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日本のインパクト投資市場 「三方良し」で思考停止していないために必要なこと


P16_写真_青柳光昌

SIIF 専務理事 青柳光昌


金融商品も社会的価値を持たないと投資家から選ばれない

世界のインパクト投資市場はここ10年、右肩上がりに伸びてきましたが、日本もそのトレンドにようやく追いついてきたという実感があります。

そのきっかけの一つは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年にESG投資を始めたことでしょう。さらに中央省庁が旗を振って「ESG金融ハイレベル・パネル」を始めとした、この分野の勉強会や研究会を始めたことも大きいと思います。
SIIFでは「日本におけるインパクト投資の現状と課題 ―2020年度調査―」報告書をまとめましたが、調査のベースとなるアンケートの回収率も前年の2倍になりました。今回、初の試みとして、最大推計値2兆6400億円という数値も算出しています。これは「商品」として社会的インパクト評価の要素を含んでいるものをとらえた市場規模(ポテンシャル)ですが、少なくとも金融商品も社会的価値を持たないと、投資家や企業から選ばれなくなるという緊張感は高まっていると感じます。

2020年から始まった金融庁・GSG諮問委員会共催の「インパクト投資に関する勉強会」も毎回、約35名の委員の皆様と、100名近いオブザーバーが入り、熱が上がっています。勉強会でも当初はインパクト投資について、「ネガティブ・スクリーニング(望ましくない銘柄を除外)でよい」「(インパクトを追い求めて投資をすることは)受託者責任に反する」といった意見もありましたが、回を重ねるごとに理解と関心が深まり、「 IMM(Impact Measurement & Management・社会的インパクト評価・マネジメント)が重要である」というコンセンサスが徐々に醸成されつつあります。もちろん、それは単なる手法論にとどまらず、そこに魂が入っているのか。つまり、「誰が」「何のために」資金を使い、「その結果何が生まれるのか」――インパクト創出の意志(intentionality)を持って事業がなされているか、が重視されるべきだと私は考えています。


上場企業にも広がりはじめたインパクトファンド

 これまでインパクト投資というと、未上場企業やVCを中心に発展してきました。「ヘルスケアニューフロンティアファンド」の社会的インパクト評価や、「はたらくFUND」の組成は我々が担ってきたその事例の一つです。
特に前者は、もともとインパクト投資ファンドとしてのスタートしたわけではありませんでしたが、インパクトレポートを作成し公表したことで耳目を集めました。SIIFはこの2つにパートナーとして関わった経緯から、これまでに多くの企業や金融機関から相談やお声がけをいただいています。我々としては、皆さんのモデルとなるような質の高いインパクト投資の実例を一つでも多く出し、具体事例が分かるようにしていくことが財団の役割であると考えています。金融のプロが本気で取り組める土壌をつくっていきたいです。まだそれは登山で言えばの3合目あたりですが、エンジンがかかってきたという手応えを感じています。

そして、ここにきて上場株式・債券を通じた取り組みも始まっています。
4月15日に行われた第5回の「インパクト投資に関する勉強会」では、日本における上場株式/債券を通じたインパクト投資がテーマでしたが、りそなアセットマネジメントなどから事例の報告を聞き、改めてインパクト投資に対する考え方や問題意識が共有できていると実感しました。2013年からインパクト投資を推進してきた身として、ただただ純粋に嬉しかった。日本の大手金融機関がこれだけ本気でインパクト投資を始めたということの影響力は大きいと思います。こうした先駆例を持つ金融機関が今後のインパクト投資市場をリードしていくことになるでしょう。


「三方良し」で終わらせてはいけない

社会的インパクトの創出を求めるお金の流れが今後普及していくには、そのような資金を受け入れたいと望む企業(事業者)が増えることも重要です。日本の企業経営者は「三方よし」という言葉を好みます。でも、その言葉でインパクト投資をとらえようとするのは危険です。「誰の」「何が」「どう」良しなのか。インパクトを創出するという局面ではもっと具体的な検証が必要であり、どのような結果を生み出したのかを投資家をはじめとしたステークホルダーや世の中に発信しなくてはいけない。もはやなんとなく「三方よし」では納得されない時代なのです。検証の結果の情報を開示し、発信することがグローバルな投資家から選ばれることにつながります。「三方良し」という言葉に思考停止しないためにも、多くの事例を紐解き、国内での実証と分析を積み重ねていくことが今後も必要になっていくと思います。

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