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「ハルキゲニアフェス2022」セッションレポート! 地場産業を丸ごとブランド化する「地域メゾン化計画」とは?
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「ハルキゲニアフェス2022」セッションレポート! 地場産業を丸ごとブランド化する「地域メゾン化計画」とは?

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2022年3月29日に開催した「ハルキゲニアフェス2022」。SIIFが2020年度に開始した「オルタナティブ事業」2年間を集大成するイベントです。合計6時間に及んだセッションには、オルタナティブな先進事業を展開するイノベーターたちが登壇。ここでは、そのうち「地域メゾン化計画〜インクルーシブな産業群のありかた」と題したセッションの様子をレポートします。登壇者は、セッション会場となった東京・下北沢「BONUS TRACK」を運営する株式会社散歩社代表取締役CEO・小野裕之さんと、「日本発の次世代型畜産ベンチャー」を標榜するGOODGOOD株式会社CEOの半田光正さん。モデレーターをSIIF常務理事の工藤七子が務めました。果たして「地域メゾン」とは、いったいどんなものなのでしょうか?(以下、敬称略)

株式会社散歩社 代表取締役CEO 小野 裕之氏(右)
GOODGOOD株式会社 CEO 半田 光正氏(中央)
SIIF 常務理事 工藤 七子(左)

元線路の商業施設「BONUS TRACK」と和牛メゾンを目指す「GOODGOOD」

工藤 小野さん、今日は素敵な会場をご提供いただきありがとうございました。中庭を囲んで小さなお店が点在する、散歩道のような空間で、私自身もセッションの合間に食べたり飲んだり買い物したり、楽しい時間を過ごすことができました。

小野 「BONUS TRACK」としても、カンファレンス会場にご利用いただくのは初めてかもしれません。「BONUS TRACK」は、小田急小田原線の東北沢から世田谷代田までの3駅間の線路が地下化されてできた「下北線路街」の一部に当たります。僕と、「本屋B&B」の内沼晋太郎とで、小田急電鉄から20年の定期借地権でお借りして運営しています。企画からテナント誘致、管理まで一貫して行っているところが特長だと思います。

工藤 小野さんはもともとはWebマガジン「greenz.jp」を手掛けていらしたそうですね。

小野 「greenz.jp」は、ソーシャルデザインをテーマにしたWebマガジンです。僕は2009年から10年ぐらい経営に携わって、今は非常勤です。この間、「greenz.jp」を通じてソーシャルやローカルをテーマに様々なビジネスを取材してきましたが、メディアの立場では継続的にかかわることができません。そこで、5年ほど前から取材先の方たちと一緒に仕掛けをつくったり、新しい事業を立ち上げたりしています。「BONUS TRACK」にも入居しているFarm toTableのおむすび屋「ANDON」とか、全国の醸造家から発酵食品を仕入れる「発酵デパートメント」とか。ほかにも、伝統工芸のジュエリー「SIRISIRI」、生活用品と併せて提案する小型住宅など、いろんなビジネスをやってます。

工藤 とても幅広いですね。半田さんはいかがですか。このセッションのテーマ「地域メゾン化計画」はGOODGOODの事業から着想したと聞いていますが。

半田 「地域メゾン」と言ったことはないように思いますが(笑)。GOODGOODは、牛の繁殖から肥育、精肉加工までを一貫して行い、精肉店やレストラン、ECサイトを通じて直接消費者にお届けしています。牧場もつくれば、レストランやホテルにお肉を卸したり、お肉の味を科学的に分析したりと、いろんなことをやっていて、一言で説明するのは難しいんですが、全部ひっくるめて「次世代型畜産ベンチャー」と名乗っています。

工藤 どのあたりが「次世代型」なんでしょう。

半田 日本の畜産業って、ものすごく細分化されているんですよ。牛を育ててからお肉にするまででも、繁殖と、仔牛市場と、肥育、屠畜、枝肉加工が全て分業で、そこからさらに、枝肉市場、一次卸、二次卸とあって、やっと小売店や飲食店にたどりつき、消費者に届く。その結果、畜産農家は自分たちが産み育てた牛がどこで誰の口に入っているか、まったく分かりません。GOODGOODは、その全工程のほとんどを一貫して行っている、たぶん戦後初の畜産ベンチャーです。

工藤 一貫で行うことのメリットは?

半田 例えば野菜農家なら、自分がつくった野菜をかじって味見することができますよね。だけど牛はかじれませんから、従来の垂直分業では自分の育てた牛がどんな味なのか分からないんです。一般的な生産農家は、国や農協の施策でつくられた流通等級を頼りに牛を育てています。対して僕らは、生産から消費までをぐるぐる回しているから、消費者の意見を生産側にフィードバックできる。逆に、生産者がどんな想いで牛を育てているかを消費者に伝えることもできます。

工藤 牧場もお持ちということですが。

半田 最初は、熊本・阿蘇からスタートしました。井さんという、阿蘇で三代続くあか牛の放牧農家が、僕らの目指す畜産のロールモデルになると思い、GOODGOODの取締役として設立時から加わってもらっています。この牧場にレストランのシェフを連れていくと、もう100%商談が決まるんですよ。

工藤 何が決め手なんでしょう。

半田 実はシェフの方たちも、田んぼや畑はよく見に行っていますが、畜産牧場はほとんど見たことがないんです。滅多に見せてもらえないので。日本の畜産業には、グローバル基準でみると、アニマルウェルフェアの点で問題のあるところが少なくありません。知識のない人は、うちの放牧を見ても驚かないかもしれないけれど、シェフたちは事情をご存知なので、雄大な自然の中で育つ牛を見て契約してくださるんだと思います。ただ、阿蘇だと東京から日帰りするのはちょっと難しい。僕たちはグローバルマーケットを目指しているので、国際空港から1時間圏内ぐらいのところに牧場があればいいなと思い、縁あって北海道の厚真町に新たな拠点を持つことになりました。

工藤 それが件の「メゾン」ですね。

半田 本当の生産現場と観光、ブランディング、研究をリンクさせる事を目的としたアグリツーリズムの拠点・シンボルとなる施設です。自分たちが食べる牛がどんなふうに育っているのかを見てほしい。土から牧草が生えて、太陽の光を浴びて育って、それを牛たちが食べて、彼らの持つ神秘的な胃で発酵させてタンパク質に変える。原点は土にあります。これって、ワインにおける「メゾン」だなと。フランスのシャンパーニュ地方では、「テロワール」と呼ばれるその土地だからこそ育つブドウでシャンパンをつくる、ゆえに高いブランドを維持できる。それを顧客に体験してもらうのが「メゾン」です。こうした「メゾン」のあり方は、和牛にも応用できると考えたわけです。

画一的になりがちな不動産開発の構造的課題を変えていく

株式会社散歩社 代表取締役CEO 小野 裕之氏

工藤 改めてお二人に伺いたいのですが、ご自身の事業が目指す社会的・環境的インパクトとは何でしょう?

小野 いろいろやってるんで、どれにしましょうか(笑)。会場の「BONUS TRACK」が分かりやすいかもしれませんね。これは、オーナーから土地建物を借りてサブリースする、僕としては初めての不動産業です。少し変わったところで言うと、テナントの1つとして「omusubi不動産」、という街の不動産会社に入居していただいていて、「BONUS TRACK」の成功を考えるだけでなく、周辺の物件を紹介したり、近くでシェアスペースを運営したり、一帯の価値向上を目指しています。まちづくりや商業施設の開発って、みな個性を狙って始めたはずなのに、結果的にはナショナルブランドばかりが入居する、画一的なものになりがちですよね。そこにはどうも、構造的な問題がありそうだと分かってきました。不毛な競争に巻き込まれない、個性的なまちが増えていけば、ビジネスとしてもサステナブルだし、文化的にも豊かになる。そんなモデルケースを見せられればと思っています。

工藤 構造的な問題とはどんなことでしょう。

小野 不動産業界は、オーナー、全体の企画者、建物の設計者、建設会社、リーシング、管理がそれぞれ細かく分業化されていて、おのおのが部分最適に走りがちです。個性的な施設を目指した結果、ハード面の開発コストがかさんだり、またテナントリーシングにかけられる準備期間も意外とタイトで、投資回収のために家賃を高く設定せざるを得ない状況に陥る。そうなると、地元の個性的なお店や新規開業のチャレンジャーは入居できません。結局、どこかで見たブランドばかりが並ぶ景色ができあがってしまうわけです。

工藤 「BONUS TRACK」はまさに個性的なお店ばかりですが、経済的に成り立つと立証できそうですか。

小野 十分に成立しています。これは小田急電鉄の英断によるものですが、「下北線路街」全体の戦略として、2km区間の中で業種や家賃にメリハリをつけているんです。「BONUS TRACK」にはチャレンジショップ的な店舗を入れる一方で、東北沢には成長過程に入った店舗に向く施設を用意している。企画者の胆力のおかげだと思います。不動産業界や鉄道会社、あるいは自治体には本来まだまだ余力があるはずなので、こうしたところが結果を焦らず変化を待てるようになると、各地でまちが変わるのでは。

工藤 個性豊かなまちづくりが、不動産業としてのインパクトですね。ほかにも、「BONUS TRACK」は、ローカルビジネスの支援にもつながりそうですね。

小野 「BONUS TRACK」では、テナントさんから家賃をいただきつつ、事業戦略も共有していただくようにしています。マスターリースをお受けしている立場として施設全体を企画運営するだけでなく、僕も共同経営者の内沼も、それぞれ施設内の2店舗ずつ、自分たちのお店も出店しているテナント側でもあることもあって、物理的にも近くにいるので、改めてゼロから現状をキャッチアップしてアドバイスに入るまでもなく、いわば日常的な雑談から事業に変化が生じることもあると思います。テナント同士も、経営者やスタッフの交流を通じて、お互いがいいヒントをもらったりしているようです。多様な事業者が集積することの価値を感じています。

工藤 ここで、今日のセッションのもう1つのキーワード「産業群」が出ましたね。

個人の想いが、105年後に完成する「WAGYU MAISON」計画に発展

GOODGOOD株式会社 CEO 半田 光正氏

工藤 半田さんはいかがでしょう? GOODGOODが意図するインパクトとは?

半田 僕たちが事業を始めた動機は、自分が美味しい肉を食べたいからです。でも、よくよく調べていくと、どうも今のままでは美味しい肉を食べ続けられそうにないことが分かった。肉を食べることは環境破壊につながると言われますけれども、将来いくぶんかは代替肉に変わるとしても、天然肉の市場がなくなることはないでしょう。であれば、微力であっても、畜産業界が抱える課題を解決し、自然環境やアニマルウェルフェアに配慮した、次世代の畜産業をつくっていきたい。自然を資本としたサーキュラーエコノミーを実現したい。

工藤 自分のために始めたことが、結果として社会につながっていったわけですね。インパクト投資ではよく「インテンショナリティ(意図)」という言葉を使うけれども、実際には、ただ自分がやりたいことをやっていたら、結果的に社会的・環境的インパクトと向き合うことになった、というケースは少なくないかもしれませんね。

半田 今、事業にかかわってくださっている方たちとの出会いも、投資家との出会いも、全然意図していませんでした。むしろ、意図して計画していたら、こういう流れにはなっていなかったかもしれません。

工藤 個人の想いが、だんだんみんなのものになっていった感じでしょうか

半田 北海道でいろんな農家さんやアーティストに出会うと、ジャンルは違っても話が合うんですよ。ワイン農家さんとも意気投合して、ブドウの絞りかすをうちの牛の肥料に使い、うちでできた堆肥をブドウ畑に持って行くという循環を今進めています。「BONUS TRACK」を見ていても思うのは、リアルな場を持つ強さです。オンラインでは、こんなふうにつながっていくのは難しかったと思います。

小野 不動産とかローカルというフィールドは、許容力があるというか。アクセルを踏めば踏むほど指数関数的に成長するという領域でもないし、じっくり取り組みながら、ひらめいた順に展開していくようなスタンスがフィットすると思っています。社会が育ててくれる部分とか、自然が相手だからどうしても時間がかかる側面もあるでしょうし。

半田 僕らの「メゾン」が完成しグランドオープンを迎えるのは2125年です。ビジネスだから5年後の2025年にはプレオープンするけれど、思い描く理想の「メゾン」ができあがるまでには105年はかかる。はじめに種を蒔いたのは僕らだけれど、いろんな方が参加してくださっていくうちに、結果的に壮大な計画になりました。今は、105年後のグランドオープンまでの道筋はクリアに見えています。

工藤 素晴らしい。小野さんは編集者、半田さんは金融やITを手掛けてこられて、だからこそ不動産や畜産といった業界をフレッシュな目で見ることができたんでしょうね。オルタナティブな事業には、異質なものが混ざることによる化学反応が大事なのかもしれません。これからも皆さんと意見交換しながら、どんどんおもしろい事業をつくり、育てていけるといいですね。

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2013年頃より調査研究に着手し、GSG国内諮問委員会設立や賛同メンバーの招集を皮切りに、インパクト投資における提言書や現状を記した報告書の発行。金融庁共催のインパクト投資における勉強会の開催などインパクト投資の推進のための活動をしています。