春風

眼鏡を外したら美少女、な彼女は学年で一番最初に学校を辞めた。眼鏡もマスクも頑なに外そうとしなかった、クラス写真で私の隣に真顔で立つ、あの子

一緒に図書委員をやった。図書館だよりの「図書委員の推薦図書」のコーナーを、一文ずつ交互に一緒に書いた。いつも教室の隅で静かに本を読んでいた、あの子。実はそれ漫画だってこと知ってるんだけど。

機関誌に載せるクラスメイトの顔写真をカメラに収めていく係をやった。彼女は頑なにマスクを外そうとはしなかった。一瞬外してくれたと思ったらレンズを向けた瞬間にひょいと鼻に戻す。それを何度か繰り返して、痺れを切らした私は「これで最後だからね!」と強引にシャッターを押した。画面に写っていた彼女の顔は、思わず見惚れてしまうほど綺麗で、白いマスクは顎まで下げられていた。サービス、と言って笑った、あの子

同じ高校に進学して、再び同じクラスになった、四月。あの子は早々に学校を辞めた。

一年間ずっと、誰も話題にすら出さなかった窓際の空席、午後の授業中そこを見つめていると目がしばしばしてしまう、よく日が当たる席だった

一緒に図書委員をやってた時に交換したLINE、のアイコンの、桜の木

あの子を思い出す時は、いつも春風の香りがする


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?