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分科会活動報告#06 ソーシャル指標分科会〜社会価値を可視化して金融機関の行動変容を促す

インパクト志向金融宣言分科会の活動報告、第6回はソーシャル指標分科会をご紹介します。比較的数値化しやすい環境課題と異なり、社会課題は因果関係が複雑で、地域差も大きい課題です。ソーシャル指標分科会は、地域と企業にとっての「社会価値」とは何か、金融に何ができるかを考えます。共同座長は、りそなアセットマネジメント執行役員・松原稔氏と京都信用金庫・石井規雄氏です。

りそなアセットマネジメント 執行役員 松原稔


共同代表 京都信用金庫  石井規雄

社会課題の解決には、地域金融の力が欠かせない

松原 「社会課題」あるいは「社会価値」とはそもそも何なのか。私たちの分科会は、その指標を探すこと、そして、その指標が地域や企業にとっていかなる意味を持つのかを考えています。

社会課題を解決する上で、非常に重要な役割を担うのが地域金融です。地域金融の本来の目的は、地域経済の発展にあります。地域経済が発展すれば、地域金融機関の持続可能性も高まります。そして、地域経済の発展のためには、地域社会の発展が不可欠です。では、「地域社会の発展」とは、何によって示されるのでしょうか。

地域に根付く企業の価値も、経済価値と社会価値で構成されます。経済価値は数字で示せますが、「企業の社会価値」とは何でしょうか。これもまた、非常に難しい。しかし、地域金融機関がインパクト志向の金融経営を目指すには、企業の社会価値に注目しなければなりません。企業の社会価値を高め、地域社会を発展させることが、すなわちポジティブインパクトの創出ですから。

地域と企業の社会価値を表す指標を探し、可視化する。それがこの分科会の狙いの1つです。

石井 松原さんには、私たち地域金融機関の役割をご理解いただき当分科会での議論を進めていただいて、とてもありがたく思っています。地域金融機関の重要性は、日本の企業のほとんどを占める中小・零細企業である地域企業と共に地域を支え、その地域の未来を豊かにすることを使命にしている点にあります。そのために、地域企業が地域の様々な課題を解決するといったソーシャルなポジティブインパクトを創出する事業のあり方を対話したり、資金・情報提供だけでなく様々な繋ぎ手となることが地域金融機関の役割と言えます。

松原 地域金融はソーシャルと非常に密接につながっています。例えば、地域金融機関が融資するときには、企業の財務状況だけではなく「もしこの企業がなかったら、この地域社会はどうなるだろうか」という視点が重要ですよね。多くの地域金融機関は、暗黙のうちにこうした視点を持っていると思いますが、その暗黙知を暗黙知のままで終わらせてしまったら、知見が共有できません。知見を共有するためにも、価値の見える化が必要です。

――社会価値を見える化するための議論の手がかりはありますか?

松原 石井さんが事務局を務めておられる「ソーシャル企業認証機構」の取り組みは、とても参考になる事例だと思っています。これは、地域金融機関同士がソーシャルを核に連携するプラットフォームです。ここで、どんな企業がソーシャルな経営を行い、どこに課題を抱えているか、といった実践や事例が積み上げられれば、ソーシャル指標を考える上での重要なヒントになるはずです。

石井 ソーシャル企業認証機構は、社会課題の解決を目指す企業を評価・認証する組織です。大企業が出されているようなレポートを評価するというのではなく、その中小企業ならではの社会課題解決の取り組みを評価させていただいています。制度を開始して2年が過ぎたまだ若い認証でもありますので、認証事例は徐々に増えていますが、その中小企業のソーシャルな取り組みが、地域にどのように波及していくのか、地域毎にどのような特徴的課題があるのかの体系立てたことは検証している段階です。これから徐々に整理・検証が進めば、分科会にも何かしら情報提供できるかもしれません。

領域が広く地域差が大きく、因果性も多様な「ソーシャル」

松原 ソーシャルという領域は非常に広いんですよね。ですから、ソーシャルを巡って各所で行われている議論にも目配りしていく必要があります。例えば、連合総研では、インパクト志向金融宣言のアドバイザーである水口剛先生(高崎経済大学学長)が主査を務め、「良い会社」であることの情報開示について調査研究を行っています。省庁にも検討会活動があります。

ただ、ソーシャル指標は地域によっても因果性がバラバラなんですよね。ある地域にとっては過疎化が課題なのに、ある地域にとっては過密化こそ課題かもしれない。しかし、過疎化でも過密化でも、行き着く課題は同じ「孤立化」だ、という共通点もあります。

石井 例えば私のいる京都府は南北に長く、同じ府内でも日本海に面した北部と京都市内とでは、課題がまるで異なります。また、一部地域の過疎を解決しようとすれば、どこかから人を移動させることになり、ほかの地域にしわ寄せが及ぶかもしれない。地域間のトレードオフもありえます。

分科会には、信用金庫、地銀や信用組合といった多様な地域金融機関の方が参画していますから、おのおのの課題の図鑑のようなものをつくることで、共通する項目、異なる項目を洗い出していけるかもしれません。地域が変わっても変わらないものと、地域によって特色のあるものを整理して公表することによって、おのおのの地域が目指す企業のあり方、金融のあり方、ライフスタイルのあり方を議論する材料になるといいですね。

松原 おっしゃる通り、最終的な目的は指標をつくることではなく、金融機関の行動変容を促すことですから。あまり指標にフォーカスし過ぎると、本質を見失ってしまいます。

例えば、地域から若い女性が出て行ってしまうのを防ぐために、男女の賃金格差だけに注目して、是正しようという議論があるとしたら、それだけが問題ではないと思えますよね。課題の背景にある、文化的、地域的あるいは社会的な要素を明らかにしないで、賃金格差という指標だけが一人歩きしてはいけない。指標をつくるだけでなく、因果関係を明らかにし、評価できる仕組みをつくり、行動変容につなげ、大きなストーリーをつくっていかなければならないと考えています。

社会価値の可視化が「金融で働く意味」の可視化につながる

松原 ソーシャル指標分科会の長期的なゴールは、金融機関が投融資の際に、企業の財務だけでなく社会価値を踏まえて判断できるようにすること。社会価値をとらえるための「指標のカタログ化」「因果性の検証」「評価の仕組み」が3点セットです。その3点セットを投資判断に組み込むことで、金融に携わる1人1人の行動変容を促す。さらにその先には「金融で働くことの意味」そのものが立ち現れてくると思っています。

従来、金融は「経済の血液」であるとして、血液は意思を持ってはいけないと思い込み、リスクを回避して循環させることに重きを置いてきました。しかし今、企業も金融も、自らの役割を問い直す時代です。「血液も意図を持とうじゃないか」というのがインパクト志向金融宣言だと思います。

金融で働く人々が、自ら主体的に、よりよい社会をつくるために貢献する、貢献できるという手応えを持つ。そのためにこそ、社会価値の可視化が必要ですし、そこにソーシャル指標分科会の役割があります。

ーー今後、分科会として、どう議論を進めていく計画ですか?

石井 やはり当面は、事例を積み上げていくことが大事だと思っています。地域金融機関のお客さまである中小・零細企業は、多様な事業を抱える大企業と違って、1つの会社と1つの事業が対応するケースがほとんどです。そういう意味では、企業のどんな取り組みが地域にどんな影響を与えているか、ファイナンスなどの事業支援とインパクトがどう相関するか、比較的測りやすいと考えられます。中小企業は地域事業者の大部分を占めるので、分科会に参加いただいている金融機関同士の協力で様々な視点の事例を積み上げることは出来ると思います。また、これらの視点がおのおのの金融機関内部でどのような変化があったかという事例も集めることが出来れば「働く意味」という点においての議論もできていくと思います。。

松原 社会課題では、おのおのの指標の持つ意味や背景、目的を探りながら、大きなストーリーを紡いでいくことが大事で、いろんな事例を参照しながら、金融の世界が広がっていけばいい。そういう意味では、何か1つの成果や最終報告にまとめるのは難しいかもしれません。指標は起点であって、終点ではありませんから。

今後は、金融機関はもとより、投資家や有識者、NGOといった立場の異なる方々をお招きして、多様な視点から議論ができるといいですね。最近はよく、ダイバーシティ&インクルージョンが言われますが、年齢やセクシャリティといった差異だけでなく、立場や価値観の異なる人がぶつかり合うことによって起きる化学反応が大事なんだと思います。化学反応を起こすことこそが、行動変容につながります。

ですからこの分科会は、ある種の実験施設です。ソーシャル指標が、金融機関に行動変容を促す「種火」になればいいと考えています。

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