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ソーシャルな企業こそが成長できると確信した

世界的アクセラレータ・プログラムを展開するImpacTech社と日本財団による「日本財団ソーシャル・チェンジ・メーカーズ(SCM)」。SIIFでは現在、その第1期卒業生10社のうち、3社に出資 と経営支援 を行っています。同プログラムを終え、半年以上経過した 3社の代表に集まってもらい、SCMでの体験と今後 の展望 を話してもらいました。

最終写真

左上)Aster  代表取締役CEO 鈴木正臣さん
右上)A10Lab 代表取締役 CEO 長坂 剛さん
左下)ヘラルボニー 代表取締役副社長 松田文登さん
右下)SIIF インパクト・オフィサー 加藤有也


Aster(アスター) 
レンガ・石・ブロックを積み上げた組積造建物(世界人口の6割が居住)に利用できる補強材を独自に開発。「建物倒壊による地震犠牲者ゼロ」がミッション。海外で高い評価を受けている
A10Lab(エーテンラボ) 
ソニー出身のエンジニアらで創業。生活習慣改善を支援する「三日坊主防止アプリ」(みんチャレ)を開発。自治体と共同で糖尿病改善などの実証実験を実施。自己変容できる社会を目指す
株式会社ヘラルボニー 
4歳上の自閉症の兄が自由帳に記した謎の言葉「#ヘラルボニー」を社名に、一卵性双生児で起業。知的障害のあるアーティストの作品を商品化し、障害を個性にできる社会づくりを目指す。東急プラザ銀座3階でポップアップストア開催中(~2021年5月9日)。東急アクセラレートプログラム2020Demo Dayで最優秀賞を受賞!

加藤 もう2年前になりますが、皆さんがSCMプログラムに応募したきっかけはどんなことでしたか?

松田 ちょうど起業したてのタイミングでご紹介をいただきました。事業の組み立て方や資金調達 ってどんなものかもよく知らず応募したので、このプログラムでいろいろなことが吸収できました。

長坂 私は起業家界隈のSNSで知りました。ちょうど私たちのアプリで「習慣化」するジャンルをヘルスケアに寄せようとしていた時期で。アプリのコアなユーザーを調べると糖尿病の方が多く、アプリ利用による効果が高いことが分かったんです。そのとき、「社会 起業家」って私たちにぴったりな言葉なんじゃないかと気づき、必要な知識を得ようと思って応募しました。

鈴木 私はもともと中小企業経営者なので、経営については分かっていましたが、スタートアップはまったく違うものとして捉え、勉強を始めていました。2018年の日本財団ソーシャルイノベーションアワードで優秀賞をいただいたときに声をかけていただきました。私はユダヤ商法に関心があったので、 SCMの ImpacTech創業者の1人がイスラエル出身だということに興味を持ち 、 参加しました。

加藤 ほかのアクセラレータ・プログラムのご経験もあると思いますが、SCMはどんなところにほかとの違いを感じましたか?

長坂 いくつか経験した中で比べると、「自分たちの活動がどう社会的インパクトにつながるか」を可視化する、ロジックモデルの書き方の講座はほかにはないプログラムだと思いました。それは今、めちゃくちゃ活 きています。特に自治体に、この事業の何が社会に貢献するのかを説明するときによく使っています。私たちの事業を使うとこの部分が改善されるので、ほかのソリューションと組み合わせると、全体がこう変わっていきますと、わかりやすく 説明できるようになった。あとは、修了後に出資 を受ける機会が得られるところですね。ほかの日本のプログラムはデモをやって、投資家と繋いでくれるものの、実際に資金調達につながるかどうかまで 見届けてくれるわけではなく終わりだったりするので、その最後のひと押しがない事が多い。

加藤 出資受け入れの機会 がある点は海外のアクセラに近い、ということですね。

鈴木 アスターとしては、SCM が初めての参加です。これまでさまざまなイベントで賞金をいただいていて、海外の投資家からは高い評価を受けてきたのですが、国内の投資家からは評価があまり良くない。これはなぜだろうかと考えたとき、海外では社会的インパクトが評価されるんだと気付きました。日本の投資家からは 短期的に利益がでるかばかりを聞かれる んですよね。

加藤 今、日本に200本近いアクセラレーション・プログラムを見わたしても、 社会的価値の高いビジネスにフィットするプログラムがあまりないこと は僕らも気になっていました。 そして資金調達の面でも、どのように次のステージに進んでいただくかも課題ですから、そういう意見はありがたいですね。

松田 僕らは同時期に東北グロースアクセラレーターを受けていて、そことの違いも感じました。例えば、SCMのピッチでは創業者の原体験をまず最初に発表する 。でも、東北グロースでは最初にビジネス的な発言に集中し、原体験は最後に置く。そういう点でも考え方の違いを感じました。

加藤 プログラムを修了して、その後 はいかがですか? ?

鈴木 マーケットが海外なので、コロナ禍の影響を受けてアクセルが踏めず、売り上げが立てられない状態が続いていました。ですからこの機に、遠隔で行う方法やCO2の問題などの研究を進めて、事業モデルの解像度を高めています。今は社名の変更や販路の開拓なども含め、グローバルで活躍できるためのDNAを作っている状況です。

加藤 事業をする中ではコロナウイルスのように自分ではコントロールできない要素 もありますよね。

長坂 私が起業するときに決めたのは自分でコントロールできることだけやろうということです。コロナ禍でBtoBでの取引が進まないこともありましたが、そこは置いておいて、影響を受けないBtoCにフォーカスして進めることで成長していくことができました。

加藤 変化したことはありますか?

長坂 今まで以上に社会課題の解決を意識するようになり、自治体と組むことを決めました。自治体と実証事業を行い、効果のエビデンスをつくっていきました。幸い、ユーザーの行動変容がみえてきた し、医療費の削減にもつながるというエビデンスも出来てきたので、それをどう伝えていくか、広め方も実験をしていきます。日本では手厚い社会保障制度があるので個人があまり健康に投資しない。そのニーズ喚起が課題ですね。

松田 私たちはニーズ喚起というよりは新しく市場をつくっていくことですね。無意識を意識化する、無意識に訴えかけていくこと。例えば、アートだけを事業にすると美術館に行くようなアート好きな人しか集まらない。でもアパレルブランド や建設現場の仮囲いとして展開することで幅広く認知してもらえるのではと考えています。

長坂 そうですね。私たちも、今の行動を置き換えるというよりは、なかったところから行動をつくる。ブルーオーシャン(競争相手のいない未開拓な市場)です。ある意味、ピアサポート(同じような立場にいる人によるサポート)というブランドを育てていくという面もあります。「みんチャレ」は、使った人からは高評価なのですが、使う前にはなかなかその価値を想像できないんですよね。それをどう想像させてブランディングするかが課題です。

加藤 松田さんは起業したてのときに参加されていますが、事業はどう変わってきていますか?

松田 今はあえて店舗に作品を出しています。コロナ禍で以前は絶対空かなかった場所を 提供してもらえるようになったんです。今は百貨店を中心に展開し、認知度を上げるというフェーズだと捉えています。コロナがなければ、ヴィトン、エルメスの横にヘラルボニーに出店するということは、 あり得なかったと思うので、このチャンスを利用して頑張りたい。 今までは障害者のアートと聞くと安いものだと思われがちでしたが、高級ブランドの横に出店することによって、その意識が変わっていく機はあると思っています。

加藤 コロナによる変化からも、チャンスを見つける ということですね。

鈴木 素晴らしいですね。環境はコントロールできないので、環境に適応するというのが企業のあるべき姿ですよね。雨が降ったら傘をさす。その傘は何かを見つけていけばチャンスになりますよね。

加藤  社会的価値を生み出し つつ、事業としても業績を伸ばしていくのは難易度が高いと思いますが、そこにジレンマやギャップはありますか?

長坂 将来的に事業規模を大きくしていくのであれば、社会的企業であることは実は必然かなと思っています。日本発の大企業の多くは社会的企業です。多くの人に必要とされれば成長していく。スタートアップも成長を求められますが、ソーシャルビジネスは「速く 」より、「 大きく」成長していくモデルだと思っています。そう考えると、成長と社会性の追求は離れていかないと思います。ブレずに長期スパンで北極星を目指していけば判断は間違えることはないのではないでしょうか。

松田 今、学生インターンを 募集するとSNSだけでも 50人近く応募があります。ミレニアル世代以降には発信が届いている実感があります。5年前だったらこんなに集まらなかったし、社会が明確に変わっているのを感じますね。先日のICC(Industry Co-Creation) サミットでユーグレナの代表取締役出雲充さんとトークセッションさせていただいたのですが、そこで印象的な言葉がありました。2025年、労働人口の半数がミレニアル世代以下になるときにはSDGsは死語レベルになるし、SDGs の概念がない企業は成長できなくなる。だから僕らのような企業は「続けることで必ず成長がある」と。僕もこういう領域が スケール(事業規模の拡大を)していけると今は信じています。

加藤 ユーグレナの永田さんはリアルテックファンドを実施していますが、次のファンドは社会的インパクト評価に取り組むと宣言されていました。それは我々にも画期的なことでした 。

鈴木 私はソーシャルというキーワードがあるとレバレッジがかかると思っています。数年前、ロナルド ・コーエン卿*にSIBについて話を聞いたとき、社会的な投資のほうが実はもうかると感じた。これからはソーシャルな価値のある企業のほうが生き残ると考えています。
*ロナルド・コーエン卿:インパクト投資の推進を目指す国際機関Global Steering Group for Impact Investment (GSG)の会長であり、インパクト投資の父といわれている。

加藤 そういう言葉や信念は社会起業家の後押しになります。投資家も実装としてソーシャルに取り組み始めていて、社会的な価値と儲けは両立することを証明していくフェーズになっていると思っています。ぜひ一緒に投資家側にも勇気付けてもらえばと思います。最後になりますが、SIIFに対して皆さんが期待することや要望はありますか?

鈴木 これからもっとSIIFのノウハウを引き出していきたいですね。たとえば社会的インパクトの 可視化。資金調達をする際も、その資料があるとないとではわれわれのバリュエーション(企業価値評価) が変わってきます。これまでは「建物倒壊による地震犠牲者ゼロ」をミッションとしてきましたが、地震とは関係ない部分でもメリットが出てきているので、それを統合した社会的インパクト を誰にも分かるようにまとめて、資料に落とし込んで いきたいですね。

長坂 今回は資金も支援もしていただき感謝し ています。SIIFは日本の国内でも特異なファンドですよね。長期に投資して、 社会的インパクトと利益を創出し、またそれを別の投資に向けることができる。日本で稀有な存在だと思っています。ぜひ私たちを例に再投資ができるモデルができればと思っています。それから、スタートアップにとって共通のインフラがあると思います。たとえばビジネスの作法とかコンプライアンスや経理など、そういう部分を一定期間提供していただけるような仕組みがあると、さらに社会的企業家が育つと思います。アクセラで教えるというのもいいと思いますが、一定期間ハンズオンで入るというのもありがたい。

加藤 ソーシャルなスタートアップのための共通インフラとは、たとえばどういうことですか?

長坂 経理・財務・経営企画や法務・人事、管理といった会社の土台の部分ですね。多くのスタートアップは、まずビジネスモデルをつくって社会的インパクトを考えることから始めるので、そういう土台部分はどうしても後から考えることになる。だから資金調達などの前に、一定期間入ってもらって、学びながら組織としての血肉をインストールしてもらえたらと思いますね。

加藤 そういった意味ではヘラルボニーさんとは試験的にご一緒させていただいていることはありますよね。

松田 自分たちのような起業家は、ビジネスと社会性のゴールイメージが合わない投資家 が入ることで潰れてしまうことも あると思うんですよね。その時に、資金調達前のフェーズで伴走してもらい、イグジットだけではないモデルを考えてもらえるとすばらしいなと思います。それから、会社として社会的インパクトの指標をどう測るかは課題だと思いますので、そこを一緒にやってもらえればと思います。

加藤 エクイティ と 銀行融資、 助成金 の3択だけでない、資金の種類 をもっと増やしていきたいですね。リターンの期間を含めてさまざまな実験がおこなわれていくと思います。より具体的な例として世の中に出していければありがたいと思います。いろいろ参考になります。今日はありがとうございました。




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