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「インパクト志向金融宣言 プログレスレポート2022」を発行。署名38機関の残高総額は3兆8500億円に達しました。〜メディア報告会開催レポート〜

2023年1月13日、SIIFはインパクト志向金融宣言(以下、本宣言)発足から1年間の活動と進捗をまとめたプログレスレポートを発行しました。22年10月末時点の署名機関が参加し、おのおのの取り組み状況と、22年9月末時点のインパクト投資残高を報告しています。
 
ここでは、プログレスレポートの主な内容と、発行当日にリアルとオンラインで同時開催したメディア報告会の様子をご紹介します。

2023年1月13日開催 メディア報告会

ESG投資15年の歴史を踏まえた運営委員会委員長・金井氏の冒頭挨拶

報告会では冒頭、インパクト志向金融宣言運営委員会委員長で三井住友トラスト・ホールディングス・フェロー役員の金井司氏が挨拶に立ちました。金井氏は2003年の社会的責任投資(Socially Responsible Investment、SRI)開発を皮切りに、長年にわたってESG投資、インパクト投資に携わっておられます。そのご経験からインパクト投資の歴史的背景についてご説明くださいました。
★★★
「SRIを開発した時は、投資とは経済的リターンを求めるものであり、環境・社会的リターンの追求は受託者責任上問題があると言われました。しかし、PRIがESGという考えを打ち出して15年を経て、経済的リターンの裏にある非財務的な要素の分析が極めて重要だということがコンセンサスとなった。それに加え、環境・社会への貢献がビジネスの成功の要件になってきています。経済的リターンを挙げたいなら社会的リターンも挙げよ、というビジネス環境になってきていると感じます。

また、金融に対する社会の期待も変化しています。気候変動や格差などの社会課題解決のためには莫大な資金が必要なので、民間の資金を引っ張ってくる金融が担うべき役割は大きい。間接金融のウエイトの高い日本においては、中小企業に融資する地域金融機関がインパクトを創造する役割にも注目すべきです。本宣言署名機関で本日登壇する静岡銀行や京都信用金庫は、まさにこの分野でのリーディングカンパニーです。

本宣言には地域金融機関、メガバンク、資産運用会社、ベンチャーキャピタルといった様々な金融機関が署名しています。この1年間、皆が一堂に会して活発に議論する様子を目の当たりにしてきましたが、これが何かのケミストリーにつながらないわけがありません。そのことを雄弁に物語るのが、このプログレスレポートだと感じています」

SIIF安間による国内外のインパクト投資現状報告

本宣言の事務局を務めるSIIF・安間匡明からは、世界と日本のインパクト投資の市場規模の変遷・現状を解説しました。
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「2022年10月、GIINは世界のインパクト投資の市場規模が1兆1640億ドルに達したとの推計を公表しました。2020年からの2年間で45%増という急激な伸び率です。ただ、ESG投資全体のうち、インパクト投資は30分の1ほどで、まだまだ数字は小さい。しかし非常な勢いで伸びているといえます。

機関別の内訳を見ると、年金基金や生命保険を預かるファンドマネジャーが63%。一方で世界銀行やアジア開発銀行など公的な開発機関(Development Finance Institutions、DFIs)が5%となっています。2020年時点ではDFIsが30%以上を占めていたことを考えると、それだけ民間資金の流入が大きくなっているとみることができます。

*2016~2018年は、投資家のアンケート調査集計。2019年、2020年は市場規模調査。データの性格は異なる
出所:GIIN "Sizing the Impact Investing Market 2021"

世界インパクト投資フォーラムの参加者も、ここ3年で約600人から約1600人に増えました。海外ではもはや、経済的リターンを犠牲にしてインパクト投資をしているという感覚の人はほとんどいません。フォーラムも熱気に溢れていました。

一方、日本国内におけるインパクト投資残高は、GSG国内諮問委員会の推計で、1兆3204億円(2021年度)となっています。日本でも伸びてはいるものの、まだまだ数字は小さい。しかし、昨年は岸田政権が『骨太の方針』にインパクト投資活用を明示し、経団連がインパクト指標活用を提言、さらに金融庁がインパクト投資の検討会を設置するなど、官民で機運が高まっています」

インパクト測定を実施しているインパクトファイナンス残高は3兆8500億円

事務局のSIIF・小笠原由佳からは、プログレスレポートにまとめた本宣言署名機関のインパクト投資残高と、宣言の運営体制及び分科会の活動内容について報告しました。

2022年10月末時点で署名機関は38機関。うち6機関が残高非公表、1機関非掲載で、31機関のインパクトファイナンス残高を集計しました。総額は3兆8500億円。うち50.6%が環境分野、10.6%が社会分野、両方にまたがるもの・両方を含むものが38.8%となりました。

「インパクトファイナンスの定義に一応のグローバルスタンダードはありますが、実際の算出条件は国や調査によって違いがあります。本宣言では、日本の現状を考えたとき、どのような定義・算入基準を設定すべきなのかを検討するための分科会を立ち上げ、実務者同士で議論を重ねました。インパクト投資の大きな特徴はIMM(Impact Measurement & Management、インパクト測定・マネジメント)にありますが、その実践レベルによって分類することにしました(下図)。
 
前述の総額3兆8500億円は、このマトリックスのレベル1とレベル2、少なくともインパクト測定を行っている投資の残高です。一方で、まだ測定は行っていないものの、インパクト創出の意図を持つ投資も、レベル0として別途算出しています。

本宣言の運営体制ですが、年に1回全社の代表による会合、3カ月に1回実務者が集まるワーキングレベル会合、さらに中心的役割を担う運営委員会を毎月1回開催しています。さらに、これとは別に、各実務者がそれぞれ関心のあるテーマに沿ってより深い議論を行うための分科会を設けました。テーマは各署名機関から募ったもので、現在7つの分科会が活動しています。

1つは前述の「定義・算入基準分科会」。そして、ほぼ全機関が関心を寄せる「インパクト測定・マネジメント(IMM)分科会」と、よりテーマを絞った「ソーシャル指標分科会」。さらに、アセットクラス別に「アセットオーナー・アセットマネジメント分科会」「地域金融分科会」「ベンチャーキャピタル分科会」があり、世界を見据えた「海外連携分科会」があります。営業現場ではライバルでもある実務者同士が、企業の垣根を超えて悩みを分かち合い、知恵を結集する、またとない場に成長しつつあります」。

本宣言が目指す「インパクト志向金融経営」とは何か。4社の事例紹介

インパクトファイナンスの増大は本宣言の大きな目的の1つですが、もう1つの重要な目的に「インパクト志向金融経営」の浸透があります。プログレスレポートでは16の署名機関が自らの「インパクト志向金融経営」の取り組みを開示しています。メディア報告会においても、4つの署名機関が報告を行いました。

●三井住友トラスト・ホールディングス
(運営委員長 三井住友信託銀行 フェロー役員 金井司氏)

三井住友トラスト・ホールディングスは「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」というパーパスの根幹に「社会的価値創出と経済的価値創出の両立」を据えています。信託の持つ多様な機能を活用し「人生100年時代 」「ESG経営」「ネットワーキング」という重点領域において、個人・法人・投資家という3つの経済主体の結節点として資金・資産・資本の好循環を創出し、社会的課題の解決を目指します。

当グループは2019年に世界でもいち早く融資商品「ポジティブ・ファイナンス・インパクト」の取り扱いを開始しました。加えて、自らの資金5000億円をもとにしたインパクト・エクイティを設定しています。これらを含むレベル2のインパクトファイナンスの残高合計が2329億円。レベル1とレベル2を合わせた残高が7176億円となりました。

当グループならではの取り組みとしては、水素や電池、化学、農業など様々な分野の博士・修士クラスの専門家を集めたチームを組成し、最新テクノロジーの社会実装の支援を通じたインパクトの創出が挙げられます。株式のインパクト投資ファンドやベンチャーキャピタル等へのインパクト評価のアドバイザリー業務も提供しており、経営レベルでの深い関与の下、多様なインパクトビジネスを展開しているのが当グループの特徴です。

●りそなホールディングス
(運営委員会副委員長 りそなアセットマネジメント 執行役員 松原稔氏)

りそなグループは、お客さまに多い中堅・中小企業のSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)推進に貢献するため、2030年までに「リテール・トランジション・ファイナンス」累計取扱高10兆円を目標としています。このほか、「カーボンニュートラル」「女性登用・活躍推進拡大」の3つの「サステナビリティ長期目標」を掲げています。これらは取締役会を含む経営陣によって決定し、トップダウンで推進しています。

インパクトファイナンス推進には、企業がパーパスやインテンションを持つことが非常に重要です。りそなアセットマネジメントのパーパスは、「将来世代に対しても豊かさ、幸せを提供」することです。その実践のために日本株式インパクトファンドとグローバルインパクト投資ファンド(気候変動)を設定し、インパクトの可視化を進めてきました。2022年11月にはこれらのファンドのインパクトレポートを公表しています。

投資先企業との対話を通じて、企業自らに社会貢献への自信を深めていただいただけなく、われわれ金融機関の側も、社会価値創出を支援する重要な役割を担っていることが実感できました。投資家も金融機関も、未来に向けてより良い社会づくりに携わることができるのです。

金融機関の1人1人がこうした役割に共鳴し、サステナブルな社会づくりに向けて取り組めるよう、これからも本宣言を通じて連携し、発信していきたいと考えています。

●静岡銀行
(コーポレートサポート部法人ファイナンスグループ法人ファイナンスグループ グループ長 新村剛規氏)

しずおかフィナンシャルグループは2020年4月からの中期経営計画において10年ビジョン「地域の未来にコミットし、地域の成長をプロデュースする企業グループ」を掲げています。22年10月には「しずおかフィナンシャルグループ」を親会社とする持株会社体制に移行、23年4月スタートを目指す新たな中期経営計画では、経済的価値だけでなく社会的価値の創出につながるサステナビリティ目標を導入する予定です。

社会的インパクト創出に関しては「量」と「質」の両面で取り組んでいます。

まず、「量」については、2021年1月に国内金融機関で初めて中小企業向けの「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」取り扱いを開始しました。22年12月末時点の累計件数は41件で国内最多、実行金額は124億円となっています。加えて、「リレーションシップ・バンキング」の考え方のもと、約20行の地域金融機関とウェブ会議等を通じてPIFのノウハウをお伝えしながらインパクトファイナンスの裾野の広がりに努めております。

次に「質」の向上についてです。2022年12月時点で累計約250件のPIFが全国で実行されており、インパクトファイナンスの裾野は確実に広がっていると感じております。一方でPIF実行だけに終わらせず、実行時に特定・評価したインパクトについてその後の測定ならびにマネジメント、いわゆるIMMこそが非常に重要と考え、2022年7月には環境省の「ESG地域金融促進事業」においてIMMの体制構築をテーマに採択していただきました。

厳しい事業環境に置かれる地域中小企業では、目標を掲げても進捗が滞るケースもあります。エンゲージメントを通じて課題解決に向けたソリューションを提供する、伴走支援が重要だと考えています。持続可能な地域社会の実現に向けて、グループの総合力を発揮しながら、インパクトの創出を目指していきたいと考えています。

●京都信用金庫
(理事長 榊󠄀田隆之氏)

私たちが実践しているインパクトファイナンスは決して派手なものではなく、地道でローカルなものです。ファイナンスというよりは、地域に寄り添う金融機関として、企業や個人消費者のマインドがソーシャルなものに変わっていくことを目指して行動しています。

バブル崩壊以後30数年間、地域では「金融排除」が進みました。私たちはこれを「金融包摂」に変えていきたい。金融弱者とされる「スランプ(経営に課題あり)」「スタートアップ」「スモール」の3つのSに「ソーシャル」を加えた4つのSの活性化がベースとなります。

地域社会をソーシャルに変えるには事業者(サプライサイド)と消費者(ディマンドサイド)が足並みを揃えてソーシャルマインドを高めなければなりません。

目標の1つは融資先の80%をソーシャルな企業にすることです。そのため、2021年から「ソーシャル企業認証制度」をスタートしました。京都北都信用金庫・湖東信用金庫とタッグを組み、龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターを認証機関として、社会課題解決やESG経営に取り組む地域の中小企業を可視化していくものです。これまでの1年間で765社が厳しいハードルをクリアして認証を取ってくださいました。23年1月からは兵庫県の但馬信用金庫にも賛同をいただき、さらに取り組みを広げていきます。

一方、ディマンドサイドである預金者に向けては、2022年1月から全国初の「京信ソーシャル・グッド預金」の取り扱いを始めました。預金者が、自分が預けたお金の運用先を「地域」「文化」「医療・福祉」「教育」「環境」「働き方」の6つのテーマから選べるというものです。1年間で8919口、115億円の預金をいただいています。

さらに、サプライサイドとディマンドサイド、またソーシャル企業同士をつなぐために、イベント「Social good day」開催やLINEフレンドなど、手間ひまかけてコミュニティづくりに取り組んでいます。

21世紀はインパクトの時代です。インパクトとは「心が動く」ということ。ソーシャルマインドに溢れる地域をつくるために、私たちは心で仕事をしていきたいと考えています。

★★★

この説明会には20名を超えるメディアの参加がありました。予定時間を超過して活発な質疑応答が行われ、IMMの実際や行政との連携、インパクト投資市場成長の背景などが問われました。日本におけるインパクトファイナンスの成長速度はまだまだ海外に及びませんが、官民や地域社会の連携、金融機関のパーパス表明などにより、社会・環境課題への取り組みは徐々に活性化しています。インパクトファイナンスの今後への期待と関心の高まりを実感できる会となりました。

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