4月のおわり
4月27日
早すぎる。もう4月が終わるのか。
ここ最近のブームは、朝の通勤電車の中で音楽を聴きながら長距離走者になった妄想をすることだ。おじさんとおじさんの間に挟まり、顔にかかるポニーテールの髪の毛を避けながら、いつまでもどこまでも走り続ける妄想。
高校生のとき陸上部のマネージャーをしていたからか、頭の中に浮かぶのはタータンのグラウンドで、まっすぐ引かれた白線に沿って、それはそれは力強くずんずん前へ進むのだ。春の生ぬるい風の中を通り抜け、「ファイト〜」という間延びした声を追いて行き、次第に両脚の回転を止めることができなくなる。肺は限界まで膨れあがって、口の中に血みたいな味がしてきた頃、ラストの直線100メートルに差し掛かる。目の前には、部内で一番速い林先輩の背中があって、必死に走っていたらいつの間にか浪川先輩も達也先輩も市田先輩も抜かしたんだ、やっと一番速く長く遠くまで走れるようになったんだ、林先輩を抜かすまでもうすこし、あと50メートル、20メートル、5メートル、嗚呼もうゴールだ!
神田駅。
のろのろとした塊の一部になり、エスカレーターを降りていく。
うっすら気持ち悪くなってきた。もちろん気のせいである。なぜわたしは会社へ向かっているのか…。
陸上部とサッカー部はいつも同じグラウンドで練習をしていて、ある土曜日にサッカー部が練習試合をしていた。両校の部員もコーチも結構熱く頑張っていた。わたしたち陸上部はマッサージ用マットでゴロゴロと寝転びながらその様子を眺めていた。
でさあ、デストロイがねえ(デストロイとは、とんでもなく怖かった英語教師&生活指導の成川先生のあだ名である)「おめー!スカートがみじけーんだよ!!」とか怒鳴ってさあ走ってきたんだってよA組まで、うわ〜失禁するわ、怒り狂いながら迫り来る壁みたいでさそのまま逃げちゃったんだってえ、それで昼休みに二人で追いかけっこしてたのか、デストロイ足速かったみたいよお、わはは、てかサッカー部何言ってんの?、え…「ウマイボー!」じゃない?うまい棒、ボールが場外に出る度にうまい棒宣言したのかあ、楽しそうな競技だ次うちらも言ってみよう
「うまいぼ〜〜」と言ったら近くにいた選手に一瞥された後すぐに無視された。正しくは「マイボール」だし、自分たちが必死にやっている中、打ち上げられた海獣みたいな奴の相手などしていられないのだ。
ああでも、あのゆるやかで自由でなんの過不足もない時間ばかりが光っている。春の中央線で。
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