なぜワールドトリガーは「フレンドリーファイア」が「戦術」として成立しているのか?
◯はじめに
「フレンドリーファイア」という言葉があります。
意味は「味方からの誤射」で、戦場において後方に位置する味方の銃撃を食らうことを指します。
本来なら絶対に避けるべきことですが、ワールドトリガーではその「フレンドリーファイア」を「戦術」としている描写が複数あります。
代表的なのはガロプラ侵攻編で小南が太刀川ごとガトリンを真っ二つにした場面です。
この戦術についてガトリンがこのように評価しています。
ガトリンの言葉にあるように、ワールドトリガーにおいてフレンドリーファイアが戦術として成立する要因に「脱出機能(ベイルアウト)」があり、戦闘体である「トリオン体」と合わせてフレンドリーファイア戦術はこの2つの設定を前提としているのは間違いありません。
しかし、「トリオン体」は戦闘中に修復出来ないのでフレンドリーファイアでもダメージを受けることは明確なデメリットです。
実際、ワールドトリガーでもフレンドリーファイアを意図的に避ける描写があります。
このようにデメリットがあることは示しつつ、フレンドリーファイア戦術をどのように描いているのかいくつかのパターンに分けて考察してみたいと思います。
◯「許容の誤射」
まず1つ目のパターンは「許容の誤射」です。
このパターンだと思われるのは黒トリガー争奪の風間さんの台詞です。
ここで風間さんは狙撃手に対して自分と歌川への誤射を許容する意思を示しています。
つまり風間さんの中で、「狙撃手に誤射されるデメリット」よりも「狙撃手が援護射撃するメリット」の方が上回ったことになります。
実際のところ狙撃手は風間さんや歌川を誤射していませんが、この風間さんの言葉がなければ援護射撃を躊躇った可能性があります。
他に「許容の誤射」として考えられるのはB級ランク戦ROUND8のヒュースの台詞です。
これは「炸裂弾で自分が落とされるデメリット」よりも「炸裂弾でまわりの敵を倒せるメリット」の方がヒュースの中で上回った結果の台詞であり、自分に対して炸裂弾を落とす「許容の誤射」と考えることができます。
◯「犠牲の誤射」
2つ目のパターンは「犠牲の誤射」です。
このパターンだと思われるのはB級ランク戦ROUND2前の諏訪隊の会話です。
ここで諏訪さんは笹森を犠牲にして遊真を落とすという意思を示しています。
前述のガロプラ侵攻編での戦いも小南が「犠牲の誤射」で太刀川を犠牲にしてガトリンを真っ二つにしていると言えます。
また、黒トリガー争奪戦で風間さんが迅の動きをスコーピオンで止め、太刀川に自分ごと迅を斬らせようとしたのも「犠牲の誤射」と考えられるでしょう。
この「犠牲の誤射」は他のバトル漫画でも見られる描写ですが、通常のバトル漫画では犠牲になったキャラクターが致命傷を受けたり死んでしまったりするので、読者は感情的に「犠牲の誤射」を受け止めることになります。
しかしワールドトリガーの場合は犠牲になったキャラクターの生身は無傷で済むので、読者は理性的に「犠牲の誤射」を受け止めることができます。
これがワールドトリガーのフレンドリーファイアが戦術として成立している理由かもしれませんね。
◯「救助の誤射」
3つ目のパターンは「救助の誤射」です。
このパターンだと思われるのは大規模侵攻編でラービットに捕獲されそうな小荒井の頭を東さんがアイビスで撃ち抜く場面です。
東さんが小荒井の頭を撃ち抜いたおかげで、ラービットに捕獲される前にベイルアウトが発動し、小荒井は助かっています。
普通のバトル漫画では仲間を助けるために仲間の頭を撃ち抜くことはまずないので、これはワールドトリガー独自のフレンドリーファイア戦術と言っても過言ではありませんね。
またB級ランク戦ROUND5(第138話)で鉛弾を受けた三浦の腕を香取がスコーピオンで切断する場面も、ある意味では「救助の誤射」と言えるかもしれません。
◯おわりに
ワールドトリガーの戦闘が面白い理由の1つとして、フレンドリーファイア戦術が成立していることを自分なりに言語化できて良かったです。
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