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ジェンダーギャップ、教育…見えてきた「地域活性化」のレバレッジ・ポイント辺境から変化の兆しが生まれる


SIIF常務理事 工藤七子


SIIFインパクト・オフィサー 小笠原由佳

工藤 SIIFでは今年、「ヘルスケア」「地域活性化」「機会格差」の3領域で課題構造分析を進めています。課題意識としては、インパクト投資という言葉が普及し、たくさんのプレイヤーが市場に入ってくる中、「本当に社会課題を解決するためには何をすればよいのか」という思いがありました。投資をする、その前の上流工程として、課題の本質は何で、どうやったら本質的な解決につながるのか、との探求をしたいと思っています。
 
小笠原 第一ステップとして、課題の構造分析を行いました。今回発表したものはその分析結果です。今後、その課題を構造的(システミックに)レバレッジ・ポイント(大きな変化を起こす梃子の力点)を見つけて仮説を立て、SIIFとしてシンボリックな成功事例を創出することが狙いです。今回はそのうちの1つ、地域活性化についてヒアリング調査などから見えてきたことを共有したいと思います。
 
 最初に地域課題に詳しい専門家や地域で活躍する起業家、投資家、自治体職員の方などを巻き込んだワークショップを行い、「地域が抱える課題」を出していただきました。それを、①仕事 ②暮らし ③価値観 ④自然環境――の4つの側面に分類し、そして、各課題のつながりを仮説的に図示した「システム図」をたたき台に、地方で活動する団体や企業、金融機関の関係者など14人ほどに個別ヒアリングを実施。さらに客観的なデータの収集は調査会社にプロボノで作成頂きました。

地域活性化課題構造マップ
https://www.siif.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/kadaikozomap_chiikikasseika.pdf

もともと、地域の課題といえば、「雇用」とか「医療・介護の持続性」というような点かと思っていたのですが、そこで新たな気付きがあったのは、価値観の中でも、ジェンダーギャップが地域活性化のボトルネックになっているということです。ヒアリングした専門家の14人中、男性は12人でしたが、そのうち8、9人が同じような認識でした。地域を変えるためには、ジェンダーの不平等をはじめとした多様性の受け入れが大きな優先課題であるという意識が、地域で活動する多くの方にもあったのは意外でした。地方には男尊女卑的な価値観が根深く、それを受け入れ内面化できる女性は地域に残るけれど、逆に反発する女性は都市部へ流出し、地元に戻ってこない。そのため、地域においては、古い価値観が固定化され、より強固になっていくという構造があります。
 
工藤 ジェンダーと教育はかなり議論になりましたね。特にインパクト投資に求めることとして教育の課題が上がりました。教育といっても学校教育にとどまらない体験や出会いを含めたより広い学習機会という観点です。子どもの頃から古い価値観やジェンダーギャップが蓄積されていき、新たなロールモデルが生まれないという現状があります。価値観の形成という広義での教育に地方活性化の課題があると感じます。地方にいたら自己実現できないという認知があるとしたらそれがボトルネックかもしれません。

既得権益が失われた人口1万人以下の自治体に変化の兆しが見える

小笠原 もう1つは、「地方」という中でも人口規模(①1万人以下 ②~5万人 ③~50万人)によって抱える課題が異なること。例えば人口が一定数いれば、医療・介護の課題はそこまで深刻ではないかもしれないけれど、人口が数千人単位であれば、大きな課題として捉えられている、というように、それぞれ、共通する課題もあるけれど、その深さが人口規模によって違う、という点がありました。そして、岡山県西粟倉村のように人口が1万人を切り、既得権益構造が壊れた自治体に変化の兆しを感じました。
 
工藤 そういった既得権益による圧迫が小さくなった小規模な自治体に、スキルがあって大資本に依存しなくても自立できる人材が活躍の舞台を見出すという事例・傾向がヒアリングで度々指摘されました。スキルを持つクリエイティブな人や組織が人口1万人以下の自治体に集積して地域が活性化するというのはパラダイムの転換です。そこは自然資源が豊かで土地や生活コストが安いというメリットもある。小規模自治体が地方創生の起爆剤になる可能性はあります。辺境から変化の兆しが見えてきている。
 
小笠原 逆に5~数十万人規模の自治体では、縮小均衡に陥っている地場産業と既得権益を守ろうとする力がより強くなっている気がします。そこを変革するシステムチェンジはなかなか見えてきません。
 
工藤 都市部よりも高齢化が進む地方はシルバー民主主義が先鋭化し、意思決定がシルバー重視になるため、教育は悪意なく重視されなくなっていくという構造も指摘されました。高齢者層の声しか行政に反映されない構造はボトルネックだと思います。元気な高齢者が若手世代に経営を譲らないのは日本全体の問題でもあるけれど。
 

マスメディアの失速が地方活性に与える影響は?

工藤 マスメディアが失速してSNSが価値観を醸成するような状況になると、必然的に多様性が生まれると言われます。ミレニアル世代が日本の人口の半数を占めるようになると、SNSの影響力がさらに強まっていき、価値観の転換が一気に進むかもしれない。一方で、地方行政の観点でみると、地域のメディアが力を失うことで地方議会への監視力が弱まるというデメリットもあります。
 
小笠原 今後、課題構造分析をさらに進め、変化を起こすレバレッジポイントを掘り起こして、SIIFとして何をするかを具体化していきます。2023年初旬までに、ビジョンペーパーを発行する予定ですが、地域の課題に取り組む人々にとって、プロジェクトや議論のたたき台になるとありがたいと思っています。
 
工藤 地域活性化を考えるとき、表層的なソリューションを実施することが効果を生まないことも多々あります。例えば、有名な観光地でインバウンドの観光客が急増したにもかかわらず、その間住民の平均収入は変わらなかったという事例もあります。観光客が増えれば地域活性化になる、という単純なことではなく、地方創生っぽい取組が本質的には価値を生んでないこともあるのだな、と。地域活性化と言ったときにそもそもどういった状態を目指すのか、そのビジョンの実現を阻んでいる問題の構造はどうなっているのか、どのようにその構造をひっくり返すことができるのか、をこれから考えていきたいと思います。

■注力する3つの社会課題テーマ ~地域活性化~
https://www.siif.or.jp/social_agenda/chiikikasseika/


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