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ファンド組成を通じたインパクト投資の実践とエコシステム構築【後編】

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■シリーズ:ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から■

新生企業投資株式会社(以下、新生企業投資)の高塚 清佳さんと黄 春梅さんをゲストにお迎えし、同社子会社である新生インパクト投資株式会社と一般財団法人 社会変革推進財団(以下、SIIF)が共同で組成・運営に携わる日本インパクト投資2号ファンド(以下、2号ファンド)を通じた、インパクト投資の実践を語る後編になります。
* 2号ファンドは、子育てや介護等のさまざまなライフイベントを経ながらも、あらゆる人々が働き続けられる環境づくりに資する企業、次世代人材の育成に寄与する教育・保育サービスを提供する企業、育児と介護の両立支援事業を営む企業等の「子育て・介護・新しい働き方関連事業」を支援・育成対象としたファンド。新生企業投資が運営する「子育て支援ファンド」(2017年設立)の後継ファンド。

対談者:高塚 清佳(たかつか さやか)(新生企業投資株式会社 インパクト投資チーム シニアディレクター)、黄 春梅(ホァン チュンメイ)(新生企業投資株式会社 インパクト投資チーム シニアディレクター)、菅野 文美(すげの ふみ)(一般財団法人 社会変革推進財団 事業本部 本部長)

インパクト投資の実践からより質の高い成功事例を目指す

菅野 文美(以下、菅野)ファンド設立に至る経緯や、共同運営に関わる課題などをお話いただきましたが(前編)、今後、どのように2号ファンドを展開していきたいかについてお聞かせください。

高塚 清佳(以下、高塚) 2号ファンドは、スタートラインに立ったところではないでしょうか。日本では、まだ機関投資家によるインパクト投資ファンドの数が少ないこともあり、有難いことにご注目をいただくこともありますが、インパクト投資マーケットを拡大し、エコシステムを構築していくには、質の高い社会的インパクト評価や社会的インパクト・マネジメント**の模索と実践を通じ、社会性および経済性の両面の質を高め、成功事例を作っていくことが大切だと考えます。日々、実務に追われがちですが、より高い目標を掲げ、SIIFさまと弊社でお互いに牽引しあうということを積み重ねていくしかないと思います。

**社会的インパクト評価とは、インパクトを定量的・定性的に把握し、事業や活動について価値判断を加えること(例えば、投資判断時における基準、投資期間中や投資後の報告で活用する等)。
社会的インパクト・マネジメントとは、社会的インパクト評価を事業運営プロセスに組み込み、得られた情報をもとに事業改善や意思決定を行うことでインパクトの向上を目指すマネジメント。

黄 春梅(以下、黄) 良いスタートを切ったと思うので、これから実績を作っていきたいですね。社会的インパクト評価を行う目的の一つは、投資先のベンチャー企業、そして、ファンド全体が創出するインパクトを可視化することで、より多くの投資家に参加してもらうことです。
一方、社会起業家にとっては、社会的インパクト評価が経営改善に有効なツールであることも重要です。社会的インパクト評価のプロセスやその結果は、ベンチャー企業の営業活動や人材採用だけではなく、商品・サービスの見直し、資金調達時のエクイティ・ストーリー作りなどにも活用できます。
今後、社会的インパクト評価のツールをより使いやすいものに改良し、将来的にそのツールを公開することで、様々な企業に使っていただいて、それが企業価値を高め、良い収益につながっていくことが実現できるといいですね。

高塚 成功事例とは何かをさらに深く考えていくことが必要かもしれません。グローバルで見ても、インパクト投資ファンド自体のあるべき姿の模索が続いていると思います。課題先進国である日本では、急速な少子高齢化、労働人口の減少により様々な社会課題が生まれており、これらは2号ファンドのフォーカスとも重なります。日本のインパクト投資ファンドのマーケットは遅れて立ち上がりましたが、もし2号ファンドから生まれた事例をグローバルに発信できれば面白いかもしれません。

菅野 SIIFとしても、まず、実績を作りたいですね。投資先企業は、保育や教育の分野で新しい業界を作っていく、あるいは業界そのものを変えていくことを目指しています。それらの企業が業界の中でモデルとなって、事業も拡げていくという事例が生まれるように支援していきたいですね。そういった成功事例を世界に向けて発信することで、今まさにグローバルに進んでいるインパクト投資の手法の開発やトレンド作りにも貢献していきたいです。

SIIFは、ファンドの共同運営者としての責任を果たしつつも、一方で、社会的な目的を持った資金がきちんと回る仕組みを作るといった環境作りも、大切な役割と捉えています。例えば、日本で「ソーシャルIPO」のような考え方を実現するためのシナリオや社会性評価フレームワークについて事業会社や金融機関など資本市場に関わる複数のステークホルダーとの検討することや、インパクト投資を推進するための調査研究や政策提言もおこなっています。

経済性および社会性の両方の視点を持つブリッジとしての役割

高塚 SIIFさまは、多様な立場の人々を繋ぐブリッジのような存在になっていただけると嬉しいです。今はまだ、インパクト投資を寄付の延長のような捉え方で語られる場面もあるように思います。NPOのネットワークも広くお持ちのSIIF様が、2号ファンドで機関投資家と一緒にインパクト投資ファンドを運営されていくことを通じ、双方の現場へのより深い知見を得られていくのではないでしょうか。多様な社会起業家を応援するためには、多様な資金提供者が市場に参入してくることが必要だと思います。日本全体のインパクト投資を拡大推進していくにあたり、経済的なリターンと社会的なリターンにおいて各資金提供者たちがそれぞれの目線から参入しようとする時、業界横断的な実践経験をお持ちのSIIFさまは多様なセクターを繋いでいくことができるだろうと思いますし、そうなれば素晴らしいですね。

菅野 ここ1年の動きを見ても、インパクト投資に参入するプレーヤーの多様化が急速に進んでいて、SIIFにはそういった多様な投資家や起業家を“繋ぐ”役割が求められていることを、日々ひしひしと感じます。

黄 社会的リターンは大きいが経済的リターンの創出は容易ではない非営利組織と、これらの両立を目指すインパクト投資の投資先の間に、インパクトを評価し可視化する社会的インパクト評価という共通言語ができました。次は、双方の視点を併せ持ったインパクト投資家が現れることが望まれていることではないでしょうか。
弊社は金融機関系ファンドとして15年以上ベンチャー投資を取り組んできたチームですが、2017年からスタートしたインパクト投資では、従来の経済性に加え、社会性という判断軸を追加してきました。逆に、SIIFさまは社会インパクト評価により専門性を有してこられたところ、今回の2号ファンドを推進する中で経済性という判断軸を取り込もうとされています。弊社とSIIFさまが力を合わせることで、経済性と社会性の双方の観点を同等に併せ持つインパクト投資家に進化していくことが、この共同運営で追求したいもう一つの成果ではないでしょうか

高塚 さらにその先の弊社の役割は、金融機関や機関投資家の方々に、インパクト投資が従来型の投資とどこが違ってどこが同じなのかを少しでも理解していただくようにしていくことだと思います。

共同運営による相乗効果で社会的インパクトの拡大へ

黄 私たちは2017年に1号ファンドを設立しインパクト投資の実績を積み上げてきました。2号ファンドには、みずほ銀行さまや三井住友信託銀行さま、横浜銀行さまなど複数の機関投資家の方々に参加していただいたことで、インパクト投資に携わる当事者数も増えました。さらに、社会的インパクト評価のツールを活用することで、投資先企業の方々とのエンゲージメントが増え、以前とは別の切り口から支援できるようになりました。
SIIFさまは、これまでとは異なる質の資金で、社会的リターンを重視する企業の成長を支援することができます。
お互いのミッションを掲げながら、成長しあっていければと思います。

菅野 新生企業投資さまやみずほ銀行さまと2号ファンドでご一緒させていただいて、成長させていただきました。

黄 私たちも同じです。

高塚 実際、2年前にSIIFさまと2号ファンドを立ち上げようとお話しした頃に比べ、社会的インパクト評価に対する私たちの考え方も変わってきました。インパクト投資ファンドを作ろうとしたときの志は今も変わりませんが、どういう方向性と深さで社会性を取り入れていくのかを考える時の軸足がずいぶん進化したように思います。

黄 私たちだけでなく、投資先企業の方々の考え方も変わってきています。若い層の起業家が増え、社会課題の解決を自身のミッションとして捉え、優秀な人材を巻き込みながら、取り組んでいる人が多くなりました。社会的インパクト評価を積極的に受け入れて、活用したいと考える経営陣も増えてきたと感じております。SDGsがより多くの企業に取り組まれ、ITの活用で様々な社会課題を改善できる時代になりました。私たちが共同運営している2号ファンドから多くの成功事例を作って示していきたいですね。


【みずほ銀行 末吉様よりコメントを頂戴いたしました!】
「世界は悪い方向に進んでいるとのでは・・・」と思わずにいられない方も多いと思います。その中で、具体的なソリューションや実業を持たない「金融」に、今、何が出来るのかということを突き詰めた一つの答えが、本件であるインパクト評価やそのマネジメントにより社会課題解決を促す力を持っているインパクト投資です。日本においても、本ファンドが注力する高齢化・少子化をはじめとして多数の問題提議がされていますが、冷静に、状況を正しく認知し解決策を見出して行く必要があります。本ファンドの投資先の取組の一つ一つが着実に社会課題解決に繋がって行くことを大きく期待しています。

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