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誇り高く、誰より美しいあなた「王子殿下の飼い猫はすこぶる毛並みが良いらしい」 ①②

この記事は前記事「『小説家になろう』の恋愛小説を漁るのが趣味なので最高小説を紹介したい 」で述べたようになろう(小説投稿サイト「小説家になろう」)恋愛カテゴリの愛する小説を紹介することが目的です。

基本情報

宰相令嬢アデラインは幼い頃数度会っただけの美貌の婚約者、ルトヴィアス王子に恋をしている。ルトヴィアスが敗戦した自国からの人質として異国で暮らすことになっても、その国でとある女性を見初めアデラインとの婚約を解消したがっていると聞いたとしても、その醜聞によって友人に裏切られ嗤われ自分自身の価値を見失ったとしても。
しかし10年ぶりに帰国したルトヴィアスがアデラインに見せたのは品行方正な王子サマではなく、他者の前で”被っていた猫”を脱いだ姿だった。冷たすぎる婚約者の態度にショックを受けるアデライン。自分に自信のないアデラインと孤独を抱え他者に偽りの姿しか見せられないルトヴィアスの結婚の行方は……?

ま~最高過ぎるので流石に人類全員読んだことあるかと思いますが……。今回ご紹介したいのがKADOKAWAビーズログ文庫より書籍版も発売されている七明先生の「王子殿下の飼い猫はすこぶる毛並みが良いらしい」(ウィットに富んだ天才的タイトル!)です。

全54話、番外編7話の大ボリュームで、文字数は約46000字。つまり読み返すたびに最高の時間を過ごせるということです。
登録タグは以下の通りです。

R15 残酷な描写あり ラブコメ シリアス 女主人公 西洋 中世 両片思い 片思い 腹黒い 溺愛 政略結婚 婚約破棄 婚約者 書籍化

アデラインの気高さ

この作品の素晴らしさは本当にいっぱいあって。まず全体を通しての地の文の読みやすさと綿密に練られたお話と伏線、それに作中世界観・文化の丁寧な構築etc……挙げて行けば限がありません。
ただ、私の欲望に従って述べるとすれば一番ご覧いただきたい点は作中で何度も言及される「主人公アデラインの誇りの高さ」です。(あ~~~①①①①!!!気が狂って床をのたうち回る)

アデラインは異国にいる婚約者の裏切りで幼いころから自尊心をメッタ刺しにされていたせいで、自分に自信がないんですよね。綺麗な服とか、この世界で淑女に必要とされるお花を飾った帽子”花帽”というものがあるんですが、そういうものも美しく飾り付けたりしないんです。それで周りの人間には馬鹿にされるわ、彼女を大切に思う人間には「そんな風に自分をないがしろにして!」って憤慨されたりするんですよ。これだけ聞くとウジウジヒロインなんですけど……違うんだなこれが。
彼女の誇りを強調するエピソード第九話「夜のピクニック①」を読んでいたければその片鱗を確認できるかと思います。

アデラインは課せられた役割の責任と義務を何より正しく理解しているんですよね。この王国で騎士や貴族に与えられた特権は何を代償に許されているのか、を彼女は誰より一番わかっているんです。だからこそ、責任を果たせない自分に自信がない。だって、壁の高さをわかっている人間だけが壁の前で足がすくむから。

それって、それって……最高じゃん! 恋愛小説なのでその足のすくみの解決には婚約者のルトヴィアスが一役買うんですけど、責任を果たそうともがく二人……美しい~~~~~!
これ最高最高、これが最高、最高がこれ。

血統で決められた役割、物心つく前から享受していた(してしまった)豊かさから来る義務を二人は果たそうと必死なんです。そりゃ、二人とも器用で要領がよくてサラッとこなせたら最高ですけどアデラインだけじゃなくてルトヴィアスも下手くそなんですよね~、人生が下手くそ!(愛)(泣)

その下手さ・不器用さ・じれったさも溜まりません。

二人のじれったさ

お互いの義務と責任の話だけじゃなくて、二人の関係性においても「もっとやりようがあるだろ!」って見ているこっちが叫びだしたくなるもどかしさがこの作品には溢れています。作中のほとんどの時間、二人はもだもだと両片思いの状態を続けます。
まあ恋愛小説読んでる人なんてこの「もだもだ」を愛している人間ばかりだと思うので……(主語でか!)。楽しんでください。

アデラインは責任を果たさなければと思った瞬間においての強さが凄まじいですし、反対に完璧な王子様の仮面を被ったルトヴィアスは私生活が破滅的です(食事もろくにたべれない、恋愛もまともにできない、父親と普通に話せない、友達がゼロ等)。辛いじゃん。

このもだもだが作中かなり長いからこそラストっが際立つんですよね。誇りだけはあるけど、自分自身に自信がない二人だからこそ築き上げたゴールが美しい。

ルトヴィアスの抱える闇

というか皆さんの好きな回はどれ? 私はすべてが好きですが何といっても第五十二話「アカハラの雛」ですね。何故ってルトヴィアスが執拗にまで被る猫の理由とそれを救うアデラインのセリフで泣いたことがあるから(ふーん)。

これは王家に関するエピソードなんですが、ルトヴィアスの父親である現国王は、その父アルバカーキ王を弑して王位に着いています。この三代親子にまつわるエピソードがもう本当によくてですね……。全部話して泣きわめきたいんですけど、まあネタバレなので控えます。

勿論なんですけど、一人の人間って一つの側面しかもたないわけじゃないんですよね。その人自身が家庭と仕事場で人格を使い分けてるだろうし、その人と接したことのある一人一人の思い出の中に一人一人の「その人」が存在するんです(人間はふれあって生きていくので)。

だから色んなその人の印象があって、それはそれぞれ正しいんですよ。でも中々他人の中のその人に触れることはできなくて……人間が誤解するんですよね。

こういう感じで、三代の王にまつわる様々な人の思い出を丁寧に描き出した美しさと、そのやるせなさを味わって欲しいです。う~~~~ん、人生のためになる小説! まだ読んでない日本語話者~~~~! 気づいてくれ。


王子殿下の飼い猫はすこぶる毛並みが良いらしい
じゃあ最後にもう一回リンク貼っておきますね。よろしくお願いいたします。