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ファンド組成を通じたインパクト投資の実践とエコシステム構築【前編】

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■シリーズ:ESGの一歩先へ インパクト投資の現場から■

新生銀行グループの新生企業投資株式会社は、邦銀系初のインパクト投資ファンドである「子育て支援ファンド」、および日本インパクト投資2号ファンド(以下、「2号ファンド」)における取り組みが評価され東京都の「東京金融賞 2019」の「ESG投資部門」*を受賞しました。
SIIFは、同社子会社の新生インパクト投資株式会社と2号ファンドの組成・運営に携わっています。子育て支援ファンド組成からの新生企業投資の構想、2号ファンド設立と現在に至るまでのストーリーや今後の展望などについてお話しいただきました。

*東京金融賞とは、「国際金融都市・東京」構想に基づく施策の1つで、ESG投資部門は、都民のニーズや課題解決に合致したESG投資の普及に積極的な金融事業者に対して与えられる賞です。

対談者:高塚 清佳(たかつか さやか)(新生企業投資株式会社 インパクト投資チームシニアディレクター)、黄 春梅(ホァン チュンメイ)(新生企業投資株式会社 インパクト投資チームシニアディレクター)、菅野 文美(すげの ふみ)(一般財団法人 社会変革推進財団 事業本部 本部長)

菅野 文美(以下、菅野)東京金融賞受賞おめでとうございます。今回の受賞はどのような点が評価された、とお考えでしょうか。

黄 春梅(以下、黄) ありがとうございます。主に2つの点が挙げられます。一つは、ファンドの投資対象分野を日本の喫緊の社会課題としており、子育てや介護、新しい働き方など東京都民の皆さまにとっても身近なテーマにフォーカスしているところ。もう一つは、普及を企図したインパクト投資の展開の姿をご評価いただいたと考えています。最初は、2017年に新生銀行グループ内でファンド運営を始めましたが、構想の当初から、私たちの取り組みを通じたエコシステムの構築とインパクト投資マーケットの拡大を目指していました。具体的には、新生銀行グループ単独で取り組む「フェーズ1」、共同GP運営者とLP投資家を外部から招聘する外部参加型ファンド運営の「フェーズ2」、フェーズ2に参加する各当事者が今度は独自にインパクト投資への取組みを進める「フェーズ3」という形をとってインパクト投資を普及・展開することを構想しています。

菅野 インパクト投資マーケットの拡大という観点でいえば、弊法人も新生企業投資様と2号ファンドでご一緒させていただいています。御社にとってはフェーズ2となる2号ファンドについてもう少し詳しくお話しいただけますか。

黄 2号ファンドは、1号ファンドである「子育て支援ファンド」の後継ファンドです。働く人々を中心に据え、多様な環境下で働く人々が、様々なライフイベント、例えば子育てや介護、自身の健康問題、リカレント教育などを経ながらも、働き続けられる環境づくりにつながる事業を投資対象にしています。弊社と一般財団法人社会変革推進財団(以下、「SIIF」)が共同運営者、株式会社みずほ銀行がアドバイザーとなり、3社共同で運営しています。

外部パートナーとの共同運営によるインパクト投資ファンドの設立

菅野 この2号ファンドは、どういう経緯で立ち上げたのでしょうか。

高塚 清佳(以下、高塚) 1号ファンドである「子育て支援ファンド」を手探りで組成している時から、フェーズ2では、外部の方々に投資家として参加してもらうだけでなく、運営にも関わっていただきたいと考えていました。

黄 本来はフェーズ1から外部の方と一緒にやりたいと思っていました。当時の日本ではまだインパクト投資が浸透しておらず、弊社でもインパクト投資関連のノウハウや知見を蓄積していなかったため、外部を巻き込んで運営していくにあたって広く理解を得ることは難しい状況でした。

高塚 ファンド運営においてどのパートナーと組むかについては、悩みました。異なる強みを持っているパートナーと組み、相乗効果を発揮しあう形が望ましいと思っていました。SIIF様とは、GSG国内諮問委員会などの活動を通じて関係性を構築していくうちに、インパクト投資のエコシステムを作っていきたいというビジョンが一致していました。また、社会的インパクト評価におけるグローバルな知見をお持ちであり、ぜひご一緒させていただきたいと考えました。

黄 実際、お願いに伺うとびっくりするぐらい反応が良くて。これが相思相愛なのだと思いました。(笑)

菅野 元々、弊法人はインパクト投資のエコシステムを日本に作り、貢献するということを目標にかかげて、活動しています。具体的には、投資目的として社会課題解決も追求するような投資家が増え、また社会課題解決を目的とするビジネスや起業家が育つような環境を作ることを目指しています。
日本でインパクト投資のエコシステムを拡大していくために、我々が今できることとして何が一番効果的だろうと考えたとき、やはり機関投資家が投資しうる、社会的インパクトも経済的リターンも両方追求できるようなインパクト投資ファンドの先行事例を日本で作ることではないかと考えていました。
しかし、私たちは財団なので、自分たちだけではファンドを立ち上げることはできません。いつか、そういったファンドを立ち上げたいと思っていたときに、ファンド参加のお話をいただきました。そこで打ち合わせをさせていただく前に、どういう条件なら、ご一緒できるだろうかというところを社内で議論したのです。

高塚 最初に、「2号ファンドでご一緒したいので伺います」とだけお伝えしましたが、お会いしたときには、すでにSIIFさま側で具体的にどうしたいかについて色々考えてくださっていましたね。

菅野 まずは自分たち自身で、影響力のあるパートナー組織の方と一緒に具体的なインパクト投資の事例を作っていく。そして、そこで蓄積したノウハウを、できる限り、周りの潜在的なインパクト投資の担い手に還元していく。インパクト投資のエコシステム構築に向けて、これまでもそういうやり方で、多様なインパクト投資の案件を組成してきました。この話をいただいたときも、一緒にファンド作りをさせていただけるのであれば、ぜひやらせていただきたい、と考えました。

高塚 「ファンドをいちから作り上げるところから一緒にできますか」とご質問いただいたことを覚えています。

黄 実際、2号ファンドの投資判断をする投資委員会では、3名で編成される投資委員会のうち1名がSIIFさまです。全会一致で承認するため、投資判断にはSIIFさまも直接関わっていただいています。

高塚 さらに、みずほ銀行さまに本ファンドへのご参画可能性につきご説明に伺った際にも、ファンド運営に関わりたいという積極的なお返事をいただき、これも大変嬉しく思いました。みずほ銀行さまは、SDGsを経営戦略の重要な柱と位置付けられており、インパクト投資についてもソーシャルインパクトボンドなどの取組みを進められていました。SDGsやインパクト投資のお取組みをさらに進めるべく、本ファンドの運営アドバイザーとして、スタートアップおよび大企業とのネットワークやイノベーション企業を支援する「M’s Salon」を通じた金融サービス提供力をご提供いただくことになりました。こうして、新生銀行グループ、SIIFさま、みずほ銀行さまの3社の強みを持ち寄った連携体制が確立できることになりました。

実際の共同運営に関わる様々な課題

菅野 ファンドを共同で運営していこうという話は順調に始まりましたが、実際、新生企業投資さまとしてはどんなことにご苦労されましたか。

高塚 一緒にやっていこうと決めたところまでは早かったのですが、一般財団法人と組んでファンドを作っていくということが今までにないケースだったため、スキーム等を考えていくうえでかなり試行錯誤しました。

菅野 2号ファンドは、働く人を中心に支援していくというコンセプトはしっかりあったのですが、長期的に社会に対してどのようなインパクトを創出することを目指すのか、そのために中期的にはどのようなアウトカムを目指していくのかなど、このファンドによるインパクト創出のためのセオリーを作るところでさらに議論を重ねました。また、社会的インパクト評価・マネジメントを行う目的を明確にし、その結果をどのように使うのかといった具体的なツールも開発しました。やはり、そこのところが私たちが参画して、力を発揮しなければいけないところだと思ったのです。
今、すでに欧米市場には多くのインパクト投資ファンドがありますが、日本で機関投資家が投資できる本格的なインパクト投資ファンドは、他にはあまりありません。日本でもこれからどんどん出てくるかもしれない状況の中で大切なことは、ファンドが生み出す、また投資先の企業が創出するインパクトの質だと思います。現在、グローバルに見ても、社会的インパクトマネジメントの考え方や手法を共同開発し、共通認識を醸成していく動きが強まっています。私たちもそのグローバルな動きに参画しながら、日本のインパクト投資のスタンダードを様々なインパクト投資のプレーヤーと共に開発していくということが、挑戦であると同時に機会だと思うのです。

経済的視点と社会的視点の双方を掛け合わせたインパクト投資

高塚 今思えば、ファンド設立準備のために話を始めた当初は、話し合いにとても時間がかかっていました。同じ言葉でも、同じ定義として捉えて使っているのか、判然としなかったことがありました。私たちは1号ファンドでの具体的な実践の積み上げを通じ、できることとできないことを目の当たりにしていた一方、SIIFさまでは、インパクト投資に関する深い知見を背景に、こういった社会を作りたいという強い気持ちが先にあるといった印象でした。お互いに目指しているものは同じだったと思うのですが、最初はちょっとしたズレがあったような気がします。

菅野 最初は、お互いに、専門性がはっきりと分かれているなあと感じました。新生企業投資様は、すごく豊かなベンチャー投資やPEの経験をお持ちでいらっしゃる。一方、弊法人はインパクトを専門にしている。エコシステムを構築していく中で、これからどういったインパクト投資家が育っていけばいいのだろうと考えたとき、投資やインパクトといった専門性をそれぞれが持ち寄って協働するという形もあれば、投資家自身がどちらの専門性も持ち合わせているという形もあると思います。新生企業投資様とお話しさせていただくうちに、今は、社会性と経済性といったお互いの専門を持ち寄っているけれど、将来的には、それぞれが単独でも両方の視点を併せ持ち、両者が協働することでそれらを掛け合わせたようなインパクト投資ができるように、年数をかけて研鑽しましょうという話になりました。

黄 あらためて異色の組み合わせで良かったなと思います。

(後編に続く)

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