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インパクト投資を牽引するミレニアル世代

常務理事
工藤七子

■ シリーズ: ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から ■

自分たちの投資が社会を変える

 ミレニアル世代はインパクト投資の台風の目だといわれています。その理由の一つが同世代のもつ価値観です。

モルガン・スタンレーのサステナブル投資研究所が2019年に行った調査では、米国のミレニアル世代の投資家の95%はサステナブルな投資に興味があると回答。投資家全体の85%を上回る数字だ。2017年と比べても9ポイント増加しており、急速な関心の高まりが伺えます。実際に、何らかのサステナブル投資を実践しているミレニアル世代は67%。投資家全体の52%を上回っていました。ミレニアル世代の多くが投資によってインパクトを起こすことに期待し、実践しているのです。

 先日、日本でも初めて社会的インパクト投資に関する関心度・認知度の調査を実施したところ、「社会的インパクト投資を聞いたことがあり、意味を少なくとも知っている」と回答した人は6.8%とまだまだ少数でした。それでも認知度はミレニアル世代ほど高く、特に投資経験のある30代では25.2%が「聞いたことがあり、意味を少なくとも知っている」と回答。これは同じく投資経験のある40代に比べ15ポイント近く多い数字でした。

巨額の資産を受け継ぐミレニアル世代

 こうした中で注目を集めているのがミレニアル世代の超富裕層ネットワークです。ロックフェラーやフィリップスといった名だたる財団の担い手も、創設者の孫にあたるミレニアル世代へと引き継がれつつあります。親の世代から巨額の資産を受け継ぐ彼らは、それを確実に運用しながら社会的な投資にも振り向けています。

 そうした富裕層の一人がフィリップ財団の第三世代、エリザベス・カーロック・フィリップスです。彼女は現在、フィリップス・フィランソロピーズの舵取りをしながら、さまざまな社会貢献事業を展開していますが、実は高校時代からアフリカの女性を支援するアクセサリー事業を立ち上げて活動してきた女性。地元ダラスにも貢献していて、米国女性から尊敬を集める慈善家であり、インパクト投資にも熱心な社会活動家なのです。
 
 ミレニアル世代は物心つくころにはインターネット、パソコン、携帯電話などIT技術が普及していた世代。私自身もミレニアル世代の1人ですが、子どものころから社会が成熟していて、世の中は物で満たされていました。足りない「水」を求めるのではなく、さまざまな色や味の水から好きなものを選ぶような消費行動を促されてきました。だからこそ、物欲を超えた「何か」を求める気持ちが強く、物質的な価値以外のものに関心が向きやすいベースがあるのかもしれません。

 ミレニアル世代が成人になった2001年、米国では同時多発テロ事件が発生し、理不尽な社会の出来事に向き合わざるを得なかった背景もあります。「どこで買うか」「何を買うか」そして「何に投資するか」といった行動は、選挙でだれに票を投じるかと同じように、自分の価値観やスタンスを表現するもの。投資をするのであれば、社会的に意味のあるもの、自分が支持できるものに投資しようと考えるのは自然な流れなのかもしれません。今後、ミレニアル世代がインパクト投資をどう牽引していくのか、引き続き注目していきたいと思います。


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