「経営学」で読み解くワールドトリガーの設定
○はじめに
経済学の観点からワールドトリガーを考察してみました。
【登場する経営学者】
●フレデリック・テイラー
フレデリック・テイラーは1856年にアメリカで生まれた経営学者です。
テイラーはショベル作業を研究し、効率的に作業するためには作業者に合ったショベルが必要だということを発見します。
そして会社に生産性向上のために8種類のショベルを用意するように提言しました。
会社側はショベルを用意したり管理したりするコストの心配をしていましたが、結果として作業者の作業量は上がり生産量あたりのコストは下がりました。
ここで私が注目したのは「会社が作業者に合ったショベルを用意した」ということです。
何だかワールドトリガーっぽくないですか?
ワールドトリガーもボーダーというある種の会社が作業者である戦闘員に様々な種類のトリガーを用意していますよね?
B級隊員が装備出来るトリガーをざっと見ても、
【攻撃手トリガー】
【射手トリガー】
【銃手トリガー】
【狙撃手トリガー】
【特殊工作兵トリガー】
【観測手トリガー】
【防御用トリガー】
【オプショントリガー】
B級隊員(正隊員)になるとこれだけのトリガーの中から自分に合ったものを選び、組み合わせることが出来るのです。
また、各トリガーの簡単な調整(熊谷の弧月の鍔、村上の黒い弧月、東隊の雪用迷彩バッグワームなど)はB級でも可能なので、A級隊員のようにトリガーの改造が出来なくても十分に戦えます。
そもそもA級上位3部隊(太刀川隊・冬島隊・風間隊)は誰も改造トリガー使ってないので、トリガーの優劣はB級とA級でほとんどないと言えます。
ワールドトリガーに限らず、バトル漫画における軍事的組織は各隊員に合った「ショベル」をある程度は準備していると思いますが、ワールドトリガーはその「ショベル」の種類が圧倒的に多いと言えますね。
さらに、このボーダーのトリガーの仕様が経営学的に有効である根拠はまだまだあります。
●ロバート・キャンプ
ロバートはゼロックスで「ベンチマーキング」の責任者を務めた経営学者です。
「ベンチマーキング」とは「他部署や他企業の優れた事例から目標やプロセスを学ぶ」ことであり、当時日本企業が無意識のうちに行っていたものをロバートが体系化しました。
また、「ベンチマーキング」は競合相手の商品をバラして秘密を探る「リバースエンジニアリング」に始まったとされていますが、ボーダーも近界民のトリガー技術を「リバースエンジニアリング」で研究していると言えます。
「ベンチマーキング」の中で今回注目したのは「内部ベンチマーキング」です。
「組織内の優れた事例から学ぶ」ということですが、これはワールドトリガーでは「B級ランク戦」に当たります。
実際にランク戦に参加することで対戦相手から学ぶ、あるいは観戦することで戦闘参加者から学ぶことが出来ます。
ワールドトリガーの戦闘の要素は
にあることを私は「ワールドトリガーに学ぶパワーインフレ抑制法」で考察しましたが、この3つの要素の中でボーダー隊員が研鑽出来るのは「トリガー性能」(トリガーの使い方や組み合わせ方を工夫する)と「戦闘技術」になります。
そしてその2つを向上させるための有効な学習法が「B級ランク戦」になります。
B級隊員は全員同じトリガーを使える(選べる)ので、他者のトリガーの使い方や組み合わせ方を参考にすることができます。
主人公部隊である玉狛第二も他者からトリガーの使い方や組み合わせ方を学んでいます。
また、ランク戦に実況・解説があることで「暗黙知」(客観化出来ない主観的な知識)が「形式知」(文章化できる知識)になり、隊員の育成に大きく貢献しています。
このようにメリットが多い「B級ランク戦」ですが、バトル漫画として見ると「味方同士で模擬戦をしているだけ」と見られがちなのも事実としてあります(経験談)
それも一理あるので否定は出来ませんが、それだけでワールドトリガーを評価してしまうのはもったいないかもしれませんね。
●チェスター・バーナード
チェスター・バーナードは1886年に生まれた経営学者です。
バーナードは1927年から20年間、社長を務め、会社の発展に貢献しました。
社長在任中に出版した『経営者の役割』(1938)は、世界恐慌で苦しんだ経営者を鼓舞するものでした。
バーナードは「組織に『共通の目的(経営戦略)』を与えるのは経営者の役割」としました。
この考え方は当時としては画期的で、「戦略(Strategy)」という軍事用語を初めて経営に用いたのはバーナードです。
この「共通の目的(経営戦略)」はワールドトリガーにも登場します。
ワールドトリガーにおける「ボーダー」という組織は2種類あります。
1つは今の玉狛支部を本部として、19名のメンバーで活動していた「旧ボーダー」。
もう1つは三門市に初めて大規模な近界民侵攻が起きた後に設立された「現ボーダー」。
旧ボーダーは明確な経営者は判明していませんが、「『こっちの世界』と近界民との橋渡し」を「共通の目的(経営戦略)」として活動していました。
迅が言うところの「近界民にもいいヤツがいるからなかよくしようぜ」ですね。
しかしその旧ボーダーは5年と少し前の戦いで壊滅的な被害(19人10名死亡)を受けます。
会社で言うところの「倒産の危機」です。
そこで次は城戸司令が経営者として現ボーダーを作る訳ですが、1度失敗している旧ボーダーの「共通の目的(経営戦略)」ではまた失敗する可能性が高いのは明らかです。
そこで城戸司令はボーダーをより強い組織にするために経営者として新たな「共通の目的(経営戦略)」を作ります。
それが「近界民は全て敵」です。
奇しくも旧ボーダーとは真逆の「共通の目的(経営戦略)」でしたが、近界民による被害を受けた三門市民には最大の効果を発揮し、多くの人が集まり、ボーダーは大きな組織になりました。
さて、ここで1つの疑問が残ります。
それは
です。
玉狛支部がなければ黒トリガー争奪戦のような本部との衝突も起きなかったはずです。
その疑問に対する答えは、この後の考察にあります。
●クレイトン・クリステンセン
クレイトン・クリステンセンは1952年に生まれた経営学者です。
クリステンセンはコンピューター部品での研究をもとに、「既存の技術や仕組み」を磨き高めていても、「新しい技術や仕組み」はそこから遠く離れたところに生まれ、進化していき、それは「破壊的イノベーション」となって「既存の技術や仕組み」を駆逐してしまうことを主張しました。
確かにワールドトリガーでも、現ボーダーが継戦能力を重視したトリガーを制作し、それを使って防衛任務でバムスターやモールモッドを撃退する「既存の技術や仕組み」に従事している間に、近界の遠く離れたアフトクラトルでは、トリガーを加工したトリオン受容体を幼児の頭部に埋め込み、後天的にトリオン能力の高い「改造人間」を作り出す技術を実用レベルにしたり、トリガー使いを捕獲するラービットの開発なと、「新しい技術や仕組み」が生まれ進化していました。
この「破壊的イノベーション」への対処としてクリステンセンは組織内に「小さな別働隊」を作ることを提言します。
「既存の技術や仕組み」から外れた「小さな別働隊」なら、「新しい技術や仕組み」を生み出す可能性が高くなります。
そして現ボーダーにおける「小さな別働隊」が、玉狛支部なのです。
これが前述の疑問の答えになります。
そもそも現ボーダーの「近界民は全て敵」という「共通の目的(経営戦略)」は、現実で言えば日本が「日本以外は全て敵」と言っているようなもので、長期的に見れば無理があります。
近界に無数にある国が一斉に玄界に攻めてきたら、玄界の戦力だけではどうすることも出来ません。
つまり、近界民との協力関係は不可欠です。
しかし現ボーダーが「近界民は全て敵」としてしまっている以上、本部が大っぴらに近界民と協力関係を結ぶことは出来ません。
そこで近界民との協力関係の窓口として、「小さな別働隊」である玉狛支部があるのです。
実際、玉狛支部は近界民である遊真やヒュースを戦力に加え、ガロプラ遠征部隊と同盟を締結しています。
遊真が玉狛支部に所属していなかったら、アフトクラトルの大規模侵攻(「破壊的イノベーション」)による被害はさらに大きなものになっていたでしょう。
奇しくも、遊真が黒トリガーを所持していたために「小さな別働隊」であるはずの玉狛支部が、本部より戦力を有してしまったために起きたのが黒トリガー争奪戦です。
ボーダーの遠征部隊もある意味では「小さな別働隊」であり、黒トリガー争奪戦は
という皮肉が込められていると言えるかもしれませんね。
○おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございました!
【参考文献】
「マンガ経営戦略全史〔新装合本版〕/三谷宏治」
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