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インパクト投資市場は初めて1兆ドルを超えたGIIN Investor Forum2022 勢いを増す世界のインパクト投資に問われていること

SIIF


SIIF 常務理事 工藤七子

2022年10月12日13日、オランダ・ハーグで開催されたGIIN Investor Forum2022にパネリストとして参加しました。世界中からインパクト投資家が集まる同フォーラムには、67カ国から約1500人が出席。リアル開催は3年ぶりとあってキャンセル待ちが出るほどの人気でした。第1回目のフォーラムは参加者40人でスタートしたことを考えると、インパクト投資の盛り上がりを肌で感じます。

基調講演に立ったGIINのCEOアミット・ボウリ氏によると、世界のインパクト投資市場の推計規模は1兆1640億ドル(約170兆円)に達し、初めて1兆ドルを超えました。インパクト投資は成熟期に入ってきたといえるでしょう。
 
アミット氏は講演で「thoughtful innovation(思慮深い革新)」、「courageous leadership (勇敢なリーダーシップ)」、「confident action(自信を持った行動)」という3つを、これからのインパクト投資のキーワードとして挙げました。
 
まず第1に必要なものがイノベーションであり、それは「思慮深い」ものであるべきだということ。つまり、何がソーシャルグッドなのかを常に忘れてはいけないということだと思います。そしてチャレンジするための勇敢なリーダーシップ。シングルマザーの家庭に育ち、生活保護を受けて暮らしたという自身の過去を振返ったアミット氏は、GIINを立ち上げてCEOとなるまでは、自らリスクテイクへの恐れを乗り越える旅だったと語りました。安全な場所から出て境界を越えていくためには勇敢なリーダーシップが求められています。さらに、インパクト投資が成熟期に入る中で、インパクトウォッシュへの懸念も生まれています。自信を持った行動がますます重要になり、インパクトを可視化して、信頼や信用を担保していくことがさらに重要になっていると感じました。
 
今回のフォーラム全体を通して感じたことが2つあります。1つは、1兆ドルという市場規模は達成したけれど、「本当にインパクトは出ているのか」という問いです。SIIFの小柴優子が登壇した「システムチェンジとIMM」というセッションで、1人の登壇者が「1兆円は確かにすごいが、それはあくまでキャピタルフローに過ぎない。その結果、10年前に比べ水はきれいになったのか、気候変動は抑えられたのか?」と問題を提起していました。
 
インパクト投資は手法も市場も洗練されはじめています。しかし、本当の意味で根源的な原因に目を向けているか、行動変容にコミットできているかーーこれは今、SIIFが取り組む重要なテーマでもあります。深い変革を起こすために何をすればいいのだろうか、という問いへの答えはまだ出ていませんが、システムチェンジというテーマで議論できたことは意義があったと感じました。1兆ドルという資金がSDGsを一歩でも前に進めていけているかという点は今後も注視していかなければいけないと思っています。
 
今、アメリカではESG投資に対するバックラッシュが起きています。例えば、保守系知事州からは、ブラックロックのESG投資が石油産業に打撃を与えているとして、ファンド資金を引き上げる動きが出ています。インパクト投資のマーケットが大きくなっているからこそ、社会からのプレッシャーも高まっています。市場規模が大きくなればなるほど期待と責任は大きくなるのです。

もう1つ、改めて感じたのは、欧米の財団がもたらしている役割の重要性です。特に欧米ではカタリティックキャピタル(触媒資本)として、イノベーションを起こすベースを支える役目を果たしています。
 
今回のフォーラムではVISA財団が大きなスポンサーの1つに加わりました。同財団の資産は100%インパクト投資で運用し、その運用益で活動しています。また、GIINは今年、IMMなどを進化させるためインパクトラボを立ち上げましたが、その活動もVISA財団がサポートしています。また、ロックフェラー財団などが立ち上げたThe Catalytic Capital Consortium (C3)は、アーリーステージのインパクトスタートアップを支援しています。一般の投資家より長期に資金を提供しながらマーケットそのものを育て、イノベーションを起こすための苗床となっているのです。インパクト投資の市場が拡大し、大きな金融機関が入ってきたとしても、こうしたリスクを取って業界全体を下支えするのは、意思を持った財団の資金なのだと改めて感じました。
 
誰かがリスクを取って新しいチャレンジを促さなければイノベーションは生まれません。例えば「培養肉」のように、まだマーケットができてないところに新たに消費を生むには、消費者意識の改革や法的な規制緩和、流通の形成など、すぐに利益に結びつかないアクションが必要です。財団以外でも、オランダでは政府の資金でエナジートランジションとサーキュラエコノミーを推進するインパクトファンドを約17億ユーロで立ち上げたそうです。これは政府がリスクを取って、イノベーションを起こすための仕組みです。その過程には失敗も織り込まれ、ロスを出してでも市場を形成していくことが目的とされています。日本にもイノベーションを起こすには、こうした資金の下支えが必要だと感じました。
 
フォーラムのトピックとして、日本にも関連しそうな動きもありました。その1つがB Corpです。今回、世界最大のB Corp企業といわれる、ブラジルのコスメグループNatura & Coも注目されていました。同社はThe Body Shop(ザ・ボディショップ)、Aesop(イソップ)など人気ブランドを擁するグローバル企業でありながら、B Corpを取得し、公益性の高い経営を行っています。
 
B Corpは、米国の民間機関による認証制度ですが、世界で6000近い企業が取得する人気のライセンスに成長しています。日本でも岸田政権のもと、「新しい資本主義」政策の1つに日本版「パブリック・ベネフィット・コーポレーション」(PBC)の検討が掲げられています。これが果たしてどのようなものになるのか。日本版のPBCも、グローバルなIMMを行うことで信頼性と有用性の高い設計であってほしいと願っています。

もう1つはある会場での出来事。ファシリテーターが、ファンドのインパクトパフォーマンスと運営者(GP)の成功報酬をリンクさせているかと会場に問いかけると200人近い傍聴者の中から約30人の手がさっと上がりました。その割合の多さに正直、驚きました。
 
通常、ファンドのリターンが大きければ、GPの成功報酬も上がっていきます。そこにインパクト指標を織り込むというスタンスが、「あと3年ぐらいでインパクトファンドの常識になると思います」と語られていました。これもインパクト投資が信頼性を構築するポイントになるのだと思います。ただ、それが正しい方法なのかは少々疑問が残るところです。インパクト指標を報酬に紐付けることで、インパクトが測りやすい事業、例えばCO2の排出量削減などに資金が集中してしまうという懸念もあります。とはいえ、世界ではそれが常識なりつつあるほど、インパクト投資が進化し、信頼性と透明性の確保に力を入れているのだと実感しました。

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