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沖縄初の地域インパクトファンド誕生 社会課題解決のための新しい金融の流れを生み出す

 特定の社会課題を解決することを目的として、財務リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトの両立を目指すインパクトファンド。SIIFは2021年度の休眠預金事業のテーマを「地域インパクトファンド設立・運営支援事業」とし、2社を実行団体として採択。地域インパクトファンドの設立と運営に向けて伴走支援を行っています。
 2022年には採択団体である「株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ」(東京都千代田区)が、南都銀行の子会社である南都キャピタルパートナーズと「やまと社会インパクト投資事業有限責任組合」を設立。地銀が設立するインパクトファンドとしては国内初のものでした。そしてこの度、沖縄県において、「株式会社うむさんラボ」(沖縄県うるま市)が休眠預金事業を活用した「カリーインパクト&イノベーション1号投資事業」(以下:同ファンド)の設立を発表しました。
 自律共創の「新しい沖縄」を目指し、沖縄の課題解決のためのインパクト投資が始まります。


ソーシャルビジネスへの資金循環を加速化させる

 株式会社うむさんラボが立ち上げた同ファンドは、「沖縄の環境・社会課題の解決=社会的インパクト」と「持続可能な成長=経済リターン」の両立を目指すスタートアップや社会起業家を支援する投資事業です。沖縄が抱える社会問題は山積みで、特に相対的に低い所得や高い失業率の問題、貧困の問題は深刻です。また海洋プラスチックゴミ、サンゴ礁の破壊・白化現象などの環境問題、基地問題、離島における教育の選択肢の少なさや高い移動コストの問題なども抱えています。同ファンドでは、こうした、通常のビジネス志向や手法ではアプローチしづらい地域課題を解決するソーシャルビジネスへの資金循環を加速化させることを目指して設立されました。
 うむさんラボの創立は2018年。これまで沖縄の社会課題解決と課題解決のための人材・起業家の育成を大きな2本の柱として、さまざまな事業を展開してきました。例えば「ゆいといろ」は、社会で生きづらさを抱える特性を持った人たちが中心となり、バックオフィス業務を代行する事業。社会課題解決の一つのビジネスモデルとして、いま全国から注目が集まっています。また、起業家やソーシャルビジネスを育てる事業として始まった「島ぜんぶでうむさんラブ(島ラブ)」は、株式会社よしもとラフ&ピースとの連携で沖縄の各地域でワークショップを実施。ソーシャルビジネスが育っていくための土壌づくりが広がっています。

ファンドの組成に必要なスキルをSIIFが支援

 こうした事業を進め、地域における課題解決の取組を図るため、地域インパクトファンドを新たに設立することは、ソーシャルビジネスに投資するという新しい金融の流れをつくるとともに、多くの人々に沖縄に関心を持ってもらうきっかけにもなります。
 インパクトファンドでは「インパクトの測定・マネジメント(IMM)」の実践が求められるため、目指すゴールに対して、何がどのように変容することでインパクトが発現するのか、そのステップを可視化するロジックモデルの作成やインパクトを測定するための指標の設計などが不可欠となります。IMMの基本要素となる、1) インパクト・ゴールと期待値の設定、2) 戦略策定、3) 測定指標の決定と、目標値の設定、4) インパクト・パフォーマンスの管理など、SIIFはインパクトファンド設立に必要とされる専門的なスキルや実践知を提供しています。
 特にロジックモデルの作成には時間をかけ、ファンドのロジックモデルを作成する前に、うむさんラボが取り組む各事業を整理し、組織として目指す方向性やそこに至る道筋を一緒に考えました。ロックモデル案は、「①最終目標を考える」「②誰にどのような価値を提供するのかを考える」「③最終目標と各事業のつながりを確認する」のステップを踏み、ブラッシュアップさせています。

うむさんラボのロジックモデル(2022年11月時点)

ファンドによる金融エコシステムがもたらすもの

 組織が目指す方向性や各事業の道筋を考えることで、ファンド組成の位置付けや役割が明確になります。うむさんラボでは、自ら考え行動し、共に創る「自律共創型社会」という言葉を掲げ、最終的に目指すのは、例えば補助金に頼らずに自分たちの課題を解決できる「株式会社沖縄」。そして株式会社沖縄に、「豊かさを分かち合える、逞しくて優しい経済の循環を生み出す」ことを最終アウトカムとしました。
 同ファンドは、そういった考えを体現すべく社会課題に取り組む新しい金融の流れを作り、より大きな社会的インパクトを作ることを最終的な目標に掲げています。そのための事業を増やし、人材を育て、仕組み作りに貢献していく。こうした金融エコシステムを育むことができれば、それは地域社会・経済の活性化を支えることはもちろん、地域課題を解決しながら地域発展に貢献できる「新しい資本主義」の一つのモデルになるかもしれません。このファンドを立ち上げたうむさんラボ代表の比屋根隆さんが同ファンドの先に考えているのは、県民や沖縄ファンが個人で毎月100円から投資できる「県民ファンド」です。沖縄をよくしたいという思いがあれば、高校生でも投資という形で地域に貢献できる。こうした思いや期待のこもった「志金」を通して、「よりよい未来づくりにチャレンジする、社会起業家を支援していきたい」と比屋根さんは語ります。
 地域インパクトファンドがもたらすもの、それはお金の流れを変え、社会のあり方を変える力になるでしょう。

同ファンドのロジックモデル(2023年7月時点)


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