ネタバレあり読書感想 チ。ー地球の運動についてー 世界を変える情熱の連鎖の物語

歴史が私たちの興味を引くのは無機質なその記録の裏に当時を生きた人間の感情に思いを馳せるからです。魚豊著 / チ。ー地球の運動についてーはそんな歴史の裏に隠された人々に焦点を当てた群像劇でした。

現代を生きる私たちは地球が宇宙の中心ではなく太陽を中心に回っていることを当たり前のように”信仰”しています。しかし、かつてはそれが当たり前ではない時代がありました。太陽は地球の周りを公転し、火星や金星を始めとした惑星はその名の通り地球の周りを惑うように行きつ戻りつする。いわいゆる"天動説"が信じられていた時代があったのです。

チ。ー地球の運動についてーはそんな時代の物語です。地動説を信じる異端者が審問というなの拷問にかけられる衝撃的な場面から物語は始まります。刑吏の責めは苛烈です。当時の社会通念上においては異端は許されるものではなく、異端の疑いをかけられたものは罪を認め考えを改めない限りは死が約束されていました。当然、ほとんどの異端者は痛みや責め苦から逃れるために偽りであろうと罪を認めますが、その中に僅かながらどうあっても自らの考えを捨てない者たちがいました。それが”地動説”の支持者です。彼らは自らの命が絶たれるとしても、”真理”を追い求め死に挑みます。そして、死した者たちの知識や思いは後に続くものに受け継がれ、やがては”地動説”という真理の実を結ぶ。それにかかわる人々の道程を追った群像劇は私の心を打ちました。人間は利己的な生き物ですが、それだけではないことを思い出させてくれるものがあります。受け継がれる知識です。私たちの現在の世界はとても一代では成せない積み重ねの上に立っています。その真理へと向かう情熱に焦点を当てた物語が心をうつのです。

偏屈な学者、純粋無垢な若者、世界に絶望した貧者など様々な人々が異端とされた”地動説”に魅せられ、人生を狂わせていきます。しかし、誰一人として後悔はしていないのです。物語の中の話だからといえばそれまでですが、例えば人生に意味がない、希望がないと感じている人こそ響く物語なのではないでしょうか。

ここまで書いて何が言いたいかというと、めっちゃ面白いから読んでね
ということでした。おそまつ。

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