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青臭い私の青春とエモい誕生日

31歳一番にきた「おめでとう」の連絡は大学のとき気になっていた人からだった。

0時過ぎて早々に送ってくれたから一番なのではない。たんに日にちを勘違いして前日に送られてきた。

ここ数年きてなかったあの人からの突然のLINE。正直、はじめ名前を見ても思い出さなかったがじわじわと感じた胸の高鳴り。通知だけでもドキドキした。見たいような見たくないような。心臓の早さとは裏腹に指はゆっくりと押した。

「はぴば」

それだけのメッセージ。それだけでも嬉しかった。

2年前に機種変更をしたせいか「はぴば」の3文字は一番上にあった。つまり、2年はやりとりをしていなかった。もちろん何年も会っていない。

そんななか誕生日を覚えてくれていたことに驚いた。facebookの友達にもなっていなかったので通知がきたわけではないだろう。毎年きていたわけではないから誕生日を登録していたわけではないだろう。思い出してくれていたのかな。そんなことを思いながら口元がゆるむ。

あの人とは付き合うことはなかった。後から思えば、幼馴染というような感覚の間柄だった。

出会い

出会いは大学の頃、学籍番号が前後だったのがきっかけだった。理系の学部で実験のグループが学籍番号順のため同じだったのだ。

穏やかな落ち着いている雰囲気の人だった。グループは5,6人。みんな初めましてだったこともあり、会話は最小限だった。

その日の実験は微生物の実験で、時間経過ごとに観察するものだった。観察はお昼をまたぎ、グループのなか2人ずつ休憩をとることになった。そのときにあの人から一緒に休憩行こうと誘われた。

なんの気なしの誘いだったようだ。話しやすそうだったからだと後から聞いた。

食堂に行く最中も会話はなく、不安でちょっと困った顔をしながら2歩後ろを歩く私。どんな人だろう、なにしゃべろう。

ご飯を食べているときの会話はあまり覚えていない。あの人が浪人をして2年年上なこと、定番の出身地の話などをしたと思う。

たわいもない話だったが口調も優しく初めて話すからという緊張のほかに別のドキドキした感情が湧いてきた。どう見られているかな。ソワソワしてうまくしゃべれなかった。中高女子高だった私には、その感情だけでいっぱいいっぱいだった。あの人のことを気になっていると分かるのは後になってからだった。

それからあの人は、声をかけてくれるようになった。実験は自動的に一緒になることもあいまってか仲良くなるのに時間はかからなかった。あの人は男友達と一緒に行動し、私といる時間は長くはなかったが、一緒にいて心地よかった。

いつの間にかあの人は私のことを名前(呼び捨て)で呼んでいた。他の友達からは男女問わずニックネームで呼ばれていたからなんだか嬉しかった。

それに、あの人はもともと女性と話しているのはあまり見ないが、それでも実験で一緒の女性のことを呼ぶときは「苗字+さん」だった。気づいたときはもう、嬉しくてうれしくて私を浮かれさせるには十分だった。

あのとき、「まりりんには呼び捨てだけど二人付き合っているの?」と聞いてくれた友達よありがとう。そのとき否定した私の顔はにやけていなかっただろうか。おかげで浮かれた気分を味わえた。そう、この時には私はあの人のことが気になっているのだと気づいていた。

突きつけられた関係

うぶな私が恋心に気づいたのもつかの間。あの人とのふとした会話で聞きたくないことを聞いてしまう。

さらっと聞こえた「彼女」というワード。

バイト先の人と付き合ったらしい。ショックだった。そのあとの会話は入ってこず、もっと先に自分の気持ちに気づいていれば、アタックしていれば付き合えたのではないかと後悔した。

さらっと話してきている時点で相手は私に好意などないと思うかもしれない。だが、あの人に他に女友達がいないこと、私だけ呼び捨てなこと、他の人へとは違うちょっとしたことが私は特別なんじゃないかと思わせていた。お花畑な私の頭、そこは勘違いしてもしょうがない。いや、させてほしい。

大学は4年ある。あの人に彼女ができたのが1年生。後々別れるのではないか。そんな希望にも似た穿った気持ちを持ちながら、知った後もあの人に彼女とのことを聞いていた。

しかし2年3年過ぎても一向に別れる気配はない。その間私は特に好きではない人と付き合った。申し訳ないことをしたが、彼氏も私のことをはじめ好きでもなかっただろうに受けてくれたのは不思議だった。でも後々好意を持つようになり彼氏とは2年付き合うこととなった。

彼氏ができたことも、あの人に伝えた。どんな表情するのかな、なんて言うかな。

「おめでとう、よかったじゃん」

恋バナになっても今まで私が好きな人いるんだよねと言ったことなく、突然彼氏ができたとの報告に普通にお祝いの言葉。

私だけの片思いで、あの人は私のことを、しゃべりやすいという男友達と同じような感覚だったのだな。やっと気づいた。

気づいてもお互いの関係は変わることはなかった。もともとなにもないのだから。付き合う関係になくても私は、同じ研修室になり、より長くいれた時間は楽しかった。あの人の友達とも仲良くなり、卒業後もグループで遊ぶようになったのは嬉しかった。

卒業後

卒業後、あの人から二人でご飯を食べようと連絡があった。もしかしたらと30%思いながらも単純に会えるのが嬉しかった。

しかし、言われたのは大学卒業後もそのまま付き合っていた彼女と結婚するとの報告だった。結婚式にはあの人のグループ(男友達)と一緒に私も呼ばれた。あの人が私に気があったら結婚式には呼ばないだろう。突きつけられる現実。

もちろんそれまでも、今の関係以上はないからもう想うことはしないでおこうと心に閉まっていた。その間私も彼氏がいたし、忘れるようにしていた。

会わなければそのままでいれたのに。会ったらやっぱり素敵だなと思ってしまう。結婚式は複雑な気持ちで参列した。奥さんも新郎の参列者に私が入っているのを了承しているということだ。嫉妬もされやしない。余計悲しくなった。

自分の気持ちに気づいてからずっとあの人には彼女がいて、結婚する。気持ちを伝えようなんてことは思ったことないが、また忘れて心の奥底に沈ませておこう。閉まう前に、嫌な思いが顔をのぞかせる。

大学時代、後々あの人も一緒にしゃべるようになった私の親友は呼ばれず、女性は私だけだったな。

変な優越感だ。心のもがきなのか見方を変えてまで見つけた穿った特別感。しぶといものだ。自分の見たいように見、感じたいように感じてしまう。しつこい醜い心。

そんな感情も押し込め封をしていたのに。ここにきて突然のLINE。やりとりは「元気にしてる?」となんの意味もないラリーが数回だけ。

それだけでも記憶や感情を呼び起こすには事足りた。大学時代から、お互い長々とやりとりをするタイプではない。そんな関係のままのLINE。

今も昔も関係はなにも変わらず、私の心だけに起こったこと。

元気ということなら、今でも夫婦仲良くやっているはずだ。だってあの人ならいい夫になるはずだもの。

そんなエモい感情で迎えたちょっと早めの誕生日。




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