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なぜ菊地原の「強化聴覚」を読者は「強い」と認識するのか?

◯はじめに

ワールドトリガーには「能力バトル」の要素として「サイドエフェクト」という設定があります。

迅の「未来視」や遊真の「嘘を見抜く」が有名ですが、他にもサイドエフェクトは登場しています。

ざっくりまとめて見ると

・相手の強さを色で識別する(天羽)
・強化聴覚(菊地原)
・未来視(迅)
・感情受信体質(影浦)
・強化睡眠記憶(村上)
・嘘を見抜く(有吾/遊真)
・敵感知・気配を消す(千佳)
・動物との意思疎通(陽太郎)
・完全並列同時思考(ヨミ)
・猫かわいがられ(喜多川)
・精密身体操作(宇野)

BBF他

となっています。

また、ボーダーではサイドエフェクトを希少性により便宜的にランク付けしています。

・超感覚(S〜A)
・超技能(A〜B)
・特殊体質(B〜C)
・強化五感(C)

BBF

「ランク=強さ」ではなく、むしろCランクである菊地原の「強化聴覚」を「弱い」と思っているワールドトリガーの読者はほとんどいないのではないでしょうか?

なぜこのサイドエフェクトを読者は「強い」と認識しているのか、その理由を考察してみました。

◯「強化聴覚」の前振り

「強化聴覚」は第56話で判明し、このように説明されています。

一言で言えば「耳がいい」、ただそれだけの能力である。ボーダーの基準で言えばランクの低いサイドエフェクト。(中略)実際その性能は常人の5〜6倍。「1km先の針が落ちる音が聞こえる」というような超人的なものではなかった

第56話

ここで初めて菊地原のサイドエフェクトが「強化聴覚」であることが判明する訳ですが、その前に3つの前振りがあると考えました。

1つ目は第11話の遊真の台詞です。

「目閉じてる間だけめちゃくちゃ耳がよくなるやつとかいたな。何百メートル先の会話とかも聞こえるんだと」

第11話

これは実際に遊真が出会ったと思われる人のサイドエフェクトの説明です。

このサイドエフェクト自体は菊地原の「強化聴覚」とは性能が異なりますが、この遊真の説明により読者は「聴覚系のサイドエフェクト」が存在することを認識することになります。

2つ目は第46話で菊地原が何らかの能力を使ってラービットの装甲を分析をしている描写です。

「菊地原、装甲が厚いのはどのあたりだ?」

「特に厚いのは両腕、あとは頭蓋と背中。これ削り切るのしんどいですよ」

第46話

3つ目は直前の第55話でエネドラの死角からの攻撃を回避、さらに歌川の台詞から菊地原がサイドエフェクトを持っていることが判明する場面です。

「頼むぞ、おまえの副作用が頼りだ」

「はあ……これ疲れるからイヤなんだけど……」

第55話

まとめると

①「聴覚系サイドエフェクト」の存在
②ラービットの装甲の厚さを分析
③菊地原がサイドエフェクト持ちと判明

この3つの前振りがあると思われます。

さらに深読みすれば、黒トリガー争奪戦の第27話で迅が「風刃」の遠隔攻撃を初めて使った時に最初に狙ったのが菊地原だったのは『迅が菊地原の「強化聴覚」を警戒していたから』と読むこともできるかもしれません。

このような前振りは、ジャンプSQの漫画道場で葦原先生が説明されていた

「世界やキャラクターの設定を描く前に、読者がそれに興味をもてるように前振りをする」

ジャンプSQ/漫画道場

という手法であり、読者が菊地原の「強化聴覚」に興味をもつことでその強さを認識しやすくなっていると言えます。

◯「強化聴覚」の使用(登場)頻度

次に注目したのは「強化聴覚」が物語においてどのくらい使用されている(登場している)か、いわゆる使用(登場)頻度です。

第56話以降で私が確認できたのは以下の場面でした。

●「強化聴覚」によりエネドラの攻撃を回避

「右上と左の上下、それ以外は無視していいです」

「右上と左の上下、それ以外は無視していいです」

第56話

●忍田本部長がエネドラ戦で菊地原の「強化聴覚」を借りていたことが判明

「菊地原、さっきはおまえの強化聴覚を貸してもらえて助かった。いい副作用だ」

第72話

●上層部によるヒュースの尋問に菊地原が同席し、ヒュースの心音を調べる

「……液体化のヤツが死んだ話でちょっとだけ動揺してますが、それ以外は心音に変化ないです。これ以上揺さぶってもムダですね」

第104話

●ウェンの「藁の兵」による分身攻撃に翻弄される熊谷をアシスト

「一番右だよ」

「目だけに頼るからひっかかるんだよ。足音聞けば一発なのに」

第130話

●ラウンジにいるC級隊員が「ヒュースは近界民」と噂しているのを聞き取る

『菊地原が言うにはラウンジにいるC級隊員が……たぶんさっきの試合を見た子たちだと思いますが、「玉狛の新入りは近界民なんじゃないか?」って噂してるみたいで……』

第176話

●A級隊員による成績順予想の話し合いで冬島隊が菊地原に着目する

「暗いとこなら菊地原の耳の有利がでかくなるワケか」

第206話

●染井の通話の内容を聞いた菊地原が染井に声をかける(外岡は何のことか分かっていないので「強化聴覚」じゃないと聞こえていないて思われる)

「……その程度で根に持つほど繊細じゃないでしょ、香取は」
「……言ったでしょ? わたしがしたくないだけ」

第225話

このように列挙してみると、「強化聴覚」の使用(登場)頻度はかなり高いことが分かります。

これにより読者が菊地原の「強化聴覚」の存在を忘れにくくなり、それが「強い」と認識することに繋がっていると考えることができます。

また、忍田本部長や冬島隊のようないわゆる「強キャラ」が「強化聴覚」を高く評価していることも、読者の認識に影響していると言えます。

◯おわりに

ワールドトリガーは「◯◯を倒せるから強い、倒せないから弱い」という評価の仕方があまり意味を持たない設定の作品だと思っています。

今回の考察を通して、「強化聴覚」という「耳がいい」だけの能力がちゃんと活躍できるように、設定を緻密に構築している葦原先生の凄さを改めて認識することができました。







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