Nubya Garcia "SOURCE"

画像1

イギリス・ロンドン出身のサックス奏者による初フルレンス。

ジャズを掘っていて面白いのはミュージシャン同士の横の繋がりが盛んなことで、クレジットを確認すると複数の話題作に同じプレイヤーが参加しているということがよくある。この Nubya Garcia はアルバムとしては今作が初になるけれど、例えば Sons of Kemet や The Comet Is Coming などの多彩なバンド活動で現代ジャズシーンを牽引している Shabaka Hutchings や、今年発表したアルバム "Dark Matter" がマーキュリープライズにノミネートされている Moses Boyd など、すでに数多くの猛者達とのコラボレーションを果たしており、耳ざといジャズファンの間で注目を集めている。折り紙つきの実力者が満を持してのデビューというわけなのだが、このアルバムにはそんな彼女の才気がとにかく迸っていて、ある意味新人らしいと言うべきか、刺激的な熱量が作品全体からひしひしと伝わってくる、非常に充実した内容に仕上がっているのである。

冒頭を飾るのは "Pace" 。なだらかなグルーヴの上で Nubya のサックスが優雅に広がる、アルバムの中では比較的ゆったりしたタイプの楽曲である。ただゆったりとは言いつつも、細部の演奏、特にドラムはかなりアグレッシブな動きを見せている。スネアと金物の捌き方がブレイクビーツばりの異様なきめ細かさで、山場に向かってテンションが高まっていくと手数の多さもエスカレートし、もはやブレイクビーツを通り越して人力 Squarepusher ではという勢いにまで到達する。しかしそれでもアンサンブル全体の調和は崩れることがなく、最終的にはエレガントな印象に着地するという。内なる熱の激しさがダイレクトに表れた演奏、それをきっちりと一本にまとめ上げるプロデュース力も彼女の力量だろう。これがまだ序章である。

3曲目のタイトルトラック "Source" 。この曲は間違いなく今作のハイライトを担っている。12分に及ぶ長尺曲だが、再生してすぐに驚かされる。がっつりレゲエなのだ。裏打ちで入るピアノがレイドバックした心地良さを振り撒きつつ、ダブの音響処理によってミステリアスな没入感が生まれる。そしてリズム隊はタイトに4分打ちキックを刻み続けているが、BPM はレゲエにしては高めで、やはりフィルの手数が多いためアグレッシブで縦ノリの感触が強い。弛緩と興奮の狭間を悠々と行き来しながら、演奏は白熱しっ放しで決して間延びすることがなく、延々と持続するタフなグルーヴを軸に、12分をまるまる力強く聴かせきる。その手腕の何とも豪胆なことよ。曲が終わった時には思わず唸り声を上げてしまった。

"Together Is a Beautiful Place to Be" と "Stand with Each Other" という2つの曲がこのアルバムには同列で並んでいる。共存と自立。この二者は決して相反ではなく両立し得るものだという彼女の思想、哲学がここに反映されているのだと思う。実際、今作に収められている演奏はバラエティに富んでいるが、いずれも各パートがとことんまで我を出し切り、その上でひとつの楽曲の体を成しているという点で共通している。上に貼った "Together..." にしても、中盤以降のキーボードはやり過ぎではなかろうかというくらい突っ込んで弾きまくっているが、それでもアンサンブルはすんでのところで調和を保持している。個を引き立てながら全体を統率するバランス感覚をどこまで高められるか、という挑戦が楽曲ごとに行われているわけである。そのインパクトは初聴きの時点で十分に鮮烈だし、聴けば聴くほどに味が増してくる感覚もある。これほどに意気の鋭い新人が最近のジャズ界隈にはひしめいているのだろう。やはり今最も興味深い世界だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?