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SIIFメンバーから、日本のフィランソロピー発展を目指す新会社が誕生

SIIFでフィランソロピーアドバイザーを務めてきた藤田淑子と小柴優子が、このたび独立し、フィランソロピー・アドバイザーズ株式会社を設立しました。国内ではおそらく先例のない、フィランソロピー・アドバイザリー専門のスタートアップです。彼女たちは何を目指して起業を志したのでしょうか。SIIF専務理事・青柳光昌、常務理事・工藤七子と語り合いました。

左上)常務理事工藤 右上)専務理事青柳 左下)小柴優子 右下)藤田淑子


日本に足りない「フィランソロピー・アドバイザリー」を確立する

工藤 2人が起業を目指した動機は、どんなことだったのでしょう?

藤田 私がSIIFに参加してからの4年間で、日本社会におけるインパクト投資への理解はかなり進んできたと思います。ただ、金融業界には浸透してきたものの、実際に資金を拠出する層へのアプローチは、まだまだこれからではないでしょうか。

まとまった資産を築いたけれども、どうすればそのお金を社会のために役立てられるのか分からない。そういうニーズが存在することを、2020年に公表した『新しいフィランソロピーを発展させるエコシステムに関する調査』を通じて実感しました。

私には、22年間プライベートバンキング業務に携わった経験があります。その経験と、SIIFでの経験とを掛け合わせて、資金の出し手と具体的な社会貢献活動を結び付けることが、私に与えられたミッションではないか。そんな想いがどんどん強くなりました。

小柴 NYに留学中、ロックフェラー・フィランソロピー・アドバイザーでインターンをしたことが、この仕事に関心を抱いたきっかけです。そのときから、何か運命的なものを感じていました。

SIIFでの仕事はすべてが私の糧になっていますが、中でもある上場企業の創業ファミリーが代替わりをして事務局長を務めるある公益財団法人へのアドバイザリーの経験は、これから目指す事業に直結するものでした。日本にもフィランソロピー・アドバイザリーを必要とする人がいること、その人たちが抱える悩みや課題を実感する機会になりました。

SIIFでは社会起業家の支援も担当し、ゼロから事業を立ち上げていこうとする方たちの姿に大きな感銘を受け、刺激をいただきました。そのことから、自分も起業に挑戦したい、と思うようになりました。

工藤 プライベートバンカーとしての経験豊かな藤田さんと、ロックフェラー財団などで最新の知見を得た小柴さんがSIIFに参画してくださって、私たちも大きな学びをいただきました。それまでなかなか開かなかった、日本のフィランソロピーの扉が開いたように感じました。

青柳 社会課題解決のためには多様な資金が流れることが必要で、寄附も助成も投資ももっと増えていってほしい。SIIFとしても、フィランソロピーは重要なテーマの1つです。

資金を出す人の想いに寄り添い、実現を手助けする

工藤 SIIFはエコシステムの一環としてフィランソロピーを捉えていますが、藤田さんと小柴さんは、フィランソロピーを専門にして、さらに追求しようとしているわけですね。

藤田 たとえ事業に成功して大きな富を得たとしても、ただ社会の役に立つというだけで、寄附や助成ができるものではないと思います。自らリスクを取って得た、大事なお金なのですから。それを動かす動機になり得るのは、その人自身が「どんな社会を実現したいか」という意思でしょう。そして、「どのようにそれが実現されるか」という思考実験と納得感も大切だと思います。

そのためには、適切な情報を提供したり相談に応じたりするプロフェッショナルなアドバイザーが必要だと思います。その人自身の経歴や社会的立場、資産の構成や家族の状況などを踏まえたうえで、その人の想いをかなえる最適な資金の使いみちをアドバイスする。使った結果、成果を実感でき、満足が得られるところまで、責任を持って伴走する。そんな職能を持つ人は、日本にはほとんどいないと思うのです。

小柴 どんなインパクトを目指したいかは、人によって異なるはずです。自分は何を大事に思うのか、どうすれば、自分の理想とする生き方ができるのか。ただ、日本人にとって、個人の価値観を表明したり具現化を目指したりすることは、苦手な分野かもしれません。その苦手だけれど大切な部分をサポートすることにも関心があります。

藤田 SIIFでインパクト投資に携わってきて改めて、事業に投入したリソースと、それに対する成果が相関することの重要性を認識しました。「社会のためになる」というだけでなく、事業としてちゃんと成り立つかどうかは、目指す社会を実現するうえで需要です。

起業にあたって、非営利にするか営利にするか考えましたが、結論としては営利を選び、株式会社を立ち上げました。ちゃんとお金を出してもらえるようなサービスをつくらなければ、事業は継続できないと判断したからです。

工藤 SIIFをインキュベーションの舞台として2人が巣立ってくださることは、私たちにとっても嬉しいことです。

国内にも社会課題解決のための寄附や投資を志す人が増えている

工藤 2人が最終的に目指すものはSIIFと同じだと思いますが、立ち位置は違うのかもしれませんね。

藤田 資金を出す立場と、受け取って事業を行う立場、両方の立場を公正に支援することはできないと思いました。私たちは、まず、しっかりと、資金を出す立場の方々の側に立ってサポートする。。それをフィランソロピーの分野で実現したいのです。

青柳 資金を受け取る側もリソースは足りていないのですが、資金の出し手をサポートする人が足りないことも分かります。2人のような職能の人が増えていく必要があるのでしょうね。

東日本大震災の頃は企業の支援が頼りでしたが、それから10年ほどの間に個人富裕層の意識も変わってきたと思います。フィランソロピーに関心が寄せられるようになり、社会貢献のために寄附や投資をしたいと考える人が現れ始めました。今やもう、SDGsやサステナビリティという言葉を聞かない日はない。経営者層も意識せざるを得なくなっているのでしょうね。

藤田 実は私自身も、かつては日本でフィランソロピーは難しいのではないかと考えていました。けれども前述の調査で、金融機関のプライベートバンカーに改めて話を聞いてみると「実はフィランソロピーの相談を受けていたけれど、今まで十分に応えられていなかった」という答えが返ってきた。ニーズは確かにあったわけです。

金融機関自身も「金融の使命とは何か」と自問し始めていて、インパクト志向のお金が流れるようになっています。この扉をさらに大きく開いて、これからまた閉じてしまうようなことがないようにしたいですね。

主体的に社会に貢献する、手段と実感と満足を提供する

工藤 新会社は、これからどんな仕事をしていくのでしょう?

小柴 事業の柱は大きく3つです。1つは、SIIFでも手掛けていたフィランソロピー・アドバイザリー。社会貢献を志す個人や財団に、寄附先やインパクト投資を紹介したり、一緒にプロジェクトをつくったりすることです。

2つめは新たな試みで、財団の事務局をお引き受けすることです。アドバイザーというよりパートナーとして、組織の基盤整備や、助成活動や事業の立ち上げなどをお手伝いする。個人や財団に対するコンサルティングがまだあまり定着していない日本では、可能性のある事業だと思っています。

3つめは、フィランソロピー・アドバイザリーの普及や人材育成です。金融機関や税理士、会計士といった人々が持つノウハウを生かしつつ、社会課題解決につながる知識や寄附・投資への理解を深めていただければ、日本のフィランソロピーも成熟していくのではないでしょうか。

藤田 社会に課題を感じながらも一歩を踏み出せなかった人が、解決のために主体的に貢献できるようになって、そのことが楽しくて、結果につながって、心から「やってよかった」と満足できる。そんな状態があたりまえになる社会を、10年後にはつくりたいですね。

そのためには、まずはフィランソロピーの“量”を増やすこと。量が増えることで、その中から質の高いインパクトが創出されるようになるはずです。そのことが、私たちの使命だと考えています。

工藤 お2人の船出には、追い風が吹いていると思います。SIIFはこれからもエコシステムビルダーとして、社会変革・社会課題解決全体の環境整備に努めていきますが、その中でも市場の基盤整備や調整役として、フィランソロピーには大きな期待を寄せています。

今、インパクト投資の市場は成長しつつありますが、十分な財務的リターンが期待できない分野では、資金はまだまだ足りていません。フィランソロピーには、その触媒的資本としての役割を果たしてほしい。

お互いの居場所は変わるけれど、今後はまた違う形でご一緒する機会が増えるだろうと、とても楽しみにしています。

青柳 2人が日本のフィランソロピーの発展に尽力してくれることは、SIIFにとっても大変心強いことです。これからも、同じ目標に向かって協力していきましょう。


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