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環境とファイナンスを巡る政策動向と、社会企業への期待

テーマ:インパクト投資における国内外の動向

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SIIF ナレッジ・ディベロップメント・オフィサー 織田 聡


SIIFではインパクト投資やESG投資に関する動向を調べ、今後の政策形成を探る手段として、政府部内に設置される研究会での議論や報告書を定期的にウォッチしています。

今回は、インパクト投資における国内外の動向の第1回目の内容として、日本政府の環境に対する政策動向についてまとめました。
なぜインパクト投資を推進するSIIFが環境を巡る政策動向を継続的にウォッチしているかを述べておきたいと思います。環境という政策テーマはE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の中でも、達成目標の数値化、検証の客観化に馴染みやすく、またパリ協定などに見られるように国際的な枠組みが整備されてきています。そのため、投資資金の出し手であるアセットオーナー、アセットマネジャーも、環境に関連する投資であれば客観的な情報を基に資金を振り向けやすく、対外的な説明責任を果たしやすくなります。

インパクト投資の領域は医療、地方創生、再生可能エネルギーなど多岐にわたりますが、インパクト投資を拡大させようとする際、投資資金を惹きつけるという意味で環境という切り口は非常に重要と考えており、そのため環境(特にSDGsに関連する環境テーマ)には大きな関心を払っています。


今回、調査対象としたのは、経済産業省、金融庁、環境省の研究会。国連が「持続可能な開発目標」(SDGs)を提唱した2015年以降に組成された研究会は22(経済産業省11、金融庁7、環境省4)あります(2021年4月19日現在)。

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この年表を概観すると、環境省はもちろんのこと経済産業省、金融庁でも、環境がファイナンスの大きなテーマとなっていることが分かります。例えば、国連がSDGsを提唱した翌年の2016年8月、経済産業省はESG研究会である『持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会』を発足させ、その研究会が2017年10月に終了すると、すぐさま翌11月には『SDGs経営/ESG投資研究会』を設置し、議論を継続させています(委員構成は替わっても委員長は引き続き伊藤邦雄三一橋大学教授)。2020年2月に『環境イノベーションに向けたファイナンスのあり方研究会』が発足した後は、テーマを替えながら複数の研究会が切れ目なく開催されています。

金融庁は2020年からは『インパクト投資に関する勉強会』、『サステナブルファイナンス有識者会議』、『ソーシャルボンド検討会議』を立て続けに組成し、積極的な議論を行っています。環境省でも2018年1月の『ESG金融懇談会』発足以降、インパクト投資、ESG投資の検討を進めています。
 
これらの各省の動きを、国内外の情勢と照らし合わせて眺めると興味深い関連が見えてきます。例えば2015年9月の国連によるSDGs提唱と12月のCOP21(気候変動枠組条約締約国会議)のパリ協定締結が、2016年5月の日本政府の閣議決定である『地球温暖化対策計画』に繋がり、2016年以降の各省での研究会活発化に結びついています。

また2019年6月の閣議決定である『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略』では、地球温暖化をリスクとしてだけでなく寧ろ日本経済成長のチャンスと捉え、その成長分野への資金投入の必要性を訴求しており、その政策方針が引き金となって2020年以降、具体的なテーマに則った研究会が数多く発足しています。

 【2020年以降発足の各省の研究会】
経済産業省
環境イノベーションに向けたファイナンスのあり方研究会
サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環ファイナンス研究会
トランジション・ファイナンス環境整備検討会
世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法のあり方に関する研究会
金融庁
インパクト投資に関する勉強会
サステナブルファイナンス有識者会議
ソーシャルボンド検討会議
環境省
ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース

上に記載した各省の動きは、閣議決定だけでなく2019年9月にUNEP FI(国連環境計画ファイナンシャルイニシアチブ)が制定した『Principles for Responsible Banking (責任銀行原則)』からも大きな影響を受けているのです。

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これらの研究会を見てみると、環境問題を単なる達成目標、遵守目標として捉えるのではなく、ビジネスの力を最大限に活用し、イノベーションを通じて産業活性化、経済成長の推進剤に用いようというのが日本政府の方針であることが読み取れます。その方針が呼び水となってTCFD提言に基づく非財務情報の開示やグリーンボンド発行などの市場整備が進み、今後多額の民間資金が環境分野に投じられていくものと予想されます。また単に資金が流れるということ以上に社会からのニーズが強いということも併せて認識しておく必要があると思います。

今後、インパクト投資を資金調達として引き寄せたいと考えているソーシャルエンタープライズ(社会企業)としても、パリ協定以降の環境重視(特に気候変動対策重視)のトレンドを活用し、社会からの好意向上と資金の取り入れに向けて自社の事業領域と対外訴求の必要性を感じずにはいられません。もちろん目先の資金のためのインパクトウォッシングを推奨しているのでは毛頭なく、今まで明示的に意識してこなかった自社事業と環境分野との関連を見つけ出し、それらを公開していく姿勢が企業に求められていると思われます。

環境問題は全人類の将来にとって切実な問題であり、例えば温暖化ガス排出削減では国別に定量的な目標が割り当てられていることから国際社会において日本が劣後するわけにはいかないという事情もあり、政府も経済界も環境には大きなリソースが向かうものと考えられます。今後はさらに環境問題だけでなく、日本国内においても社会課題をビジネスの力で解決する社会起(企)業家が資金調達を行う際、環境をレバレッジに使うといったバリエーションも望まれるところです。


この文章をご覧になるのは金曜ではないかも知れませんが、TGIF ! (Transition, Green and Impact through Finance!)
               




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