ビールが美味しくなった日

子供のころ、お酒を飲む大人をみて思っていたのは、お酒っておいしそうでいいなということだった。特にビール。みんな美味しそうに飲むし、CMでもあれだけ美味しいって言ってるってことは相当なものだと。

 

でも、いざお酒が飲めるようになって飲んでみたら、想像とは異なりそれは苦い炭酸の飲み物だった。前々から苦いよとは言われていたものの、そもそも食に関してはほぼ好き嫌いがなかった私はあれだけ楽しみにしていたビールがまずいものだなんて、悔しくて仕方がなかった。

その後も居酒屋でお酒を飲む機会があれば1口だけもらう、1cmだけ注いでもらうなどと何度もビールを飲んでみた。「今日のビールは美味しいかもしれない」との思いとともに。期待は毎回裏切られたのだけれど。

 

そもそもお酒に弱い体質でもある。高校の文化祭で試しにやってみたアルコールパッチテストは絆創膏の形に真っ赤になるタイプだったし、家系的にもそうだ。飲めないことを言うと、女子だしそれくらいが可愛くていいよ、とか、経済的でいいじゃん、などと言われる。そうじゃない。私はお酒をたしなむ大人になる予定だったのに。

幸か不幸か、お酒の味は嫌いではない。酒の席で深まる仲もありそうだし、居酒屋は飲めない女をわざわざ誘っていくところではないだろうから、コミュニケーションに苦手意識を持っている身としてはこの体質は悲しむべきものだと思っている。

 

私は今までに2回だけビールが美味しいと思ったことがある。

1回目はサークルの定期演奏会の打ち上げ。くしくも楽器を教えてくださる先生の向かいに座ってしまい、1杯目のビールが断れなかった。またどうせ美味しくないんだろうと口をつけてみると、これが美味しい。驚いた。これが1杯目のビールは美味しいというやつかと。

2回目は祖父の家。北海道ということもあり、冬なのにがんがん暖房が効いていて暑かったのか、人がいて暑かったのか。夕ご飯が焼肉であり、一般的に肉とビールは相性が良いらしいし、北海道らしくサッポロビールが沢山用意されていてこれは飲んでみるしかないと思った。これがどんぴしゃりでおいしい。あぁこれか、世間の皆々様が良いと言っていたのはこのことだったのか。

 

しかし、これはあくまでも幻想。

その後、あのときは美味しかったしと再挑戦するも度々惨敗している。

私は幻想ともいえるビールの美味しさを求めてまた次も挑戦するのだろう。

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