見出し画像

ワールドトリガーは三雲修の「英雄譚」なのか?

○はじめに

私がこのブログを始める前から考えていたのが

ワールドトリガーのストーリーに型はあるのか?

ということでした。

なかなか考えがまとまらなかったので後回しにしていましたが、ようやく考察が形になってきたので、書いてみたいと思います。

○「ヒーローズジャーニーのステージ」

アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルが「千の顔を持つ英雄」(1949)で提唱した概念が「ヒーローズジャーニーのステージ」です。

ジョージ・ルーカス監督が「スター・ウォーズ」に取り入れて以来「ロード・オブ・ザ・リング」や「マトリックス」などにも使われて、この型に当てはめれば必ずヒットする……と言われるようになっているそうです。

「ヒーローズジャーニーのステージ」は以下の12の段階で構成されています。

①「日常生活」
②「冒険への誘い」
③「冒険の拒否」
④「賢者との出会い」
⑤「戸口の通過」
⑥「試練・仲間・敵」
⑦「最も危険な場所への接近」
⑧「最大の試練」
⑨「報酬」
⑩「帰路」
⑪「復活」
⑫「宝を持っての帰還」

修を主人公として、この「ヒーローズジャーニーのステージ」に当てはまっているか見ていきます。

①「日常生活」

第1話の時点で修はボーダーに所属していますがまだC級隊員(訓練生)であり、目立った活躍はしていません。

修がボーダーに入隊した目的はBBFには

雨取の兄・麟児氏を近界から奪還すること
雨取を守る力を手にすること

BBF

とありますが、第1話の時点ではその目的を達成することは難しい状況です。

「おまえ、トリガー使っても弱いね。かっこつけて飛び出してったわりには」

第1話

②「冒険への誘い」

修は近界から来た遊真に出会ったことで、「C級隊員でありながらトリオン兵と交戦して撃退した」という虚偽の事実がボーダー内で周知されてしまいます(第5・6話)

「C級隊員の三雲修です。ほかの隊員を待っていたらまにあわないと思ったので……自分の判断でやりました」

第6話

修は隊務規定違反でクビになりそうになりますが、迅の機転で処分が保留になります(第10話)

「そのかわりと言っちゃなんですけど、彼の処分はおれに任せてもらえませんか?」

第10話

そしてイレギュラー門の原因がラッドであることを特定した遊真の手柄を修の手柄にすることで、修にB級昇進のチャンスが訪れます(第11話)

「あ―、それいいかもな。メガネくんの手柄にすればクビ取り消しとB級昇進はまちがいない」

第11話

③「冒険の拒否」

修は迅の提案に対して

「ま、待ってください。ぼくほとんど何もしてないですよ!?」

第11話

と拒否します。

④「賢者との出会い」

B級昇進を拒否する修に迅(賢者)がアドバイスします。

「B級に上がれば正隊員だ。基地の外で戦っても怒られないし、トリガーも戦闘用のが使える」

「おれの経験から言って……パワーアップはできるときにしとかないと、いざって時に後悔するぞ」

「それにたしかメガネくんは……助けたい子がいるからボーダーに入ったんじゃなかったっけ?」

第11話

⑤「戸口の通過」

迅のアドバイスでB級昇進を決意した修は、第12話で戦闘用トリガーを使用し、トリオン兵(バンダー)を撃破します。

さらに守るべき対象である千佳がボーダーに入り遠征に参加する意志を示したため、千佳と隊を組んで玉狛支部からA級を目指すことを決意します(第21話)

「たった今からお前たちはチームだ。このチームでA級昇格、そして遠征部隊選抜を目指す!」

第21話

⑥「試練・仲間・敵」

修は第23話から烏丸に師事し鍛錬を開始します。

「三雲おまえ、弱いな。ほんとにB級か?」

第23話

第25話ではレイジさんの指導で生身の鍛錬もしています。

『トリオン体での戦闘に生身の筋力は関係ないが、トリオン体の操縦は生身を動かすときの「感覚」が元になっている。生身で「動ける感覚」を掴めばトリオン体ではその何倍も動けるようになる。生身の鍛錬を甘く見ないことだ』

第25話

第37話では風間さんと模擬戦をして引き分けを勝ち取りますが、第39話では緑川が集めた観衆の中で緑川に大敗します。

「最後は相打ち……引き分けだ」

第37話

(全敗か……最後まで動きが読めなかった)

第39話

しかしその後に遊真が緑川を倒したことで、緑川は反省し遊真や修を「先輩」と呼ぶようになります。

「……三雲先輩、すみませんでした」

「……そういう約束だったからな、白チビ先輩」

第41話

⑦「最も危険な場所への接近」

第43話からアフトクラトルの侵攻が始まり、B級隊員の修も戦闘に参加します。

「うお、早いな」

第43話

⑧「最大の試練」

基地に入ろうとする修の前にハイレインとミラが立ちはだかります(第75話)

「ワープ使いをかわして強引に基地に入るか、今から別の入り口へ向かうか、逃げてユーマや迅が駆けつけるのを待つか。まともに戦っては勝ち目はない」

第75話

修はトリガーを解除することでハイレインの攻撃を無効にしますが、ミラの攻撃で生身に瀕死の重傷を負ってしまいます(第80話)

「やべーな、血ぃ出すぎだろ。傷だけ縛って基地の医務室に運んじまおう。病院よりそっちのほうが早え―や」

第81話

⑨「報酬」

修の命懸けの策により、千佳を守り切ることが出来ました(第81話)

「ちゃんと言われたとおり、隠してたチカ子見つけてきたっすよ!」

第81話

⑩「帰路」

目的を達成したハイレイン達は玄界を去りアフトクラトルに引き返します(第81話)

「エネドラヒュースの件も含めて、当初の目標は達成した」

第81話

⑪「復活」

意識不明の修は、過去の記憶を想起します(第82話)

その記憶の中で修が遊真に出会う前の「ヒーローズジャーニーのステージ」が明らかになります。

「冒険への誘い」
→修は家庭教師の雨取麟児から千佳を守るために近界に行く計画について聞く。

『今度その「協力者」たちと一緒に近界民の「門」の向こうを調べに行く』

第82話

「冒険の拒否」
→修は麟児と一緒に行こうとするが、麟児に止められ躊躇してしまう。そして修が決断する前に麟児は計画を決行してしまう。

「いやぼくも行きますよ! ぼくもそれに参加させてください!」

「馬鹿言うな。最悪死ぬか攫われるかだぞ。そうなったら親御さんに申し訳が立たない」

第82話

「賢者との出会い」
→ボーダーの入隊試験に落ちた修は直談判するために基地を訪れる。そこでトリオン兵に襲われるが迅に救助される(第1話の冒頭に繋がる)

「何とか基地に入り込んで、ボーダーの偉い人に直談判すればもしかしたら……」

「よう、無事か? メガネくん」

第82話

そして修は意識を取り戻します。

⑫「宝を持っての帰還」

唐沢さんのアシストで記者会見の場に立った修の演説する姿に、読者は修の成長を読み取ります(第85話)

「ぼくはヒーローじゃない。誰もが納得するような結果は出せない。ただその時やるべきことを、後悔しないようにやるだけです」

第85話

そして修はストーリーの主人公(ヒーロー)としての帰還を果たします。

これは修を見る唐沢さんの心の声に象徴されていると思いました。

(戻ってきたな。やっぱりきみはヒーローだよ)

第85話

○終わりに

大規模侵攻編までが「ヒーローズジャーニーのステージ」を意識して描かれたのかどうかは葦原先生にしか分からないですが、葦原先生が第85話を最終話と考えていた(BBF)ならば、使われている可能性もあるのではないかと思いました。

【参考文献】
「マンガ脚本概論 漫画家を志すすべての人へ/
あそうあきら」







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?