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「先入観コントロール④」(木虎藍編)

◯はじめに

このブログ最初の記事は「先入観コントロール」という謎の用語を使った東さんの考察でした。

それから弓場ちゃん、三輪と考察し「先入観コントロール」の考察はストップしていました。

それから約2年。

不思議なことにまだワールドトリガーの考察を続けています。

そこで今回は初心に帰って「先入観コントロール」について考察していきたいと思います。

今回考察するのはワールドトリガーの中でも特に人気がある(と思っている)「木虎藍」についてです。

私が第6話で初めて木虎を見た時の印象は

「正論を振りかざすキャラクター」

でした。

「そもそもC級隊員は訓練生。訓練以外でのトリガーの使用は許可されていません」

「C級隊員に示しをつけるため、ボーダーの規律を守るため、彼はルールに則って処罰されるべきです」

第6話

一般的に「正論を振りかざすキャラクター」に対して、読者はあまり良い印象を持ちません。

しかし私の中で木虎はそこまで印象が悪くない、むしろ好印象だった記憶があります。

そこには葦原先生の「先入観コントロール」が働いていると仮定し、考察してみました。

◯読者の代弁者

まず注目したのが、第6話の木虎に対する遊真の台詞です。

「なんだ? こいつ」

「へえ……エリート? こいつが?」

「……おまえ、遅れてきたのになんでそんなえらそうなの?」

「おれはああいう大したことしてないくせにえらそうなやつが大っキライなんだ」

第6話

これらの台詞、「読者がSNSに投稿しそうな木虎に対する感想」に見えてきませんか?

ここで私は

葦原先生は木虎を見た読者が木虎に対してどういう印象を持つかを予測し、それを先んじて遊真に「代弁」させたのではないか?

と考えました。

これは私の経験になってしまうのですが、漫画を読んでいて内容に不満や違和感を持った時、SNSで自分と似ている不満や違和感が投稿されているのを見ると、なぜかあまり気にならなくなることがあります。

本来なら自分が持ち続けるはずだった不満や違和感を、他者が代弁してくれることで手放すことができているのかもしれません。

つまりワールドトリガーの場合は

本来なら読者が持つはずだった正論を振りかざす木虎に対する不満や違和感を、遊真が即座に「代弁」することで手放すことができている。

と考えることができます。

しかしこれだけでは、読者が木虎に対してマイナスの印象は持たないにしてもプラスの印象を持つことは困難です。

木虎の印象がプラスに転じていると思われるのは、第9話の木虎と遊真の会話の場面です。

「けどおまえもけっこうすごいな。あのサカナ一人で倒したもんな」

「違う。私はあの近界民を止められなかった。誰かが手を貸してくれたのよ。私は自分がやってないことまで、自分の手柄にする気はないわ」

「……なるほど、A級隊員か……」

第9話

ここで読者の代弁者である遊真が木虎を評価することにより、読者も自然に木虎に対してプラスの印象を持つことができます。

木虎藍というキャラクターのアイデンティティとして「正論」は外せないものであり、それはワールドトリガーのテーマにも関わっていると思っています。

しかしその木虎を読者がマイナスの先入観で見てしまったら、どんなに素晴らしい「正論」も読者には絶対に届きません。

読者がマイナスの先入観で見ないようにする

という意味で、「先入観コントロール」が使われているように思いました。

◯正論へのフォロー

とは言っても、やはり「正論」には攻撃的な要素があります。

作中ではそれをフォローしていると思われる例がいくつか見られるので紹介したいと思います。

●修と風間さんの模擬戦(第35話)

正論
『「ダメで元々」「負けも経験」いかにも三流の考えそうなことね。勝つつもりでやらなきゃ勝つための経験は積めないわ』

フォロー(烏丸)
「おまえいいこと言うな」

第35話

●修の射手修行(第109話)

正論
「特にありません。今の彼はまだ学ぶ段階にないと思いますから」

フォロー(出水)
「はあ――? 相変わらずクソ生意気だな木虎のやつは」

第109話

●ROUND4敗北後①(第122話)

正論
「お断りします。三雲くんを鍛えても、B級上位に勝つのは無理だと思うので」

フォロー(時枝)
『「鍛えても無理」か。きついこと言うね』

第122話

●ROUND4敗北後②(第122話)

正論
「はっきり言って、あなたが上と勝負できるようになるには、あと2年は必要だわ」

フォロー(時枝)
(2年あればいけるとは思ってるんだ、意外)

第122話

●ROUND4敗北後③(第122話)

正論
「目の前の目標から目を逸らして方向の違う努力に時間を費やすって言うなら、それは単なる現実逃避よ。私はそんなことに付き合うほど優しくもないし暇でもないの」

フォロー(綾辻󠄀)
「藍ちゃんド正論だけどきびしい〜」

第122話

◯おわりに

ワールドトリガーは良い意味で「主人公に優しくない世界設定」の漫画だと認識しています。

だからこそ、本来なら忌避されやすい「正論」を読者が受け入れやすいのかもしれません。

木虎がこの先どんな「正論」を言ってくれるのか楽しみです。
















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