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「インパクト投資」の関心・取り組みが新たなステージへ ~金融庁×GSG国内諮問委員会共催第1回「インパクト投資に関する勉強会」を終えて~

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金融庁・GSG国内諮問委員会共催「インパクト投資に関する勉強会」事務局 SIIF 小笠原由佳

去る6月18日に、インパクト投資に対する金融市場関係者と行政の理解を深め、国内外の社会課題解決に向けたインパクト投資への取り組みの意義と課題を議論するため、金融庁・GSG国内諮問委員会の共催で「第1回 インパクト投資に関する勉強会」が開催されました。

SIIFはGSG国内諮問委員会の事務局として、本勉強会の運営を担当しました。当日は、金融関係者のみならず、経団連や東京証券取引所といった、市場関係者も含め、幅広い企業等から構成される委員、オブザーバー、事務局関係者を含めると、90人を越える参加(オンライン)を頂きました。

この勉強会の開催は、インパクト投資の推進に関わってきた関係者には、感慨深いものがありました。思えば、7年前の2013年、インパク投資を世界各国で推進することを目的に「G8社会的インパクト投資タスクフォース」がイギリスの主導で立ち上がりました。その翌年の2014年、パリで開催されるタスクフォース会議に日本からも参加する必要があり、外務省から日本財団のインパクト投資推進室(当時)に、民間側の代表として参加要請を頂きました。当時は今と比べれば、国内でのインパクト投資への関心はまだ限られたものでした。

パリでのタスクフォース会議から帰国後、国内諮問委員会を設立すべく、GSG国内諮問委員会に有識者としてご理解を頂けそうな方を訪問し、海外の事例を研究・普及する広報活動を少しずつ重ね、2017年に日本財団からの助成を受けて社会的投資推進財団(現:社会変革推進財団)が設立されました。関係機関・支援者のご協力を得ながら、一歩一歩、インパクト投資の普及活動が進められてきました。

今回の勉強会では、金融庁に共催をして頂き、また、メガバンク、地方銀行、第2地方銀行、信金・信組、政府系金融機関、アセットオーナー、アセットマネジャー、経団連、業界団体、東証、シンクタンク、コンサルティング会社、学識経験者、スタートアップの事業者等、まさにインパクト投資に関連する業界を網羅するプレイヤーに委員として参加頂きました。そして、インパクト投資をめぐり、その理念・実務の両面で重要な議論が交わされたという事実は、6年ほど前からインパクト投資を推進してきた事務局にとっても深い感慨を感じる瞬間でした。

今回の勉強会では、時間も限られ委員の数も多いため、全員の方がご発言することができませんでしたが、多くの参加者の積極的な姿勢もあり、相当にオープンな深い議論が交わされたのも印象的でした。会は、座長の高崎経済大学経済学部教授水口剛氏、副座長の金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー池田賢志氏の両者からのご挨拶に始まり、GSG国内諮問委員会副委員長鵜尾雅隆氏より、「インパクトエコノミーの時代~社会的インパクト投資と寄付の最新動向」の説明に続き、同勉強会の事務局を務める社会変革推進財団(SIIF)の専務理事青柳光昌から、「インパクト投資の現状と今後への期待」に関する説明を行い、同じく事務局のSIIFエグゼクティブ・アドバイザー安間匡明が、インパクト投資をめぐる事前の課題・論点の整理を行いました。

事前アンケートでは、インパクト投資の一層の推進にあたり重要なこととして、インパクト投資の定義・目的等の整理・明確化、成功モデルの創出、社会的インパクト評価の手法の確立、普及・啓発活動、といった点が多く挙げられていました。

当日会議の中で交わされた意見交換では、まず、インパクト投資の一定の定義がなされているにもかかわらず、何故これほど多くの人が「インパクト投資の定義」が重要と考えているのか、インパクトの考え方が多様ななか、定義する意味、議論する意味があるのか。「意図」とは何なのか、といった点が議論されました。

また、インパクトの考慮をすることと、受託者責任の関係について議論が取り交わされました。グローバルにみて、受託者責任が、インパクト投資やESG投資とどういう関係にあるか。
これには、大きく2つの考え方が提示されました。
1つ目は、「Environment、Social、Governance」への考慮がリターンや長期的な企業価値の向上に結び付く、その範囲であれば、受託者責任はクリアできるということ。
2つ目は、リスクやリターンのような財務的要因が同じである限りにおいて、インパクトの創出といった副次的要素の考慮は受託者責任に反しない、という考え方。この場合、インパクトとリターンについて明確な関係は要求されない。
但し、前者の考え方はグローバルにコンセンサスが得られていると言えるが、後者の考え方の整理は、米国でも色々と揺り戻しのある状況にあり、必ずしもコンセンサスがあるわけではない、との意見が示されました。

さらに、インパクト投資に欠かせないのは社会的インパクト評価。様々な手法やツールも世界的に議論をされているところではありますが、そもそも、投資家サイドが戦略・セオリーを持たないといけない、との意見が述べられました。「こういう意図でインパクトを起こしていく」という戦略・セオリーがないと、測れるものだけを測る、という状況になってしまう可能性がある、ということも同時に指摘がありました。

事業者の視点からも、経済性は社会的インパクトを拡大させるためのツールである、といった意見や、理想と現実のバランスを取りながら、現実的な社会的インパクトの評価が必要である、といった意見も述べられました。

参加者の委員の方からは以下のような感想も寄せられています。

“いま「金融」の常識が大きく変わろうとしている。これまで、リスクとリターンで優劣が評価されてきたが、そこに「誰が」「何のために」資金を使い、「その結果何が生まれるのか」が問われるようになってきている。「インパクト投資」はその代表的な受け皿となる。本研究会はその認識を深めていくための格好の機会となると確信している。”             (日本総合研究所 足達理事)

“コロナショックを経て、資本主義がより社会的価値に重点を置くようになる中、企業の社会的貢献事業に着目するインパクト投資が多くの投資家に支持され、日本経済の再活性化にも大きな役割を果たすことが期待されている。本日は重要な議論が多く、今後、インパクト投資への流れを後押しすることを期待したい。”
(京都大学、京都大学ESG研究会座長、加藤教授)

参加者の高い関心、熱心な実務的な議論が展開された第1回を終え、第2回への期待とともに、運営側としては身が引き締まる思いでいます。今後どのような多様なプレイヤーにより、多彩なアセットクラスでインパクト投資が展開されていくのか、また行くべきなのか。多様な金融機関や参加者の参画によって、インパクト投資が金融の主要な在り方の一つとなり、かつ、その中でも多様性を育みながら、本質的な社会課題の解決に向けて大きく貢献していけるのか。その実践に向け、どうやって前向きな議論を構築していくか。文字通り、次回以降においてこの勉強会の真価が問われることになり、われわれSIIFも事務局として不断の努力を続けていきたいと思います。

*金融庁・GSG国内諮問委員会共催「第2回 インパクト投資に関する勉強会」は8月末もしくは9月の開催を予定しています。




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