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ZULU "A New Tomorrow"

Mar 3, 2023 / Flatspot

アメリカ・カリフォルニア出身のロックバンドによる初フルレンス。

一枚のアルバムの中で数多くの音楽ジャンルを横断するタイプの作品に出くわすことがままある。曲ごとにジャズっぽくなってみたりエレクトロになってみたり。最近の自分はそういう作品があまり好きではない。幅広さを目指す姿勢にも確かなイズムを中心に感じ取れるなら別に良いのだが、だいたいの場合がちょっとした色目と言うか、全体の流れに起伏をつけるために試しにやってみた程度の、手広くやれる器用さをアピールするのみで完結しているパターンばかりだからだ。本流を引き立てる傍流に過ぎない、起承転結の承と転を担当するばかりの脇役に徹した、メインのキラーチューンに対して存在感の軽い楽曲たち。そういった楽曲で無闇にかさを増すくらいなら、もっとタイトに絞って統一感を出し、そのミュージシャン本来の主義主張を突き詰めてはっきりとこちらにぶつけてきてほしい、そんな思いがある。

今回の "A New Tomorrow" は、基本となる音楽性はメタル/ハードコア。しかしジャズ、ファンク、ソウル、レゲエ、ヒップホップといった外部の要素も随所で顔を出してくる。では今作は上記のような浮気性の内容なのか。全くもって違う。全ての要素が不可欠であり、分かりやすい山あり谷ありの構成では収まらない、思わず笑いが起こってしまうくらいのエクストリームな流れを生み出して、聴き手を剛腕でねじ伏せてくるのだ。

オープナー "Africa" はピアノとバイオリンの優美な音色が棚引くインストゥルメンタル。カバーアートにも表れている祈りにも似た美しさ、生命力と崇高さを感じさせるが、その景色はわずか1分後の掛け声を合図に暴虐のヘヴィネス "For Sista Humphrey" へと急転する。重く鋭いギターの刻みと、重心を低く構えるリズム隊のうねるグルーヴ。必然的にヘッドバンキングを促すその凄みはわずか1分後に牧歌的なソウルへと様変わりし、続けてパンクっ気の強いファストな荒ぶりで迫る "Our Day Is Now" に入るが、わずか1分後には陽気なレゲエへと切り替わってモッシュパートが強制終了する。書き連ねていくときりがない。情報によれば Nina Simone や Curtis Mayfield 、ジャマイカのレゲエの重鎮 Freddie McGregor らの楽曲からのサンプリング(と言うかほぼそのまんま使い)が散りばめられているとのことだが、100秒程度のショートカットナンバーの合間合間にこれらが組み込まれることで、ジャズを起点として豊かに発展してきたブラックミュージックの歴史をサブリミナル的に映し出し、スポーティで猛々しい演奏にひとつの奥行きを与えている。

またサンプリング以外にも本人達の演奏により、スウィートな陶酔感に浸らせるソウルナンバー "Shine Eternally" 、アーバンに洗練されたラップを聴かせる "We're More Than This" といった変化球も用意しているが、これらはアルバムの音楽性を拡張すると言うよりも、先述のサンプリングと同じように黒人文化由来のカルチャー全般にリスペクトを払うという意味合いを持たせており、傍流を増やすのではなく主流のハードコアサウンドに濃密な説得力を持たせる役割を果たすもので、単純なサウンドの緩急のみに留まらない必要性が感じられる。

他には "52 Fatal Strikes" で挿入されるメタル感たっぷりの面妖なソロプレイであったり、ミクスチャーロック感の強まった "Divine Intervention" のカオティックな様相であったりなど、ストップ/ゴーを巧みに切り替えながらメタルやパンクにまつわる種々のサブジャンルを溶け込ませており、肉体的な躍動、聴覚的な快楽性をさらに充実させる、ヘヴィサウンドならではの滋味を豊かに感じさせるのだ。急発進/急ブレーキで脳がぐらつくほどに目まぐるしい刺激的な展開にしろ、純粋にロックバンドとしての身体能力も鍛え上がっている。一箇所に留まらない広範に渡る視界を持ちながら、軸足は決してブレない。この絶妙なバランス感覚こそが、ごった煮と評されるタイプのアルバム作品が傑作の域にまで到達するための必須要項だろうと自分は確信する。

昨年は Soul Glo が厳しくポリティカルな姿勢を打ち出しつつ、ハードコアの中にヒップホップ要素も織り交ぜた傑作 "Diaspora Problems" を上梓していた。今作には Soul Glo のボーカル Pierce Jordan がゲスト参加している楽曲もある。微妙に方向性は違えども、ロックバンドとして音楽的、思想的に少なからず通じ合う部分がある。極めてシビアに、しかしながらオプティミスティックに、彼らはフロアを沸かしながら幾度となく思索を繰り返し、新しい未来へと向かう。ここが歴史の最先端なのだ。遠く離れた地に住む別人種の我々もスリルと期待を持って併走しよう。


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