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「インパクト志向金融宣言プログレスレポート2023」発行。熱い質疑も飛び出したメディア報告会の様子をご紹介します。

2024年1月15日、SIIFが事務局を務める「インパクト志向金融宣言(以下、当宣言)https://www.impact-driven-finance-initiative.com/」の、2回目となる「プログレスレポート2023(以下、レポート2023)」が発行されました。併せてメディア報告会を開催、15名の報道関係者の方々にご参加をいただきました。ここでは、報告会の様子についてご紹介します。

インパクト志向金融宣言 プログレスレポート2023
事業部 インパクト・オフィサー 小笠原 由佳
2024年1月15日開催 メディア報告会

2023年のインパクトファイナンス残高は前年の3倍近い10兆7240億円に

 当宣言は2021年11月に署名21機関で発足しましたが、レポート2023の対象となった2023年9月1日時点では62機関に達しました。賛同1機関もレポートに参加しています。さらに、2024年1月には、署名金融機関68・署名協力機関6の合計74機関に上っています。

 レポート2023で報告したインパクトファイナンスの残高は10兆7240億円。昨年の3兆8500億円の3倍近くに達しました。その大きな要因の1つは、三井住友銀行、農林中央金庫、日本生命といった大手金融機関が新たに署名してくださったこと。もう1つに、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、SBI新生銀行、第一生命、かんぽ生命などの大手金融機関が残高を拡大したことがあります。

 報告会で挨拶に立った運営委員長の金井司氏(三井住友トラスト・ホールディングス株式会社 フェロー役員)も「予想以上に順調に署名機関が増え、残高が拡大したことに感謝したい」と関係者への謝辞を述べられました。また、当宣言の活動について「特に重要なのがテーマ別・アセットクラス別の企画チームと分科会。各会に参画する金融機関のメンバーが、非常に熱心に取り組んでいます」と紹介しました。

運営委員からIMM・地域金融・アセットオーナーの3課題について報告

 続いて、企画チームと分科会を中心に当宣言が取り組むテーマのうち「IMM」「地域金融」「アセットオーナー」について、運営委員から現状の課題と今後の活動について説明しました。

①IMMについて:運営委員 長澤祐子氏(株式会社SBI新生銀行 執行役員サステナブルインパクト推進部⻑)

「IMM」は、インパクトファイナンスに取り組むすべての関係者に共通する課題です。当宣言ではIMM企画チームが横断的な活動に取り組んでいます。さらに、海外連携企画チーム、ソーシャル指標分科会、地域金融分科会、ベンチャーキャピタル分科会は、おのおののテーマに沿った勉強会や事例共有を行ってきました。

 IMMの一番の課題は、国際的にもまだフレームワークや指標が統一されていない点にあります。アセットクラスによっても、あるいは、投資先のステージや事業規模・特性によっても、取組のレベル感の違いがあり、全体に横串を刺していく必要があります。このため、今後は分科会ごとにIMM担当を設置し、互いに情報を共有しながら「IMMの基本的なあり方」についての文書作成を目指します。また、プログレスレポートにおけるインパクトファイナンスへの算入基準についても議論を進め、さらなるマーケットの拡大につなげていきたいと考えています。

②地域金融について:運営委員長 金井司氏

 地域金融分科会では「地域金融におけるインパクトファイナンス」を、暫定的に「地域の課題解決に向けて、インパクトの創出に取り組む企業等を支援するファイナンス」と定義しています。さらに、アセットクラス、投融資先の規模に応じてインパクトファイナンスを整理する「4象限モデル」、「地域PIF(ポジティブ・インパクト・ファイナンス)の三層構造モデル」を取りまとめました。

 今後の活動としては、まず、昨年新設された官民連携「インパクトコンソーシアム」や「21世紀金融行動原則」と連携し、情報発信していくことが挙げられます。また、特に中小企業・スタートアップの支援において課題となる、投資と融資をつなぐ手法についての研究も深めたいと考えています。さらに、PIFの実践例の分析をふまえた共通KPIや中小企業のポジティブ・インパクトの考え方の検討も引き続き進めていきます。

③アセットオーナーについて:事務局 安間匡明(SIIFエグゼクティブ・アドバイザー)

 インパクト投資の課題をインベストメントチェーンに沿って遡って考えると、投資資金の究極的な出し手である個人投資家の意識が非常に重要です。残念ながら日本ではまだ、「自分のお金を、リターンを得ながら、同時に自分たちの次世代・子孫や社会課題解決のために使う」という認識が拡がっていません。意識変革のためには、個人の資金を預かる資金運用者を含め様々なステークホルダーと一緒に取り組んでいく必要があります。生命保険や年金基金といったアセットオーナーにも、個人へのエンゲージメントの必要性を求めながら、引き続き、当宣言への参画を呼びかけていきたいと考えています。

 インパクトファイナンスにはリターンも期待できることを示すために、インパクトと企業価値の相関・因果の関係性についての分析も進める必要があります。例えば、インパクトを生み出している上場株の発行体企業に、自らその関係性を説明・発信していただければ、インパクト投資もさらに発展するのではないかと考えています。
その他、アセットオーナーや個人投資家を対象とした、インパクトファイナンス推進イベントも、積極的に開催していきたいと考えています。


 報告を締め括ったのは、運営副委員長の松原稔氏(りそなアセットマネジメント株式会社 チーフ・サステナビリティ・オフィサー常務執行役員責任投資部担当)です。民間が自らの意思で、仲間とともにインパクトファイナンスの推進に取り組む意義を改めて強調したうえで、「インパクトコンソーシアム」との連携への期待、官民の役割分担を整理しました。

 宣言は2025年4月の自走化(独立採算化)を目指しています。これまで運営規程導入も導入し、署名協力機関というカテゴリーの新設もいたしました。今後、分科会活動・連携をさらに強化していきます。

インパクトファイナンスの意義とは? 参加者との質疑応答

 参加者との質疑応答では、インパクトファイナンスの本質に迫る質問が飛び出し、登壇者も真摯に回答しました。以下、その内容をご紹介します。

Q.
すでにグリーン・ローン/ボンドやソーシャル・ローン/ボンドといった社会環境課題をテーマとした金融の仕組みが存在するなかで、インパクトファイナンスによってしか実現できないこととは何でしょうか?

A.
水口剛氏(インパクト志向金融宣言アドバイザー、高崎経済大学学長):グリーンやソーシャルとインパクトは重なる部分がありますが、インパクトファイナンスは「インパクトを生みだすという明確な意図をもち、それを測定し管理する」点に特徴があります。ESG投資はESG要素を考慮した投資ですが、インパクト投資はインパクトを生みだすところにまでコミットすることに意義があると考えています。

安間匡明:補足しますと、例えば、グリーンローンは「再生可能エネルギー事業への投資」といった資金使途を特定することに意義を見出すものです。これに対してインパクトファイナンスは、資金使途の特定ではなく、それが本当に環境・社会に良い効果を及ぼしているかどうかを計測・管理することを金融機関に求めるものです。資金使途特定だけで効果が出るものもあるかもしれませんが、インパクトファイナンスではその効果を見極めるということが本質的に異なります。

金井司氏:地域の文脈では、インパクトファイナンスには、企業活動と、それが地域社会に及ぼすさまざまなインパクトを深掘りし、分析する点に大きな特徴があります。金融機関にとっては、その地域におけるインパクトを可視化することで、リスクマネーを投入する意義が明らかになります。これは地域において特に顕著で、こうした取り組みを後押しする意味もあると考えています。

松原稔氏:ここ数年、金融機関においても、自らのパーパスやアイデンティティを定義し、経営の意図を明示する動きがあります。パーパスで示した世界観を、金融を通じていかに実現していくかに注目が集まっています。「インパクト志向金融宣言」の重要なポイントは、経営者が自ら署名している点にあります。ここでもう一度、その意義を強調しておきたいと思います。

Q.
上場株投資におけるインパクトファイナンスとは?

A.
松原稔氏:まず、投資家・企業ともにインパクトを創出しようとする「意図」をもっていることが大前提です。ただし、意図があるだけでは十分ではなく、私たちには受託者責任があります。企業がしっかりと稼ぐ力を獲得し、そのサービスを通じて社会課題を解決していくこと、その道筋を可視化すること。また、私たち自身がなぜその企業にインパクトがあると考え、投資したのかという説明責任を果たすこと。上場株インパクトファンドは、リターン・リスク・インパクトの3象限で最適解を模索するファンドなのです。

Q.銀行は融資の審査にインパクトの観点を取り入れるのでしょうか?

A.
金井司氏:融資の審査の基本は「お金が戻ってくるかどうか」です。インパクトと直接的に関連しているわけではありません。しかし、例えば未上場の中小企業への融資では、投資家の代わりに銀行が企業価値の向上を支援します。サステナビリティが企業価値に直結する時代ですから、銀行が融資を通じて企業と対話し、KPIを設定するなどして貢献することは、大いにありえます。融資先の企業価値が高まれば、銀行にとっては貸し倒れのリスクも減るわけですから、審査にいかにインパクトの視点を取り入れていくかは、非常に大きなテーマであり、検討課題です。

長澤祐子氏:ポジティブインパクトの創出はもちろん、ネガティブインパクトをいかに低減していくかは、企業の存続にとって非常に重要な要素になっています。これからの事業性評価においては、インパクトを明示しないまでも、インパクトにまつわる要素を取り入れていくことは、自然な流れではないかと考えています。


 最後に、アドバイザーの水口先生から、締め括りのお言葉をいただきました。水口先生はこの日もたびたび話題に上った「インパクトコンソーシアム」の発起人の1人でもあります。

水口剛氏:インパクトコンソーシアムは、金融、企業、自治体、有識者が発起人となり、経済産業省と金融庁が支援する、官民連携の仕組みです。今後、インパクトコンソーシアムとインパクト志向金融宣言は、互いに支え合っていくことになるでしょう。インパクトコンソーシアムがインパクトへの意識を社会に広め、インパクト志向金融宣言がその具体化・実践を担う。当宣言に加え、インパクトスタートアップ協会など、さまざまな目的をもった推進主体が共存し、全体として社会・環境のインパクト追求を進めていくことに期待したいですし、引き続きご支援を賜りたいと存じます。


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