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なぜ我々は三雲修の「弱さ」を許容できるのか?
◯はじめに
ある日、上司(ワールドトリガーをアニメで履修済)からこんなことを言われました。
「三雲修って弱過ぎないか?」
どうやら修の戦闘能力が主人公にしては低過ぎることに不満を持っているようでした。
それに対して上手い返しが思い付かず、そのまま上司との会話が終わったのですが、確かに言われてみれば修の「弱さ」はバトル漫画の主人公としてはかなり異端であると言えます。
私も他のバトル漫画を読んでいる時に「この主人公あんまり強くならないな」と思うことがあります。
しかし、ワールドトリガーを読んで「三雲修が弱いからつまらない」と思ったことはありません。
その理由を考察してみたいと思います。
◯徹底的に描かれる修の「弱さ」
考察のためにワールドトリガーを1巻から読み直して改めて思ったのが『修の「弱さ」が徹底的に描写されている』ということです。
例えば1巻〜4巻の間で見てみると、
①ボーダー隊員であるにも関わらず出力が足りずバムスターの装甲を破れない(第1話)
②遊真から「弱いね」と断言される(第1話)
③遊真から「モールモッドを1匹殺すには少なくともオサムが20人はいなきゃムリだ。それで勝てたとしても20人中18 人のオサムは死ぬ」と断言される(第4話)
④遊真から「オサムが弱いのはトリオンだけの問題ではない」と断言される(第5話)
⑤遊真が修のトリオン能力を「近界民に狙われるにはこの3倍は欲しい」と評価する(第13話)
⑥烏丸から「弱いな、ほんとにB級か?」と言われてしまう(第23話)
⑦入隊時の対近界民戦闘訓練が時間切れで失格だったことが判明する(第33話)
ざっと見ただけでもこれだけの描写があることが確認できました。
ここまでの修は主人公として贔屓目に見ても戦力面での魅力はほとんどありません。
というより、ここまで読んだ読者は「ワールドトリガーの主人公は遊真だけ」と思ってしまう可能性すらあります。
チームメイトの遊真の戦闘能力や千佳のトリオン能力の高さもあり、読者の中で「三雲修」というキャラクターをどう見ればいいのか判断が難しい状況と言えます。
その流れが変わるのが5巻の風間さんとの模擬戦です。
◯修の「弱さ」が描写され続けた意味
模擬戦が終わった後の風間さんの言葉の中に、ここまで修の「弱さ」が描写され続けた理由があります。
「自分の弱さをよく自覚していて、それゆえの発想と相手を読む頭がある。知恵と工夫を使う戦い方は俺は嫌いじゃない」
ここで読者は「三雲修」というキャラクターの楽しみ方を知り、それを風間さんが言語化します。
(「持たざる者」が知恵と工夫でどこまでいけるか、この先が楽しみだな)
おまえは弱いけど馬鹿じゃない。発想と工夫を反映できる射手のほうが合ってると思う
風間さんの「持たざる者」、烏丸の「弱いけど馬鹿じゃない」が三雲修の「アイデンティティ」として読者に認識され、読者は修の「弱さ」を前提に物語を読み進めていくことになるのです。
そうは言っても連載期間が長くなれば修の「弱さ」にストレスを感じてもおかしくはありません。
しかし、その対策もしっかり用意されていました。
◯「弱さ」の保証期間
B級ランク戦ROUND3 で自身の戦力面に不安を覚えた修は「本格的な射手の戦い方」を学びます。
バトル漫画では定番の「修行」ですが、その後のROUND4では1人で戦ってしまい真っ先に落とされてしまいます。
試合終了後の風間さんの言葉に、ワールドトリガーの「厳しさ」が凝縮されています。
「三雲以外の人間も日々鍛錬を積んでいる。当たり前のことをやっていては、先を行く人間には追いつけない」
この言葉で読者は、修の「弱さ」が他のバトル漫画のようなペースでは払拭されることはないことを思い知らされます。
さらに木虎が駄目押しをします。
「はっきり言って、あなたが上と勝負できるようになるには、あと2年は必要だわ」
ここで読者は修の「弱さ」が(作品内の時間で)あと2年は継続されることを知ります。
さしずめ『「弱さ」の保証期間』と言ったところでしょうか。
思うに、バトル漫画の主人公の「弱さ」にストレスを感じるのは「いつこの主人公は強くなるのか?」という「when?」の疑問から来ているような気がします。
ですから、最初から「この期間は主人公は強くなりません!」と作品内で確定していれば、読者はそれを前提に物語を楽しもうとするので別にストレスは感じない、ということです。
葦原先生は修の「弱さ」を活用した面白い展開を今までにたくさん描かれていますし、これからも面白い展開を描き続けてくださると思います。
その「安心感」こそが我々が三雲修の「弱さ」を許容できる理由なのかもしれませんね。
◯終わりに
自分は基本的にワールドトリガーに「推し」はいないのですが、三雲修は考察をしていて本当に楽しいキャラクターなので、これからも三雲修に注目していきたいと思います。
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