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なぜ太刀川慶は負けても「格」が落ちないのか?
○はじめに
ワールドトリガーには魅力的なキャラクターが多数登場しますが、今回注目したのは「太刀川慶」です。
作中では最強格の1人ですが、初登場(黒トリガー争奪戦)で割と一方的に負けます。
「はっきり言ってこっちが勝つよ」
と迅に予告勝利宣言までされて負けています。
普通のバトル漫画だったらあまりない展開だと思います。
では負けた後の太刀川の「格」は落ちているでしょうか?
その後の大規模侵攻編でイルガー(自爆モード)を斬ったりA級隊員に匹敵する戦力のラービットを大量撃破する活躍で「格」が上がっているのもありますが、そもそも黒トリガー争奪戦直後でもそんなに「格」が落ちた印象はないと思います。
その理由を考察してみました。
○太刀川慶の肩書き
太刀川は第24話が初登場であり
「A級1位 太刀川隊」
「No.1アタッカー」
という肩書きが提示されます。
ボーダー隊員の構成については第7話で木虎が
「A級隊員はボーダー全隊員の上位5%を占める精鋭中の精鋭なの!!」
と説明しているので、読者は「A級1位」という情報をボーダー隊員における序列の上位として認識することが出来ます。
また、主人公(の1人)であり第14話〜16話でA級7位の三輪隊と交戦、これを退けている遊真が第23話でA級隊員の小南に10本勝負で敗北している事実から、「No.1アタッカー」という肩書きも含めて
太刀川慶は通常トリガーを使った勝負なら主人公の空閑遊真より強い
と読者は認識することが出来ます。
主人公を「強さの尺度」とすることで肩書きに意味を持たせ、戦闘描写がなくても太刀川慶の強さを表現することに成功していると言えます。
さらにその強さは第27話からより具体的になります。
◯太刀川慶のエピソード
太刀川と迅に関するエピソードが、第27話で宇佐美から語られます。
「本部のトップは『弧月』使いの太刀川さん。迅さんのライバルだった人ね」
「迅さんが『スコーピオン』を使い始めてからは互角の勝負だったけど、トータルの戦績だと太刀川さんがかなり勝ってるんじゃないかな」
宇佐美の説明から、通常トリガー戦では太刀川の実力が迅と同等、あるいはそれ以上であることが判明します。
しかし、戦闘の結果は迅の勝利に終わります。
『あんたたちは強い。黒トリガーに勝ってもおかしくないけど、「風刃」とおれのサイドエフェクトは相性が良すぎるんだ、悪いな』
「勝負あり、だな」
致命傷を受ける太刀川ですが、悔しがるどころかもう「次」のことを考えています。
『……だが「風刃」の性能は把握した。あと三週間……正式入隊日までの間に必ずおまえを倒して黒トリガーを回収する』
それに対し迅は
「残念だけどそりゃ無理だ」
と返します。
この台詞だけを見ると「太刀川が迅に勝つのは実力的に不可能である」と解釈できますが、実はそうではないことがこの直後に判明します。
○ワールドトリガーにおける「勝負観」
太刀川たちを退けた迅はそのまま本部に行き取引を持ちかけます。
『うちの後輩の入隊と引き換えに「風刃」を本部に渡すよ』
取引を終えた迅に、太刀川が言います。
『何あっさり「風刃」渡してんだよ、勝ち逃げする気か? 今すぐ取り返せ! それでもっかい勝負しろ!』
とても前話で負けたキャラクターの台詞とは思えませんね(笑)
ワールドトリガーは「トリオン体」の設定があるため、「敗北と死の結びつきが他のバトル漫画に比べてやや弱い」という性質があります。
それは言い換えれば「負けたら終わり、ではない」ということでもあります。
実際、ワールドトリガーのキャラクターは敗北しても後ろ向きにならず、前を向き続けています。
例えば第63話でヴィザ翁に敗北したレイジさんは
「敵のトリガーは俺が分析する。宇佐美は京介たちをサポートしてくれ」
『泣くな、「玉狛」はまだ負けてない』
とすぐに前を向いて動き出しています。
ワールドトリガーにおける勝負の考え方は、第94話の遊真の台詞にあると考えます。
「みんなも同じように鍛えているのはわかってる。全部が全部勝てるとはかぎらない。でも、だから強い人と勝負するのはおもしろい」
「ランク戦の仕組みを作った人はなかなか考えてる。特に負けても誰も死なないとこがいいね」
ワールドトリガーの特徴として「キャラクターが死なない」ことがよく挙げられます。
しかしその本質は
・負けて終わりじゃない
・負けたキャラクターの価値が消えてなくなるわけじゃない
にあるのではないかと思いました。
そうじゃなかったら、主人公なのに負けまくってる修の立場がなくなってしまいますからね。
ワールドトリガーのキャラクターは、皆勝ったり負けたりの切磋琢磨で強くなっています。
それは「強いキャラ」「弱いキャラ」で大きな違いはありません。
「最強」でも普通に負けることがある
それがワールドトリガーという作品の独自性であり、魅力であるように私は思います。
○終わりに
以前に書いた考察を書き直そうとしたのですが、気付いたらほぼ全文書き直していました。
……まあ、そういうこともあります!
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