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遺伝子の船|エッセイ

私達は遺伝子の乗り物だ。
悠久の時を旅するための乗り物。

どこかで聞いた言葉をなんとなく思い出しながら、じゃあ私は船だなあとぼんやり考えた。
親族たちは祖父の火葬を待ちながらお菓子を食べていて、外はバケツをひっくり返したような大雨だった。

なんのためにうまれたのか、どういう風に生きていけばいいのか。
祖父の葬儀が無事に終わって、いっぱいいっぱいだった心に少しだけ余裕ができて、命についてうっすらと考えた。

もう会えないのか、話せないのかと言葉では理解できるものの、実感が全く湧かない。

祖父は、遺伝子の乗り物としての仕事は終わったのだと思う。

私も育児を終えたら【終わった人間】になるのだろうか。
私の船はまだ小さな小舟ふたつに、船旅のやり方を教えている最中だ。
小舟が大海に自分で飛び出していったら、私という船はどこに行こうか。

祖父には数えられないぐらい助けてもらった。
厳しい言葉も優しい行動も柔らかな表情もしわしわでこわばった働き者の手も、全部覚えている。

私たちはただの遺伝子の乗り物、なにをしたっていい。
でも、貰ったものを誰かに還元できる人間になりたい。

ふにゃふにゃでへろへろな航海。
目的地もないし、未熟な船。

だけど旅が終わるときに、私の火葬を待つ待合室があたたかな場所であってほしい。

祖父含め、色んな人に助けてもらってばかりだけれど、手が届く人たちには優しくしよう。
キャパが狭くてなかなか難しいけれど、もらったものを少しでも社会に還元する。

そう思うと、悲しみの中から少しだけ立ち直れそうだった。

火葬場から出ると大雨はあがっていて、地面から蒸気がむわむわと出ていた。あまりの大雨で聞こえなかったセミの鳴き声ももはや大合唱だ。

日常は続いていく。
せめて恥ずかしくない生き方をしようと心に決めて、火葬場をあとにした。

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