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Crumb "Ice Melt"

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アメリカ・ニューヨーク出身のロックバンドによる、1年10ヶ月ぶりフルレンス2作目。

ボーカルギターを務める Lila Ramani は、同じくニューヨークを拠点とする前衛音楽コレクティブ Standing on the Corner の一員でもあるという。試しにその SOTC の楽曲も聴いてみたが、そちらはジャズ、ソウル、ヒップホップなどの楽曲をズタズタにカットアップし、それらの断片をエレクトロニカの手法で立体的に繋ぎ合わせた、思うさまアバンギャルドまっしぐらな強烈音像だった。対してこの Crumb はと言うと、そこまで極端な路線を志向しているわけではない。基本的には Lila の流麗なボーカルをフィーチャーした歌モノである。ただ、アレンジ面には両者に通じる部分が少なからずあると思う。今作でのバンド演奏はポストプロダクションによって解体~再構築を施され、エレクトロニカ由来の音響性をまとい、歌の持つ表情に深い陰翳を与えるのみならず、時にはラディカルに歪ませてしまってもいるからだ。

今作を聴いていて特に印象的だったのは「間」の取り方だった。例えば冒頭に据えられた "Up & Down" を細かく追ってみる。この楽曲は大まかに3つのパートに分けられる。①水の中で力を抜いて漂うような浮遊感に始まり、その心地良さを即座に不穏さへと変換するかのごとく不協和音スレスレの奇怪なギターリフが切り込む。②それまでグライム風のなだらかなスピード感を持ったリズムだったのが、2分を過ぎたあたりで突如バウンシーな4分打ちにスイッチ。③その4分打ちはわずか10秒程度で途切れ、ブーンバップ調のリズムにまたスイッチしてますます不穏さを増す、といった調子。これら3つのパートは同じ表情を持ったシンセとボーカルで連結されているが、その連結部には「何か異変が起きた」と聴き手に思わせる「間」が仕掛けられている。曲のスムーズな流れを殺さずに違和感を与えるギリギリのラインを攻めた、少しばかりの絶妙な間。この間によって聴き手の自分は翻弄され、演奏や歌に物理的な音圧以上の迫力、ねじれた情念が発生しているかのような錯覚に囚われるのである。

続くリードトラック "BNR" でも間の絶妙さは感じられる。この曲ではリズムスイッチこそないものの、1分を過ぎた頃にシンセ、ギター、そしてボーカルが一気にサイケデリックな広がりを増す。そのダイナミックな構成にも仰け反りそうになるが、エレクトロニックな音響処理によってアンサンブルが整理されているためか、空間を埋め尽くすように各パートの音が広がっていても、その隙間隙間には奇妙な静寂が潜んでいるように感じる。聴き手の神経をいたずらに逆撫でる、嫌にホラーじみた静寂という間が。そのため音の背後で何か得体の知れない生き物が蠢いているような居心地の悪さが終始続いているのである。そして曲のラストでは急に優美なストリングスと鳥のさえずりが挿入され、何事かと思っているうちにバッサリ曲が終了する。完全に置いてけぼりを食らった心地になること請け合いだ。

もうひとつのリードトラック "Trophy" は今作のハイライトと言えるかもしれない。不気味な穏やかさを保っていた曲調が、歌メロとユニゾンするノイズギターによってバリバリと汚され、ホラー要素は身の毛がよだつほどに膨れ上がる。彼女らの表現の最深部だと思う。しかしそれも長くは続かず、およそ3分程度で楽曲はスパッと終わる。今作はどの曲もそうなのだが、同じフレーズを何度もリフレインすることを良しとせず、またサイケ由来の陶酔感を追求して拡大していくこともせず、長くてもせいぜい3分半程度で、全く何の未練もなしに早々に曲を終わらせてしまう。6曲目 "Retreat!" に至ってはたったの1分半、しかも普通ならその後にもういくつか展開を繋げていくであろうところをあっさり途切れさせているのだから、何度聴いても最後には当惑ばかりが残される。この曲後の余韻という間の使い方に関しても、彼女らのセンスには唸らされるばかりだ。

海外のレビューを漁ってみたところ、彼女らはどうも Tame Impala などの新世代サイケロックバンドに近い括りで語られていることが多いように見受けられるが、サウンドの組み立て方といい作品全体に蔓延している底意地の悪さといい、個人的にはむしろ Portishead を想起させられたし、何なら新手のゴスミュージックとも捉えられる性質のものではないだろうか。もちろん彼女らは例えば BauhausSiouxsie and the Banshees のような本筋のゴススタイルを目指しているわけではない。しかしながら Portishead であったり、古くは The Velvet Underground & Nico 、あるいは Suicide といった、意図してかせずにか表現の中にいくらかのゴス性を確かに孕んでいる、言わばノンゴス・ゴスミュージックを鳴らしているアクトの最新版として、ここに内包されている空気感にシンパシーを感じるゴス者は多いはずだと、自分は勝手に確信している。アルバム表題曲 "Ice Melt" では「氷を溶かして蒸気になるのを見てる/1、2、3でそれは消える」とある。呆気なく氷が溶けていく際の煌めき、儚さ、艶めかしさ、そして無に向かう残酷さ。それらはこの表題曲のみならずアルバム全体のカラーを決定付けており、想像を掻き立てる不穏な間をあちこちに残した音像と同様に、そこにはどうしても退廃的な死の匂い、すなわちゴス性を嗅ぎ取らずにはいられないのであった。


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