LOG. 36 Beautiful Life

 BLAME! はおもしろい。主人公・霧亥(きりい)が、際限なく拡張される階層都市の中でネット端末遺伝子を探す漫画だ。
 印象的な箇所はいろいろあるが、最近読んだなかでは新装版の4巻に入っている LOG.36 Beautiful Life がよかった。これは前後の流れとあまり関係ない一話完結のLOGだ。話のあらすじは、

 霧亥とシボがネット端末遺伝子探索の途中でふたりの少女に出会う。逃げたふたりの後を追うと、年齢は様々だが、似たような顔をした女性たちが暮らす空間に行き当たる。女性らは会話に応じることもなく、ふたりを見て逃げ出す。霧亥の網膜走査によると、彼女らは全員クローンだという。霧亥は「前にもこういう場所を見たことがある ここをこれ以上探しても無駄だ」と言う。
 霧亥は立ち去ろうとするが、シボが「永久にクローンを造り続ける装置」に繋がれたオリジナルの女性を発見する。女性はこちらに視線を向け、装置からはクローンの赤子がつぎつぎ吐き出される。霧亥は装置を迷わず重力子放射線射出装置で撃ち抜き、ふたりは無言でその場をあとにする。

 といった感じ。
 この話の焦点は、クローンを造り続ける装置を破壊するか否かというところにある。それが不快な存在であることはとうぜんだが、破壊すれば女性たちの共同体は維持できなくなってしまう。そこには葛藤があって自然である。
 たとえば、もしこれがベセスダのゲーム、TESシリーズとかFalloutシリーズのイベントだったら、プレイヤーの心を揺さぶる仕掛けを盛り込んでくると思う。クローン製造装置を破壊したらユニークアイテムがもらえるけど、クローン女性たちが敵対してくるとか、なじってくるとか。何らかの後味が悪くなる仕掛けを放り込んでくるはずだ。むしろ作劇のことを考えると、そうするのが自然とさえ思える。

 だが霧亥は、沈黙したままこの装置を破壊する。それでいて、そこからは、この装置にたいする嫌悪感がありありと伝わってくる。このような物語の作り方はとても美しい。有り体に言ってしまえばそれはハードボイルドだ。心情描写をなるべく排し、行動の簡潔な描写に徹する。
 漫画では心情描写が直接文字のかたちで行われることもあるし、そうでなくともセリフや表情を駆使してキャラの感情を伝えるようにするものだと思うが、BLAME!  のこの話では、行動のみによって主人公の価値観が伝わってくる。意外なほどハードボイルドに向いているのではないか、漫画というメディア。BLAME! は設定や構造物の美しさに注目されることが多い作品だが、こういう心理描写のやり方も素晴らしいと思う。

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