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TESTSET "1STST"

Jul 12, 2023 / Warner Music Japan

砂原良徳、LEO今井を中心とする新バンドの初フルレンス。

今作のオープナー "El Hop" を聴いていて、相変わらず流暢な英語詞の中に意表を突く形で挿入される日本語詞に、かなりハッとさせられた。「ただ踊りたいだけなのに 足を引っ張る目論見/ただ踊りたいだけなのに 邪魔をしやがる人間的」。そうだ。そもそも彼らはどん底の地点から、怒りと反骨精神を携えて始動したバンドだったことをはっきりと思い出した。

2016年の SUMMER SONIC 大阪で、自分は METAFIVE のライブを一度だけ見たことがある。真っ昼間の時間帯にエリア一杯にまで観客が集まり、そこで見せた彼らのパフォーマンスは、さすがベテランばかりが集っただけあって実に余裕のあるものだった。強烈にタフ、なおかつスタイリッシュに磨かれたダンスグルーヴでしっかりと観客全員の体を突き上げつつ、その上で見せるポップセンスは至って涼やかな、ともすればユーモラスな素振りすらもあり、先鋭的なアート性を保ちつつ、敷居の高さを感じさせないエンターテインメントとしても成立していた。だがそれから5年後、改めて言うまでもないが、METAFIVE は諸々の理由により空中分解。コロナ禍真っ只中の状況でただでさえ思うように活動ができない上に多くの苦難が続く中で、砂原良徳とLEO今井の二人は継続を選択した。過去のインタビューで LEO は「なんで私が出演を辞退しなきゃいけないんだ?って思った」と、まりんは「失うものもない」「捨て身」と述べている。彼らの長いキャリアの中でも、おそらく未だかつてなかったくらいであろう逆境の中で、彼らは踊ることを、踊らせることを選んだ。邪魔をするなと。

そんな始まり方なので、四人編成の METAFIVE 名義で出演した2021年のフジロック、またその翌年にバンド名が TESTSET となってからの OTODAMA でのライブを自分は見たのだが、そこにかつての METAFIVE の時のような余裕っぷりは、良くも悪くも皆無だった。代わりにあるのは、我々の踊りを邪魔するなという反骨精神であり、シリアスかつパワフルに気を吐く、並々ならぬ野心、闘志だった。バックスクリーンの映像と緻密に同期する演奏、その中でラウドに歌い上げる LEO の姿には、なんだか鬼気迫るものを感じた。

この正式な初フルレンス作においても、そういった彼らのモードがそのまま受け継がれている。特にアルバム前半は昨年の "EP1 TSTST" で見せた音楽性を素直に深化/発展させたと言える、硬質で無機的なエレクトロチューンの応酬だ。テクノを軸にファンクやロックの要素を交配し、スクエアに統制された音の中で肉感的なうねりを見せる。そこにはかつての "Don't Move" のような遊び心や華やかさよりも、ストイックに躍動を突き詰めるテンションの激しさが、実際の音の鳴り以上に前のめりに発揮されているように感じられる。中には "Tsetse" や "Heavenly" といった、IDM にも通じるサウンドデザインで複雑で気持ち悪いグルーヴを生み出す楽曲もあり、ある意味 LEO らしいアクの強さが存分に生かされている一方で、緊張感とストイシズムはなお加速するばかりだ。終盤の "Over Yourself" 以降はロック要素がだんだん強くなり、メロディの感触も明るさを増して開放的になっていくが、それらはリスナーに対してフレンドリーになったと言うよりも、あくまで TESTSET としての新たな側面を少しずつ確立していこうとする、やはり野心の成せる業だろう。ドラマチックな終焉へと段階を踏んでいくアルバム構成の中で、多種の音楽要素の配分を微調整しながら、彼らはどこへ向かえるか、どこまで行けるかを確かな足取りで模索している。

怪我の功名的な成り行きで始まったバンドは、徐々にそのスタンスを固め、ここでようやく本格的なスタートラインに立った。終着点ではない。彼らは新しいバンドである。至ってクールに、ワイルドに、セクシーに、そしてありったけのファイティング・スピリットを持って、彼らはこれからも変化し続けていくのだろう。今作はその途中経過であり、まだまだ流動的に形を変えていく、その「先」を期待させるには十分な内容だと思う。

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