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Skrillex "Quest for Fire" "Don't Get Too Close"

Feb 17, 2023 / Owsla, Atlantic
Feb 18, 2023 / Owsla, Atlantic

アメリカ・ロサンゼルス出身のプロデューサーによる、約9年ぶりフルレンス2作目/3作目。

スクリレックスと俺。その出会いは5年前の FUJI ROCK FESTIVAL に遡る。もちろんそれ以前から楽曲は知ってはいたのだが、2018年のグリーンステージ出演時が自分にとって彼との初対面であり、それは同時に、自分が初めて体験する EDM パーティーでもあった。立て続けに投下されるゴリゴリのアッパーチューンの応酬。力強いアジテーションで鼓舞され続け、次第に肩を組み合ってバウンスを共有するオーディエンス。派手に吹き上がるパイロやスモーク。止めどなく膨れ上がり続ける熱狂。そして急遽スペシャルゲストとして登場した YOSHIKI 。ステージ横に鎮座したクリスタルピアノに構え、強い雨の中で優美に奏でられた "Endless Rain" 。苗場の数万人はもっと降りしきれと言わんばかりの大合唱によって一体と化した。Skrillex も一応隣で歌メロをギターでなぞっては見るものの存在感が一気に希薄になっている。そしてライブを締めくくる "Scary Monsters and Nice Sprites" ではクリスタルドラムに移り、ドラムンベース状態と化したアレンジで無謀の勢いをまとってオルガスムへとひた走る。最後は衝動のままにドラムをこれでもかとしばき倒し、椅子に登って「フジロック!!!」と叫んで終了。どれだけアウェーだろうが他人様のステージだろうが、我が道のみを突き進んで自らの美学を見せつける、そのあまりにも潔い生き様に自分はいたく感動した。苗場の冷たい雨が心の傷を完全に癒してくれた。俺たちはみんな運命共同体だ。我らが誇るラストロックスターは今なお挑戦を続け、最強の布陣を揃えてどこまでも無敵に世界へと羽ばたく…

Skrillex の話をしていたはずだが?

テン年代のポップシーンを席巻し、今現在に至るまで世界中に強大な影響を及ぼしている EDM ムーブメント。Skrillex はその代表格的な存在のひとりであるわけだが、この度の "Quest for Fire" "Don't Get Too Close" 連作は、今までのようなスタジアム規模での底なしの享楽性を踏襲するよりも、そこから一歩踏み込んで EDM の持つ発展の可能性を模索する方向に切り替わっている。もちろん彼ならではの圧の強いベース音が効いたダブステップ、あるいは4分打ちの縦ノリダンスグルーヴは全体に貫かれている。しかしノイジーで攻撃的な上モノシンセは成りを潜め、それよりも立体的な音像の奥行きや洗練されたメロディラインを重視し、現場対応でありつつ自室でのリスニングも意識した、単純なダンストラックに留まらない深みのある音世界を構築しているのだ。

また、単独作よりコラボレーションの方が圧倒的に多い人なので、今作も例によって豪華絢爛、多種多様なゲストが勢揃いしているが、Justin Bieber や Kid Cudi 、Missy Elliott といった大スターから、Fred Again… や Swae Lae などの一回り下の若手、さらには Four Tet 、Eli Keszler 、Porter Robinson のような、EDM とはいささか距離のあるインディ寄りのエレクトロ・アーティストも多く招聘されている。この極端から極端へと移行するかのように見える大胆な人選も、絶妙なさじ加減によって取っ散らからずにアルバム作品としてのトータリティを確かに維持している。ざっくり言えば "Quest for Life" が動、"Don't Get Too Close" が静のイメージで構成されているのだが、個人的には前者の方のダイナミックさに惹かれる。ド頭からヘッドバンキングを促すハウシーな "Leave Me Like This" 、Missy のキレッキレに挑発的なラップが映える "RATATA" 、ダブステップ原初への回帰を思わせる "Tears" 、幻想的で甘美な Four Tet ならではのポップセンスが意外なほどに EDM 要素とマッチした "Butterflies" 、パレスチナ出身のシンガー Nai Barghouti をフィーチャーして新種のエキゾチシズムを生み出す "XENA" 、そして最後はドリーミーな浮遊感の UK ガラージ "Still Here (with the ones that I came with)" でドラマチックに終幕。禁じ手なしの勢いで様々なサブジャンルを取り入れ、そのいずれにおいても Skrillex らしいパーティー精神、フィジカル面の強さに裏打ちされた作家性が刻み込まれているのだから、さすがに唸らされる。

EDM やブロステップは一過性のブームを超え、もはや現代のポップミュージックにおけるある種の基礎、定番の位置にまで浸透し、勃興当初は軽視していた批評筋も改めてその存在意義を認識せざるを得なくなっている。時代がすっかり一周した中で、お待たせしまくった重鎮が出すアルバムが、ここまで繊細かつ挑戦的な作りになっているとは予想していなかった。EDM は現在進行形のジャンルとして生きている。散々死んだことにされているロックも今なお時代の流れとともに変容を続けているのだし、死ぬジャンルなどはない。新たにブラッシュアップを施された最先端のクールネスを味わおう。


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