見出し画像

SIIFが捉える、世界の「システムチェンジ投資」

1. はじめに:世界にみる「システムチェンジ投資」の潮流

いま、インパクト投資の流れを作ってきた世界の投資家や財団、フィランソロピストたちが「システムチェンジ投資」に注目し始めています。これは、複雑な社会・環境の問題を根本的に解決するための「新しい社会の変え方」として世界中で実験され始めている取り組みです。

例えば、ノルウェーのカタパルト・ファウンデーションを母体とする「TWIST」は、システムチェンジ投資に関する国際ネットワークとして世界中の実践者と研究者、ファシリテーターをつないでいます。また、サステナブルファイナンスのコンサルティングを手掛ける「TransCap Initiative」はアメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)にてシステムチェンジに関する国際カンファレンス「Systemic Investing Summit」を開催しています[TWIST; TransCap Initiative, 2023]。

写真1: Systemic Investing Summit2024の様子[画像はSystemic Investing Summit2024(招待制)の主催団体であるTransCap Initiativeの公式YouTubeより。当カンファレンスにはSIIFのメンバーも現地参加]

この記事は「システムチェンジ投資とは何か?」をテーマに、2023年に日本でシステムチェンジ投資を開始したSIIFの目線から「世界のシステムチェンジ投資の潮流」をご紹介します。

2. なぜ、いまシステムチェンジ投資が注目されているのか?

インパクト投資家にとってのシステムチェンジ投資

2000年代に生まれたインパクト投資は、この20年間で世界的にも大きな成長長を見せてきました。世界のインパクト投資のネットワーク組織「GIIN」は、2022年の世界のインパクト投資市場規模は1兆1,643億ドル(約176兆円)[★1]に達したと伝えています[Hand et al., 2023]。
★1──1ドル151.28円として算出。

では、ここまでインパクト投資の規模が大きくなってきたなかで、なぜシステムチェンジ投資が注目されはじめているのでしょうか?

先述のMITでシステムチェンジ投資の研究を行うジェイソン・ジェイ氏とTransCap Initiativeのリサーチ部門責任者であるジェス・ダジャース氏らは、スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューへの寄稿にて、社会課題や地球環境の問題は「複雑な課題」なので根本的な原因の解決は難しく、よかれと思って行った取り組みが新しい問題を引き起こすことさえあり、この事実こそがさまざまなセクターで「システムを捉える視点(systems-lens)」への注目が増している背景だと述べています。

さらにこの論考のなかで、「インパクト投資は個別の投資案件で特定の対象に対して価値を出す側面では効果的であっても、社会構造のレベルでの変化をもたらせるかどうかには疑問符がつく」と述べられています[Daggers et al., 2023]。

大企業と機関投資家にとってのシステムチェンジ投資

また、投資家や大企業にとってシステムチェンジ投資が重要になる理由について、TransCap Initiativeは以下のように述べています。

・大企業や多国籍企業にとってサプライチェーンはますます脆弱になっており、政府、財団、NGOといったパートナーと連携して多様な事業投資を行うことがサプライチェーンの強靭化、事業運営の前提となる社会的信頼性の向上、そしてインパクトの向上につながるため。

・機関投資家が行っているESG投資[★2]は、社会や地域が求めるスピード感、質、量の観点でニーズを満たせておらず、社会は機関投資家に対してより多くの資金をより実質的なニーズのある生産や購買に振り分けることを求めているため。

★2──財務情報だけでなく環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素も考慮した投資[SIIF, 2022]。

図表1: TransCap Initiativeによるシステムチェンジ投資の重要性の提起[「What is systemic investing? An update on definition, key concepts, and relevance.」(Hofstetter, 2023)より引用]

また、英国の投資運用会社ベイリー・ギフォードは、サステナブルな社会への移行(トランジション)を見据え、事業機会とリスクの双方を踏まえた将来シナリオを構想・策定するために、システムチェンジ志向の投資の研究を行うDeep Transitions Lab(詳細後述)と共同研究プロジェクトを開始しました。このように、システムチェンジ投資は国際的な大企業・金融セクター側からもにわかに注目され始めています[Baillie Gilford, 2023; Deep Transitions, 2024]。

いま、システムチェンジ投資が注目されている理由。それは、以下のような背景と課題によるものではないでしょうか。

気候変動や人権問題といった社会・環境システムレベルのリスクを放置するとビジネスの前提となる社会経済そのものが成り立たなくなるリスクが高まるうえに、これまでのESG投資やインパクト投資では社会課題が生まれる構造的な原因に対してアプローチしきれない。

では、社会課題が生まれる構造的な原因にアプローチするシステムチェンジ投資に関して、どういったムーブメントが生まれているのでしょうか。

世界にみる「システムチェンジ投資」の萌芽

システムチェンジ投資に関する世界の動きとして、現在SIIFが把握・関与している取り組みのうち、代表的と思われる3社の取り組みをご紹介をします。

最初にご紹介するのはTIIP(The Investment Integration Project)です。

TIIPは2015年に世界初となる社会・環境への影響を考慮したインデックス投資ファンド「Domini400」を立ち上げたスティーブ・リンデンバーグ氏らによって立ち上げられたコンサルティングファームで、2023年8月に22の機関が参加するシステムチェンジに取り組む投資家の実証グループ(コホート)を立ち上げました。このコホートには、Fidelity、国連PRI、University Pension Planなどが参加しています[TIIP, 2023]。

次に、先に少しご紹介したオランダのユトレヒト大学・イギリスのサセックス大学のヨハン・ショット教授らが中心となって立ち上げたDeep Transitions Labです。このDeep Transitions Labは化石燃料依存型の社会からの移行を実現する「Transformative Investment」を目指し、Bailie GilfordやGeneration Investment Managementといった世界的な機関投資家との共同研究プロジェクトを展開しています[Deep Transitons]。

最後に、SIIFもワーキンググループに参加しているTWISTです。TWISTはノルウェーのKatapult Foundationを母体としており、世界中のシステムチェンジ投資の実践者や研究者、推進団体のネットワークとなっています。このネットワークにはMIT Sloan Sustainability InitiaitiveやイギリスのBig Society Capitalなどが参加しており、各社が取り組むシステムチェンジ投資の取り組みを題材にした事例研究やホワイトペーパー作成などに取り組んでいます[TWIST]。

図表2: システムチェンジ投資に関する世界のムーブメントの一例[図表はSIIFにて作成。TIIP、Deep Transitions Lab、TWISTの説明文およびロゴは各社WEBサイトより引用(TIIP; Deep Transitions; TWIST)]

「システム思考」は主に工学や社会科学の分野で歴史のある理論的枠組みですが、「システムチェンジ投資」は確認できる限り、2020年代以降に生まれた新しい取り組みです。そのため、「システムチェンジ投資」についての完全な定義は存在しませんが、いくつかの先駆的なプレイヤーは以下のようにシステムチェンジの現状定義(Working definition)を作っています。

・TransCap Initiativeの場合
Systemic Investing: 社会課題の解決に向けたシステム思考の応用。人類社会と自然システムの変容を意図した、広範なシステムチェンジプログラムとそれに紐づく多様な資本の戦略的提供。

・TWISTの場合
Investing for systems change: ポジティブなシステムの変化に貢献することを意図した財務的・非財務的な投資や介入。

・TIIPの場合
System-level Investing: 従来的な投資手法と新しい手法の両方を活用し、すべての投資の安定的で柔軟な土台をつくるべく、社会、環境、金融システム上のリスクとリターンを管理すること。

・SIIFの場合(2023年よりシステムチェンジ投資を開始)
社会・環境の課題を根本的・構造的に解決する「意志」と、解像度高くシステムを俯瞰しつつ課題の真因を探究する「学習」により、資金提供に留まらない課題解決に必要な「多様なアプローチ」を結集させて新たな価値を生むシステムへの変容を促す行為。
※この定義は2024年5月次点でのSIIF独自の現状定義であり、今後の事業活動を通して発展・変化する可能性があります。

図表3: システムチェンジ投資の現状定義(一例)[図表はSIIFにて作成。TransCap Initiative, TWIST, TIIP各社によるシステムチェンジ投資の定義およびロゴは各社WEBサイトより引用(TransCap Initiative; TWIST; TIIP)]

次の項目では、システムチェンジ投資の目的と手法をより解像度高くご理解いただくために、「システムチェンジ」について解説したいと思います。

3. システムチェンジとは

システム、そして社会課題とは

そもそも、「システム」とは何でしょうか。

「システム・ダイナミクス」の研究者でありジャーナリストとしてビジネスや公共政策、社会課題解決といった分野へのシステム思考の応用に貢献したドネラ・メドウズ氏は、システムとはある目的や機能を果たすための要素とその相互のつながりである、としています[Meadows, 2008]。

そして、社会というシステムのなかで起きる課題は、「複雑な課題」もしくは「厄介な課題」(Wicked Problem, ウィケッド・プロブレム)と言われています。

ソーシャル・イノベーションとシステム・ダイナミクスを専門とするフランシス・ウェスリー教授(カナダ・ウォータールー大学)は、世の中の課題は単純・煩雑・複雑の3つに分けられるとしています。単純な課題(例:ケーキを焼く)と煩雑な課題(例:自動車を組み立てる)は、やり方さえわかれば再現性を持って解決可能ですが、複雑な課題(例:子育て)はさまざまな要因や背景が相互に関係し合うため、課題解決の万能薬は存在しません。そのつど状況に適応し、学習しながら解決するしかないとされています[Westley et al., 2009]。

また、都市工学やデザインを専門としたアカデミアのホルスト・リッテル氏とメルビン・ウェバー氏は、貧困や教育などの社会的な課題は複雑系のなかで発生して刻一刻と状況が変わり続けるためにすべてが不可逆的で、ひとつの課題解決の打ち手が本当に効果的であったかどうかを検証することさえも相当に難しい「厄介な課題」だと1972年に定義しました[Rittel and Webber, 1973]。

つまり、気候変動や人権、サプライチェーンといった社会課題は、ある地域や組織・産業界、そして地球環境といった「システム」のなかのさまざまな要素やステークホルダーの相互作用の結果生まれた、構造的で複雑な課題だと言えます。

図表4: 3つの課題(単純・煩雑・複雑)のイメージ[「Getting to Maybe」(Westley, et al., 2009)を参考にSIIFにて作成]


図表5: 複雑な課題、Wicked problemのイメージ図[「Dilemmas in a general theory of planning」(Rittel and Webber, 1973)のWicked problemの概念を参考にSIIFにて作成]

システムチェンジとは何か

それでは、その「システム」を変えるとは、つまり「システムチェンジ」とは一体何を指すのでしょうか。何が起きれば、システムチェンジが起きたといえるのでしょうか?

社会起業家の発掘・育成を行う組織として世界的なパイオニアであるアショカは、システムチェンジを「社会課題を生み出している根本的な原因にアプローチし、解決すること(例:法制度の改正、革新的なソリューションの一般化)」として、具体例として経済的貧困層の金融へのアクセスを可能にしたマイクロファイナンスや情報の民主化をリードしたウィキペディアなどを挙げています。

図表6: システムチェンジの考え方についてのSIIFの概念整理[Ashokaの「4 LEVELS OF IMPACT」を参照しSIIFにて作成]

システムチェンジは、社会や環境といった大きなシステムのなかで構造的に生まれた複雑な課題の解決を目指す性質のものなので、具体的な成果が出るのに非常に長い時間がかかると言えます。

そのため、特にグローバルや国全体といった大きなレベルでのシステムチェンジの事例はまだまだ数が少ないのが正直なところではありますが、例えば地球に降り注ぐ有害紫外線を防ぐオゾン層の回復[BBC, 2023]や、オランダにおける全国レベルでの再生可能エネルギーへの移行促進は、その一例と言えるかもしれません。また、地域レベルの取り組みの一例としては、現在進行系ではありますが、アメリカのワシントン州のフードロス削減に向けた計画策定と実行の動きなどが確認されています。

こうしたシステムチェンジに資する解決策を生み出すために、先述のドネラ氏は「氷山モデル」の考え方を提唱しました。

この氷山モデルの考え方は、表面上に見えている事象にのみ注目するのではなく、その事象の根っこにある「行動パターン」「システムの構造」「価値観や文化、前提といったメンタルモデル」を具体的に理解すればこそ、構造的で複雑な課題を解決するためのテコの原理が働く場所(レバレッジ・ポイント)を発見するのに役立つ、としています[Meadows, 2008]。

図表7: システム思考の氷山モデル[「Systems Thinking Resources THE ICEBERG MODEL」(The Academy for Systems Change)より引用]

それでは、話を「システムチェンジ投資」に戻しましょう。

「システムチェンジ投資」は、どのように「システムチェンジ」に貢献しようとしているのでしょうか?

4. システムチェンジ投資とは

これまでのインパクト投資とシステムチェンジ投資

システムチェンジ投資を考えるにあたり、まずは先にご紹介したTransCap Initiativeが提示している、これまでのインパクト投資とシステムチェンジ投資を相対比較した整理をご紹介します。

以下の図表では、これまでのインパクト投資は物事を直線的に捉え、SDGsのような指標の改善を目指した個社への投資を行うものとされていますが、システムチェンジ投資は世界を複雑系として認識し、社会や自然のシステムを変えることを目指すポートフォリオを組成するとしています[Hofstetter, 2023; ★3]。

図表8: TransCap Initiativeによるシステムチェンジ投資とこれまでのインパクト投資の比較[「What is systemic investing? An update on definition, key concepts, and relevance.」(Hofstetter, 2023)より引用]

★3──この表はこれまでのインパクト投資とシステムチェンジ投資を別のものとして取り扱ったうえで整理されたものですが、インパクト投資とシステムチェンジ投資の関係性についてはまだまだ多様な議論がなされている段階です。また、TransCap Initiativeはシステムチェンジ投資を「Systemic investing」としており、英語での表記についても各団体で違いがある状況です。

システムチェンジ投資家が目指す「ゴール」

「社会や環境のシステムを変える投資」といっても、どんなシステムをどのレベルで変えるのか、投資家側のシステムの理解や解釈、そしてゴール設定にも「幅」が生まれているのが現実です。

MITでシステムチェンジ投資についての包括的な学術研究を発表したアルバン・ヤオ氏は、その研究のなかで世界中の26のシステムチェンジ投資事例をもとに、システムチェンジ投資家のゴール設定とシステムへの理解について分析しています。具体的には、システムチェンジ投資家のゴール設定のレベルを3つ、そして投資家側のシステムへの理解を4つのカテゴリに分類しています[Yau, 2024]。

【システムチェンジ投資家のゴール設定のレベル感の分析に用いた3つの分類】
①System optimization(システム・オプティマイゼーション):社会的、技術的なシステムを変えずに既存の取り組みを継続的に改善してイノベーションを起こすこと。
②Partial system redesign(パーシャル・システム・リデザイン):既存システムの特定領域を変えるテクノロジーやビジネスによって破壊的なイノベーションを起こすこと。
③System transformation(システム・トランスフォーメーション):テクノロジー、業界構造、政策、生活者の習慣といった現実を根本から再構成し、変えること。

図表9: システムチェンジの3つのゴール分類:経年のインパクト比較[グラフはHow Can Impact Investors Enable Systems Change? Exploring the Theory and Practice of an Emerging Field.より引用(Yau, 2024)。3つのカテゴリ分類については、『System Innovation and the Transition to Sustainability』(2004)『Mogelijkheden: Technologie voor duurzame ontwikkeling』(1997)を参考にYau氏が作成したもの]

ヤオ氏の研究によると、26のシステムチェンジ投資家のうちすべての投資家が上記②Partial system redesign(特定領域の破壊的イノベーション)もしくは③System transformation(根本的な変容)を志向しており、既存の取り組みの延長上にある変化は目指していないことがわかりました[Yau, 2024]。

システムチェンジ投資家の「システム理解」

また、ヤオ氏の研究で「システムチェンジ投資家がどのようにシステムを認識・定義するか」についても、概念整理がされています。

「システム」の概念は非常に幅広く多様な使われ方をするため、具体的にはシステム投資家が「システム」という言葉をどのように理解しているかを以下の4つのカテゴリに分類しています。

①バリューチェーン:例えば物流などのプロセスへの着目
②因果関係:システムにおける要素間の因果関係やフィードバックループ
③ステークホルダーの関係性:システムにおけるステークホルダーの関係、権力構造
④パラダイムと価値観:現在のシステムの根底にある規範や価値観

図表10: システムチェンジ投資家のシステム理解についての4分類[How Can Impact Investors Enable Systems Change? Exploring the Theory and Practice of an Emerging Field.Yau, 2024)より引用]

これらのシステムチェンジ投資家のゴールとシステム理解の分類を手がかりに考えていくと、同じ「システムチェンジ投資」の概念にもかなりの幅があるとわかります。

ゴール設定については、社会や環境のシステムそのものを根本的に変える取り組みを目指すのかそうでないのか。変える対象となるシステムについては、ある領域のバリューチェーンを指すのか、それとも価値観や規範といった深層にあるものを指すのか。

これらはどちらが良いとったものではありませんが、ある程度スコープが明確になりやすいこれまでのインパクト投資と比べ、システムチェンジ投資においては「システムをどう定義し、どこまで変えるか」のゴールと前提条件の設定がより投資家側の主体性や意図、そして本質的には事業者との合意に委ねられるものになっていると言えます。

システムチェンジ投資家の「メンタルモデル」と「特徴的な役割」

では、システムチェンジ投資の「ゴール」達成において、投資家の役割はどう変わるのでしょうか?

これについて、先述のヤオ氏の研究によると、システムチェンジ投資の行動の起点には概ね4つの「メンタルモデル」があり、それがシステムチェンジ投資の役割を特徴づけているとのことです。

【システムチェンジ投資の4つのメンタルモデル】
①スーパースター・ソリューションの拡大:特定領域の制約条件と機会を分析したうえで、現状のシステムを代替しうるソリューションへの投資を行う。
②法やルールを変えるエビデンスづくり:イノベーターへの投資でデータや知見を集積し、社会規範や法律を変えるアドボカシー活動を行う。
③ステークホルダーの協力関係やエコシステムの醸成:課題領域のバリューチェーンに存在するイノベーターへの投資を行いつつ、システムチェンジを促進するためのステークホルダー・ネットワークの醸成を行う。
④イノベーターの苗床の運営:破壊的なイノベーションを起こしうるプレイヤーへの投資を起点に、それを支えうる投資家やバリューチェーン内のステークホルダーへの働きかけを行い、イノベーションが転換点を超えるプロセスを支援する。
Yau, 2024

図表11: システムチェンジ投資家の4つのメンタルモデル(暫定整理)[How Can Impact Investors Enable Systems Change? Exploring the Theory and Practice of an Emerging Field.Yau, 2024)より引用]

上記はヤオ氏による暫定的な整理であり、システムチェンジ投資のあり方・やり方を厳格に規定するものではありません。ただ、システムチェンジ投資が果たす役割として「多様な形の資金提供を行うだけでなく、システムチェンジにつながる非財務的な支援を行う役割」が重要になっている点が示唆を与えてくれる内容になっています。

まとめ:システムチェンジ投資とは?

これまで参照してきた世界の先駆的な挑戦の事例や研究をまとめると、システムチェンジ投資は社会や環境システムの変化を志向し、資金提供に加えて非財務的な支援や活動を戦略的に行うことで既存の社会や環境システムの構造を変え、根本的な課題解決に貢献する取り組みと言えるかと思います。

SIIFは世界各地のシステムチェンジ投資の取り組みについてリサーチや実践者・研究者との意見交換を行ってきましたが、システムチェンジ投資をシステムチェンジ投資たらしめる、既存の金融やこれまでのインパクト投資との違いとなる共通要素としては、現時点では以下の4つが挙げられると考えています。

システムの複雑性を理解するためのシステム分析
システムチェンジの戦略を示すセオリー・オブ・チェンジ
・システムチェンジを目指す投資ポートフォリオ戦略アクションプラン
・システムチェンジを志向するIMM(インパクト測定・マネジメント)

※それぞれの内容はシステムチェンジ・ライブラリの関連記事として公開次第、随時リンクされる予定です。

これらはSIIFによる独自の提案に過ぎませんが、日本においてシステムチェンジ投資の実践例を増やしていくための一例として試論的に提示しています。

SIIFが捉えるシステムチェンジ投資の現状定義(Working Definition)とは

最後にここまでの議論を踏まえて、SIIFもシステムチェンジ投資の実践者として「システムチェンジ投資」を以下のように定義したいと思います。

社会・環境の課題を根本的・構造的に解決する「意志」と、解像度高くシステムを俯瞰しつつ課題の真因を探究する「学習」により、資金提供に留まらない課題解決に必要な「多様なアプローチ」を結集させて新たな価値を生むシステムへの変容を促す行為。

※この定義は2024年5月時点でのSIIF独自の現状定義であり、今後の事業活動を通して発展・変化する可能性があります。


SIIFが運営する「システムチェンジ・ライブラリ」では、今後、世界のシステムチェンジ投資にまつわる先行的な事例や実践知、そしてSIIFが手掛けるシステムチェンジ投資事業から得られた気づき・学びを発信していきます。

今後の展開に、どうぞご期待ください。

【システムチェンジ・ライブラリ powered by SIIFについて】
社会課題の解決と経済的な持続性を同時に志す人々がつくる新しい経済(=インパクトエコノミー)の実現を目指すSIIF(社会変革推進財団)のインパクト・エコノミー・ラボが運営する、世界の「システムチェンジ」を志向する投資・課題解決の先行的事例や実践知のコレクションです。特に、SIIFが行うシステムチェンジ投資事業の実践や国内外の調査研究から得られた気づきや知見をもとに、社会の当たり前を変えるための新しいお金の流れや、多様なステークホルダーが協力してつくる事業を生み出すヒントを発信していきます。

Reference
1. TWIST: Investing for systems change. [TWIST]
2. Systemic Investing Summit 2024.[TransCap Initiative, 2023]
3. Overview of the Inaugural Systemic Investing Summit 2024. [TransCap Initiative, 2024] 
4. GIINsight: Sizing the Impact Investing Market 2022. Global Impact Investing Network. [Hand, D., Ringel, B. and Danel, A., 2023]
5. Systemic Investing for Social Change. Stanford Social Innovation Review. [Daggers, J., Hannant, A., and Jay, J., 2023]
6. 日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2021年度調査-[一般財団法人社会変革推進財団(SIIF), 2022]
7. What is systemic investing? An update on definition, key concepts, and relevance.[Hofstetter, D., 2023]
8. NEW CLIMATE SCENARIOS FOR A HOLISTIC VIEW OF CLIMATE CHANGE IMPACTS.[Deep Transitions, 2024]
9. Transformative investment: a new approach to a sustainable future.[Baillie Gilford, 2023]
10. The Investment Integration Project Recruits 22 Leading Investors for First System-level Investing Cohort.[The Investment Integration Project (TIIP), 2023]
11. Deep Transitions Lab.[Deep Transitions]
12. Thinking in systems: A primer. chelsea green publishing.[Meadows, D.H., 2008]
13. Systems Thinking Resources THE ICEBERG MODEL[The Academy for Systems Change]
14. Getting to maybe: How the world is changed. Vintage Canada.[Westley, F., Zimmerman, B. and Patton, M., 2009]
15. Dilemmas in a general theory of planning. Policy sciences, 4(2), pp.155-169.[Rittel, H.W. and Webber, M.M., 1973]
16. 4 LEVELS OF IMPACT[Ashoka]
17. Ozone layer may be restored in decades, UN report says.[BBC, 2023]
18. How Can Impact Investors Enable Systems Change? Exploring the Theory and Practice of an Emerging Field. (January 26, 2024).[Yau, A., 2024]
19. General introduction: system innovation and transitions to sustainability. System innovation and the transition to sustainability, pp.1-16.[Geels, F.W., Elzen, B. and Green, K., 2004]
20. Mogelijkheden: Technologie voor duurzame ontwikkeling. TNO/CPB, Delft.[Weterings, R.A.P.M., Kuijper, J., Smeets, E., Annokkée, G.J. and Minne, B., 1997]

===

<本記事のマガジン>

システムチェンジ・ライブラリ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?