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記憶
私は小さな頃から、人の顔を全く記憶することが出来なかった
友達どころか家族の顔も目の前にいない状態で映像としてイメージすることが出来ない
映像として記憶が出来ないので、頭の中で文字に変換して覚えていた だからドラマや映画が見られなくて頭の中で世界を作り完結させられる読書を愛し、活字中毒と言われるほど本が唯一の娯楽だった
そんな私がひょんなことからライブというものに行き始め、驚愕した
ついさっき見たはずの表情さえ、目をつむって思い出そうとしても私の脳は再生してはくれなかった 見たものや思った感情を逐一言葉に変換してゆかねば全く記憶には残らないのだ
逆に言えば、文字への変換を意識すれば文字としては記憶にしっかり残る しかし映像として思い出すことは全く出来ない 目の前の光景を忘れたくないと願った感情の記憶と、刻み込んだ情景の文字描写が小説のように手元に残るだけ
自分のポンコツ頭にブチ切れながら何度意識して見てみても結果は同じだった
だから 私にとってライブとは
決して振り返ることのできない花火みたく一瞬で儚く消える夢だ
持ち帰ることの出来ないその時間その空間でしか味わうことの出来ない夢
ライブの度に私の頭は必死に2時間の小説を執筆している
たとえ消えてしまうと分かっていても
双眼鏡で、笑う顔を見たいし
照明で彩られた美しい空間を感じたいし
いま目の前で発せられた歌声を聴きたいのだ
覚えていたいのだ
たとえ掻き集めてみても指の間からさらさら溢れ落ちてゆくと分かっていても
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