なぜ我々は空閑遊真の「敗北」を許容できるのか?
◯はじめに
私は以前に三雲修に関するこのような考察をしました。
この考察の中で修の「弱さ」が徹底的に描写されていることやその意味について触れました。
修がワールドトリガーにおける主人公としての「弱さ」の象徴として描かれているのに対して、遊真は主人公としての「強さ」の象徴として描かれています。
しかし、そんな遊真でも作中で割と高い頻度で「敗北」しています。
私が最初に衝撃を受けたのは第23話です。
修行として遊真が玉狛支部の小南と模擬戦をすることになるのですが、物語の流れとして私は遊真が圧勝すると予想していました。
しかし結果は
と、圧倒的な差で敗北してしまったのです。
それまで遊真を無双系の主人公と勝手に思い込んでいた私には、この結果は予想すらしていませんでした。
本来なら「主人公の敗北」は読者にとってあまり喜ばしいものではありません。
修のような「弱い」主人公ならまだしも、「強い」主人公である遊真の敗北は読者にストレスを感じさせる可能性すらあります。
しかし、ワールドトリガーを読んで「空閑遊真が敗北してイライラする」と思ったことはありません。
その理由を考察してみたいと思います。
◯遊真の敗北
まず、作中で遊真が敗北している場面を調べてみました。
●小南との模擬戦①(第23話)
●小南との模擬戦②(第25話)
●村上との模擬戦(第93話)
●ROUND4、二宮との戦い(第115話)
●ROUND6、生駒との戦い(第158話)
●弓場との模擬戦(第181話)
こうして見ると基本的にはボーダーでの模擬戦やランク戦での敗北が多いことが分かります。
これらの場面を読み直して、敗北した後に遊真が落ち込んでいる場面が全くと言っていいほどないことに気付きました。
普通は敗北すれば多少なりともメンタルにダメージを受けるはずです。
あのメンタルが強い修ですらROUND3やROUND4で落とされた時は明確に落ち込んでいる描写がありました。
しかし遊真の場合は戦闘経験が豊富であるがゆえに、「自分よりも強い相手がいる」という現実をしっかり認識しているのです。
それはB級ランク戦ROUND3前の林藤支部長との会話からも読み取れます。
敗北を事実として認め、次の勝利へ動き出すのが速いので、読者は遊真の敗北にストレスを感じるタイミングがないのかもしれません。
◯「強さの尺度」
私は4人の主人公(遊真・修・千佳・迅)の中で、遊真がワールドトリガーにおける「強さの尺度」としての役割を持っていると考えています。
修や千佳では弱すぎて尺度として機能せず、迅では強すぎて尺度とするには不向きです。
単行本第2巻の迅の紹介に
とあり、迅が強すぎたために新たな主人公として修・遊真・千佳が生まれたことが読み取れます。
前述の遊真が敗北した場面、遊真を「強さの尺度」として見れば、遊真に勝ったキャラクターを読者は「強い」と認識することができます。
・小南桐絵
・村上鋼
・二宮匡貴
・生駒達人
・弓場拓磨
これらのキャラクターはワールドトリガーでも屈指の実力者として読者は認識していますが、その要因として「遊真に勝ったから」が含まれていると考えることができます。
つまり、遊真が敗北することで遊真に勝利したキャラクターの評価が上がることになります。
また、勝利は出来なくとも遊真と互角に戦ったり遊真に大ダメージを与えることでもそのキャラクターの評価は上がります。
●ROUND2、荒船との戦い(第90話)
●ROUND5、香取との戦い(第138話)
●ROUND5、柿崎との戦い(第143話)
主人公である空閑遊真の存在が、他のキャラクターの魅力をさらに引き出していると言えるかもしれませんね。
◯おわりに
今回の考察がきっかけで遊真に注目してワールドトリガーを読み直しているのですが、序盤から遊真は他の人の強さをちゃんと評価してる描写が多い印象を受けます。
遊真の「強さの尺度」としての役割はワールドトリガーおいて重要な要素だと思うので、これからも注目していきたいですね。
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