなかったからです。
意外だったのは、マティウスがひどく親身に親切に、積極的にこの子供の面倒を見たことでした。
正直、あまりにも飢えて痩せている上にあちこち傷だらけで、院で怪我人や病人の看護をし慣れている師達ですら、触れるのに怯むような有様だったのですが。
彼がこまめにレニのことを世話してやっていることがわかったので、私はしばらくの間そのことをすっかり忘れていました。
数か月が過ぎ、マティウスが困ったような慌てたような顔で私のもとにやってくるまでは。
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