![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/135783042/rectangle_large_type_2_4189255d3b664207a4b9659409b3363f.jpeg?width=800)
なぜ我々は空閑遊真の「敗北」を許容できるのか?
◯はじめに
私は以前に三雲修に関するこのような考察をしました。
この考察の中で修の「弱さ」が徹底的に描写されていることやその意味について触れました。
修がワールドトリガーにおける主人公としての「弱さ」の象徴として描かれているのに対して、遊真は主人公としての「強さ」の象徴として描かれています。
「ボーダーが何人で来ようと、本気でやればおれとレプリカが負けるような相手はいないよ」
しかし、そんな遊真でも作中で割と高い頻度で「敗北」しています。
私が最初に衝撃を受けたのは第23話です。
「あんたがあたしに勝てたら、ちゃんと名前で呼んであげるわ」
修行として遊真が玉狛支部の小南と模擬戦をすることになるのですが、物語の流れとして私は遊真が圧勝すると予想していました。
しかし結果は
「10回勝負して最後に1回勝っただけだよ。トータル9対1」
と、圧倒的な差で敗北してしまったのです。
それまで遊真を無双系の主人公と勝手に思い込んでいた私には、この結果は予想すらしていませんでした。
本来なら「主人公の敗北」は読者にとってあまり喜ばしいものではありません。
修のような「弱い」主人公ならまだしも、「強い」主人公である遊真の敗北は読者にストレスを感じさせる可能性すらあります。
しかし、ワールドトリガーを読んで「空閑遊真が敗北してイライラする」と思ったことはありません。
その理由を考察してみたいと思います。
◯遊真の敗北
まず、作中で遊真が敗北している場面を調べてみました。
●小南との模擬戦①(第23話)
●小南との模擬戦②(第25話)
「うーむ……今日も3勝7敗が最高か……4勝の壁があるな」
●村上との模擬戦(第93話)
「……なるほど、こりゃ手強いね」
●ROUND4、二宮との戦い(第115話)
「ここで空閑隊員が緊急脱出! 最後の刃は届かず!」
●ROUND6、生駒との戦い(第158話)
「生駒旋空一閃! 空閑隊員が落とされた!」
●弓場との模擬戦(第181話)
「なるほど……やっぱり記録で見るよりずっと速いな」
こうして見ると基本的にはボーダーでの模擬戦やランク戦での敗北が多いことが分かります。
これらの場面を読み直して、敗北した後に遊真が落ち込んでいる場面が全くと言っていいほどないことに気付きました。
普通は敗北すれば多少なりともメンタルにダメージを受けるはずです。
あのメンタルが強い修ですらROUND3やROUND4で落とされた時は明確に落ち込んでいる描写がありました。
(今日の試合の最後……あれだけ有利な展開だったのに那須先輩を倒し切れなかった。結局ぼくは自分の力では1点も……)
(あれだけいろんな人に力を貸してもらったのに……!!)
しかし遊真の場合は戦闘経験が豊富であるがゆえに、「自分よりも強い相手がいる」という現実をしっかり認識しているのです。
それはB級ランク戦ROUND3前の林藤支部長との会話からも読み取れます。
「派手に負けたらしいな、修が心配してたぞ。おまえがへこんでるんじゃないかって」
「オサムが? あいかわらず面倒見の鬼だな。おれはべつにへこんでないよ。みんなも同じように鍛えてるのはわかってる。全部が全部勝てるとは限らない。でも、だから強い人と勝負するのはおもしろい」
敗北を事実として認め、次の勝利へ動き出すのが速いので、読者は遊真の敗北にストレスを感じるタイミングがないのかもしれません。
◯「強さの尺度」
私は4人の主人公(遊真・修・千佳・迅)の中で、遊真がワールドトリガーにおける「強さの尺度」としての役割を持っていると考えています。
修や千佳では弱すぎて尺度として機能せず、迅では強すぎて尺度とするには不向きです。
単行本第2巻の迅の紹介に
ワールドトリガーの雛形読切「実力派エリート迅」から続投の頼れる男。強すぎ&大人すぎなため連載では先輩ポジションにコンバートされました
とあり、迅が強すぎたために新たな主人公として修・遊真・千佳が生まれたことが読み取れます。
前述の遊真が敗北した場面、遊真を「強さの尺度」として見れば、遊真に勝ったキャラクターを読者は「強い」と認識することができます。
・小南桐絵
・村上鋼
・二宮匡貴
・生駒達人
・弓場拓磨
これらのキャラクターはワールドトリガーでも屈指の実力者として読者は認識していますが、その要因として「遊真に勝ったから」が含まれていると考えることができます。
つまり、遊真が敗北することで遊真に勝利したキャラクターの評価が上がることになります。
また、勝利は出来なくとも遊真と互角に戦ったり遊真に大ダメージを与えることでもそのキャラクターの評価は上がります。
●ROUND2、荒船との戦い(第90話)
(思ったよりやりにくいな。さっきのやつと同じ、おれの動きを知ってる動きだ)
●ROUND5、香取との戦い(第138話)
「香取隊長、開始早々に空閑隊員を強襲! これはいきなりのエース対決になるか!?」
●ROUND5、柿崎との戦い(第143話)
「柿崎隊長緊急脱出! 相打ちで道連れを狙った! 空閑隊員は心臓部を守ったがこの傷の深さ、トリオン漏出で脱落コースか!」
主人公である空閑遊真の存在が、他のキャラクターの魅力をさらに引き出していると言えるかもしれませんね。
◯おわりに
今回の考察がきっかけで遊真に注目してワールドトリガーを読み直しているのですが、序盤から遊真は他の人の強さをちゃんと評価してる描写が多い印象を受けます。
「キトラ思ったよりやるな、イルガー堕としたぞ」
「いや、ふつうに手強かったよ」
「けっこう強かったかな。こなみ先輩と10本勝負してなかったらやばかったかも。これからもっと強くなるやつだと思うよ」
「自爆モードのイルガーを斬って堕としたのか。しかも普通のトリガーで……すごいな」
「親父に鍛えられた6年間。親父が死んでからの3年間。その全部をあわせてもこの爺さんの厚みには勝てない」
遊真の「強さの尺度」としての役割はワールドトリガーおいて重要な要素だと思うので、これからも注目していきたいですね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?